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33 従魔師ロコ

第32話【狩りとか料理とか】の一部文面の変更。


「では、ラズリくんの登録を済ませるまでの間、この足枷をつけてもらえるかな? その足枷は、登録が完了したら外されるからね。


上記の文章を、下記の文章に変更しました。


「では、ラズリくんが街に滞在する間、この足枷をつけてもらえるかな? これは、街から出るときに、外せるからね。



「ぶえーん」


 クラウディアの腰に、しがみついている、ロコ。


「もう、どうしましょう(あ、鼻から赤い雫が)」


「ロコ、クラウディアさんがお困りですよ。なんなら、わたくしの方も空いておりますけどっ」


「二度と会えないわけではないから、ね。ほら、これで涙拭いて。うーん、困ったなー〈棒読み〉」


「あでぃがどー、ブビー」


「さすがにそれ、お宝とは言えないわね、プフッ」




 ピヨ。ピヨ。ピヨ。



「なんかノリで取り乱しでじばって、ずびまでんでした。ズッ」


 ロコは、ペッコリと頭を下げる。


「いいって、いいって、気にすんな。若いんだからよ、しようがねえ」


「バッカ、なんであんたがいうのよ。なにが若いんだからよ、だ。バカ」


「バカバカ言うなよ、マリッサぁ」



「あはは(カラダに引っ張られるって、こういう事なの? 冷静になると恥ずかしいわーっ。自分のことながら、まるで子どもみたいじゃない? ま、子どもなんだけどね)」



「登録の件、見届けてあげたいけど、わたしたちも仕事で来たからには、商売をしないとね。すまないが、あとはマリッサたちに任せるよ」



「そんなっ、エットーレさん、ここまで送っていただいただけでも、ありがたいですから、心から感謝ですよ。ありがとう御座いました」



「ロコくん、わたしたち、一週間ぐらいは仕事で滞在してるから、なにか困った事があったら、商人ギルドに来てね」



「はい、お世話になりました。それと、楽しかったです」

「チュイー」



「ラズリちゃん、またね」



「よし、そんじゃこっちは、とりあえず冒険者ギルドに行くとすっか?」



「はい、お願いします。

 それでは改めて、エットーレさん、クラウディアさん、本当にありがとう御座いました」


「わたくしからも、お礼を。お二人とも、大変お世話になりました」


「チュイチューイ!」



 そうして、二人と一匹が深々と頭を下げた。



    *



 商人組と別れた一行は、ラズリの飼獣登録をするため、まずは、冒険者ギルドへと足を運んでいた。


 年越しの祭り、しかも、百年に一度おこなわれる回帰の年という区切りの年、その祭りともあって、例年よりも盛況だ。


 村と比べても道幅は広く、本来なら脇道ですら、大型の馬車が優に通れるくらい余裕があるのだが、さすがの賑わいで、それも狭く感じるほどのヒトの多さである。


 混雑してるせいでもあるのか、行き交うヒトの、一行に向ける表情も険しいように見える。


「(やっぱりラズリを連れてちゃ、注目されるな)」


「あ! カルロ、馬」


「おっとと、ロコ、忘れてたぜ。ちょっと引き返そう。先に、その馬返しに行かねえとな。うっかりしてたぜ、かっはっは」


「ああ、そうか、ごめんなさい、ボクも慣れてなくて。ハハハ(ラズリじゃなかった。たしかに、この人出じゃ馬は邪魔だよね)」


「マリッサ、馬屋ってどこだ?」


「たしか、貸し馬屋は商人ギルドの裏側あたりだったよ」


「(えー、あんな別れかたしたのに、いま、顔合わせるのヤダー)」




 パッカポッコ、パッカポッコ。



「(お願い、居ないように……、って居るよね。こういう時に限って居るんだわあ。裏側だもん、そりゃ荷降ろししてるって、あ、こっち見た。クラウディアさん気づいちゃったね。うん、そういう顔になるのわかるよ、もう手え振っちゃお)」


 ドシンッ。「痛え」


 ロコが尻もちをついて、ぶつかったヒトを見上げる。


「ごめんなさい」


「気をつけろ、ガキが!」


「どうした、ロコ」

 カルロが相手を睨みつけながら、ロコとの間に立ち塞がる。


 倒れた拍子にマントが翻り、腰の革ベルトに差した小刀が(あらわ)になった。いつもなら背嚢に仕舞い込み、狩った獲物の解体くらいにしか使う出番はないのだが、最近、なにかと絡まれることも多く、護身用に腰に差してあった。


 マチェットもあるが、さすがにそれは子どもが持つには物騒過ぎて、逆に不審がられてしまうので、鞘の刺繍が少し派手だけど、威嚇も含めて帯剣していた。


「ん? おめえ、その短剣どこで」


「ちょっとあんた、いい大人が子どもに難癖つけるんじゃないよ。大丈夫かい、ロコ」


 マリッサが手を貸してロコを立たせる。



「チッ、なんでもねえ。ガキをしっかり見てろ、ババア」

 そう捨て台詞を残して、足早に雑踏の中へと消えた。



「バッ、ババッ」


「マリッサ、カワイイよ」


「な、なにを急に言って」

 顔を赤くして、あたふたするマリッサ。


「わるい言葉はね、良い言葉で打ち消すといいよ。って、かあさんが言ってた。(ん? かあさん? なに言ってるんだろう。まあいっか)マリッサは、カワイイ!」


「アハハ、もういいって、よしなよロコ。わかったから、それ以上言ったら、からだがムズがゆくなるよ」


「あははは、でもエルフで、あんな険しい顔してるヒトも、いるんだね。ボクはもっと、スンっと澄ました感じのヒトばかりかと思ってたよ(門で見かけたあのエルフとは、全然雰囲気が違ったなあ)」


「そりゃあどんな種族にも、ああいう輩は、いるもんさ。でもロコの言う『スン』っていうの、すっごくよく分かるよ、プッアハハハハハハ」


「でしょー」




 人混みの中に紛れて去ったはずの、目つきの悪いエルフが、ロコを盗み見していた。


「(あの短剣はたしか、()()()の……、だが何故あのガキが持ってやがる)」



    *



 施設などと呼べるほど、立派とは言えないが、冒険者ギルドの裏手にある鍛錬場にて、手合わせで使う木製の細長い棍棒を構えた大男と、対峙するロコの姿がある。


 ロコにはカラダに合わせてショートソードタイプの木剣が手渡されていて、普段使いのマチェットとは勝手が違い、少々扱いにくそうに構えている。



「いま、なぜこのような状況になっているのかと申しますと、わたくしたちはラズリの飼獣登録のため、冒険者ギルドへとやって来たのですが、飼獣であるという登録〈国が認めた犬の鑑札のようなものを受け取れる〉は出来ても、やはり従魔師の資格となると冒険者と同じく、十五才からの申請となるようでして、しかも、当然ではありますが、その資格がなくては公共の場でラズリを連れ歩くことは出来ないのです。


 これと言って良い案も浮かばず、皆で思案しておりましたところ、そこへたまたま低級回復薬の納品という、常設依頼の完遂報告にいらした御仁が、わたくしたちのために、ありがたくもご助言をくださいまして、その御仁が仰るには——



『これが冒険者認定ならば、規定の年齢(とし)になったらまた来いと言って話は終わりだ。しかし、従魔師ならどうだろう。それも、この少年のように、既に魔獣を使役している場合だ。


 先ほどから見ているが、その魔獣はヒトに慣れているようす。足枷にも嫌がらず、指示に従っておとなしい。


 管理できないと勝手に決めつけ、魔獣とはいえ生き物に変わりない。檻に閉じ込めて置くのも偲びないと思わないか。


 そもそも……。


 中略。(長いので割愛いたします)


 そばで聞いていたが、あと一つで十五なのだろう? 詐称は罪でも、その程度ならばと誤魔化しを考えることもあるだろう。そうはしなかった、この少年の正直さに免じて試験してみてはどうだろうか。


 それで駄目なら、この少年も諦めがつく事だろう』



『あ、終わりましたか。ニクスさんの仰りたいことは分かりました。確認を取って参りますので、皆さん、このままお待ちください』


——と、ギルドの職員を説得してくださり、今に至るわけで御座います」


「リィヤ? あなた誰に向かって話してるの?」


「さあ?」


「さあって」


「ロコ! 落ち着け」


「うん。(危なっ、年齢(とし)なんてバレやしないぜって、カルロの甘言に乗らなくて良かったわー)」



 この、目の前の大男が誰かというと、名をゲラルドといい、二足級で現役の、ベテラン冒険者らしい。ということなのでゲラルドさんは職員ではない。けれども時折ギルドから頼まれる形で新人教育もしているらしいので、急遽、試験官になってもらったわけだ。


 冒険者ギルドでは、朝と昼の一日二回に分けて新しい依頼が追加で張り出される。その朝の分で、割の良い依頼争奪戦に負け、昼の張り出しを待つべく、うろついていた冒険者たちが、暇つぶしに鍛錬場へと集まっていた。


 その群衆からは『ぶっ潰せ』やら『やっちまえ』など、物語りでよくある手荒いヤジは聞こえず『がんばれよ』などの、むしろ声援を送られ、ほっこり癒された気持ちになる。


 村での出来事で、ちょっとばかり濁ってしまった感情が、浄化された気がした。



「さて、始めようか。わしから一本、取るつもりで来なさい」


 そう言うと、先端に布をぐるぐると幾重にも巻いて括り付け、槍に見立てた訓練用の長い棍棒を構える。


「熟練のかたを相手に、一本とは手厳しいですね。ロコは、大丈夫でしょうか」


「うーん、勝敗をかけて試合うわけではないし、おそらく、それくらいの気概で来なさいってことでしょ。

 もしも、制御が効かなくなったとき、魔獣を押さえ込めるのかってところかな? 何をもって判断するかは、わたしも分からないけど、体捌きなんかを見て力量を測るとか? まあ心配しなくても、ロコなら大丈夫だと思うけどね」



「では来ないなら、こちらから行くぞ」と、律儀に声をかけてから、棍棒を突き出してくるゲラルド。


 何度目かに放った突きの動きに合わせて棍棒の脇をすり抜け、外側に向かってスルリと横滑りに避けながら間合いを詰めたロコが()を伸ばした。それに対して、ゲラルドは咄嗟にバックステップで下がり、ロコから距離を取る。


「(なんだ? 何をした)」と、瞬時戸惑うゲラルド。


 二人の試合をカルロは黙って見ていたが、ロコが間合いを詰めてゲラルドの()()()()()()ところで『そうくるかよ』と、つぶやきニヤリと笑った。


 気を取り直し、ゲラルドが棍棒で足払いをしてくる。ロコは身軽に飛び上がり、棍棒は空を切る。が、浮いたところを狙って横薙ぎにくるゲラルド。それを無理矢理カラダを反らせてロコが避けると、持ち手を捻り、反転させて、頭を目掛けた棍棒が振り下ろされる。


 着地と同時にロコはそれを受け止め、ハーフドワーフの腕力に物を言わせて、受けた体勢から強引に横へ逸らせる。掛けていた力の矛先を失い、ゲラルドは前のめりに一歩踏み出すと、その動作に合わせ、ロコはゲラルドの膝裏あたりに剣先を滑らせようとするが、()()()()だけで、今度は避けられてしまった。


「(む! なるほど、なかなかやりよる)」


 見物してた者たちからは『やったか?』だの『ああ、駄目かあ』と、それぞれ感想があがり。なかには思ったほど面白い見世物ではなかったのか、興味を失い、この場から立ち去る者もいる。


 しばらく睨み合いが続き、ゲラルドが突然、表情険しく猛烈な勢いで棍棒を繰り出し始めた。ロコはその連撃に、カラダを躱したり木剣で弾きながら、ただただやり過ごす。そんな攻防を暫し続けたあと、ピタリと攻撃を止め『ぶふぅ』と息を吐き、棍棒を下ろすゲラルド。



「いやまいった、わしの一本負けだ」


「はい、これまで! いいのですか? ゲラルドさん」


 審判を務めたギルド職員が、そう言って試合を止める。


「うむ、わしが一本先取と言ったようなもんだからな。どれを一本とするかは、わしが決めてもよかろう?


 いやはや、あの体勢から避けられるとは、柔らかいな。ただし、宙に避けるのはイカン。浮いて身動きが取れなければ、いい(まと)なだけだ。わるい癖だから、直したほうがいいぞ」


「はい、ご指導ありがとう御座いました」


「うむ、礼儀もわきまえとって、よろしい。気に入ったぞ! ぐわっははは」


「おもしれえもん見れたぜ」


「またね坊や」


「なかなか良かったぞ」


 そんな感じでロコに声をかけながらゾロゾロと解散していく冒険者たち。


「わたくしには、ロコが押されているように見えましたのに、いつの間に勝敗が決まったのでしょう?」


「あ、それな。はじめオッサンにロコが詰め寄ったろ。あれでオッサンの手首を切れたのは良かったが、次のはダメだったな。はじめが素手だったから、分かってもらえないと思ったか、次はロコが木剣で膝の裏を切ろうとしたんだが、さすがに嫌がられて避けられちまったな。かすりはしたが、ありゃあ浅すぎだろう」


「んー、サッパリ、分かりませんね」リィヤはキョトンとしている。



「うむ、その通り。狙った場所から察すると、おそらく失血させて弱らせるといったものだろう。まるで、狩られとる獲物の気分だわい。


 恥ずかしいことに、何を意図した攻撃なのか、はじめこそ気づけなかった。ちょうど今しがた、頃合い的にも血を失って、わしの動きが鈍くなっていたはずだ。


 無手だから油断した、短剣を持っていたならば避ける気にもなった、などとは言わん。刃物は隠し持つこともあろう。


 今頃とどめを刺されておるかも知れんのでな。潔く、わしの負けとしたわけだ。ぐわっはは」



「やるねー、ロコ」



「どうだろう、なぁギルド長よ。資格を取るに値すると、わしは思うが?」


 いつの間にか、群衆に混ざって観戦していたギルド長。


「まあ、その、いいでしょう。本来、十五才なら無試験で従魔師には成れますが、特例を認める口実も必要ですしね。それに、ニクスさんがギルドの事で口を出されるのも珍しいので、あれ? ニクスさんは? まったく、あのヒトは……。どうやら帰ってしまわれたようですね。ははは」


「無試験……ですか」


「ええ、魔獣が暴走せず、従える事ができているのであれば、試験の意味はないでしょう。まあ、街なかを歩くには当然、枷のような制限は必要ですがね。


 今までは、既に冒険者であったものが、剣士や弓士を名乗るのと同じように、従魔師を名乗っていましたのでね。飼獣登録は必要ですが、試験など有りませんでした。


 ですが、きみのような前例がでれば、今後は何か必要になるかも知れませんね。ところで、きみ、名前は?」



「ロコです」


「では、ロコくん。ノルヴィレジ冒険者ギルドのギルド長モーリスは、その権限と責任に於いてあなたが従魔師として名乗ることを許可します。

 みなさんの信用を裏切らないためにも、問題を起こさないように」



「ありがとう御座います!」


「まあ、この位の権限は持っていますので、ああ、そうだ。せっかくなので、冒険者が持つような札を作りましょう。ギルドが承認したという刻印魔法で印も入れますよ。

 ある意味、言い出したのはニクスさんなので、彼にも責任の一端を、負ってもらう事にしましょうかね。

 この街の冒険者ギルドの札は、ニクスさんのところで作ってもらっていますので、わたしが書く手紙を持って、ニクスさんが営む道具屋へ行き、認証札を作ってきてください。


 それと、これはあくまで従魔師としての認可であって、冒険者としては無資格なので、注意するように。冒険者になるのであれば、規定どおり、正式な試験を受けてくださいね」



    *



 晴れて、ラズリを連れ、街を歩けるようになったわけだけど。これで、わたしたちは旅の目的を一部達成したことになる。


 マリッサさんとカルロは、ギルドへの報告も済ませ、これから折り返しの警護まで休暇だと言って、お祭りを楽しむため、街の繁華街に繰り出して行った。


 一緒に来るかとカルロに誘われたけど、マリッサさんの表情を見たら、お邪魔しちゃわるいなと察し、認証札の事もあるので遠慮させてもらった。


 ということで、わたしたちはギルドで教わった道順と看板を頼りに、その道具屋へ向かって、街外れまで来ている。



「うーん」


「ロコ、どうしました? 皆さんと別れて寂しくなりましたか」


「うん、それもあるんだけどさ。ニクスって名前がね、どこかで聞いた覚えがあるなあって」


「有名なのでしょうかね」


「んー、わかんない」


「あ、あれではないでしょうか」


 リィヤが、前方に見える看板を指差し、紙に書かれた絵と看板を見比べてロコを先導する。


 ギルド職員からは、一人で営んでいると聞いている。店の外観は、有名なファンタジー映画に出てくる道具屋そのものといった、趣のある小ぢんまりした店構えだ。


 二人と一匹は、ドアベルを鳴らし、店の中へと入った。



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