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1 プロローグ

 初投稿です。


 小説と呼べるものか、わかりませんけれど書いてみたいという思いだけで書き始めました。


 誤字や脱字などその他おかしいと思う箇所もあるかも知れません。


 その辺りも含め、どうぞ温かい目でおつきあいくださいますよう、よろしくお願いします。






 ここに古くからの歴史をもつ、(ひと)つの国がある。

その名を神聖皇国テラ・アウレリアといい、初代の皇帝でもあるディアナ・アウレリウスが興した専制君主国である。


 その創国主の名を冠した首都、マグナ・ディアナにほど近い、街道沿いの小高い丘をめぐるように堅固な石造りの防壁があり、衛士たちが守る門扉を抜けると、そこには手入れの行き届いた緑豊かな大庭園が、奥へと広がる。


 中央にはバロック建築のような意匠を施した宮殿がそびえ、正面口の大階段(おおかいだん)へと、つらなるように石畳が敷かれ、そこには連日かわるがわる陳情にやって来る貴族やその使いを乗せた馬車が列をなしている。


 なかには、その列へ加わろうと貢物を運ぶ荷馬車などが、裏手に回れと叱責を受ける様子も、また近頃の日常となっていた。



 そんな喧騒を打ち破るように、一頭の早馬がパカラッパカココと蹄鉄で石畳を打ち鳴らし、慌ただしく到着する。






 視点は移り、宮殿に設けられた部屋のうち、屈強な近衛兵が扉の前を警らする、皇帝専用の執務室の中へと替わる。


 窓には手の込んだ刺繍入りのカーテンが下がり、そばに置かれた両袖机(りょうそでづくえ)は使い込まれ、その漆塗りにも似る艶の出た風合いが、この部屋を豪奢というより上品な、落ち着いた雰囲気で満たしているようだ。


 その脇では精妙な細工が施されている、高く伸びた背もたれの木製椅子に座り、背すじを伸ばしてお茶を飲んでいる、ひんのある澄まし顔の可憐な少女、現皇帝であるフィオレンツァ・イシス・アウレリウスの居姿があった。



 そこから少し離れて直立している青年男性は、一見細身に見えるが、それでいて、ほどよく筋肉の付いた体躯をしており日々の鍛練が窺える。


 公爵家当主であり、皇帝フィオレンツァの従兄でもあるセヴェルス・セト・ファビウス。若くして、この国の宰相を務めている。


 その凛々しくも端整な顔立ちは、壁掛けの肖像画に見る初代の女帝をも思わせる眉目秀麗さである。



 そんな宰相の御尊容に接したいと、半ば不順な動機で宮殿詰めの侍女を希望する、花嫁修業の公女らがあとを絶たず、その対応で仕事にならないと愚痴をこぼす、人事を任されている執事長に同情の声も集まる。


 給仕が終えるのを待ち、しばらく下がって良いと申しつけるフィオレンツァ。


 執事長が恭しくお辞儀をしたあと侍女ら共ども退室するのを見届け、お茶を一口飲んで、ちいさく息を吐くとティーカップを置いた。


 机上には、いかにもといった欧州あたりの時代劇に登場しそうな、インク壺とペン差しの羽ペン。


 その横に視線を向けると、この厳粛な場に相応しい雰囲気ではあるけれど、用法のファンタジー要素が、ある意味不釣り合いとも言える、握り手が瑠璃色の宝石などで装飾されている短尺の杖がある。


 そして傍らには先刻来た早馬の使者が届けたものであろう、開封検知型の封蝋魔法(ふうろうまほう)を解いた密書が開き置かれている。


 そこには新興国であるカーツベルク帝国に忍ばせた間者から、かの国で二例目となる流魂(るこん)の召喚に成功したと術式の委細と共に報告がされていた。


「どうやら思わしくない状況になりつつあるようですね」



「はい、帝国は術式を確立したものと思われた方がよろしいかと存じます。


 そのうえ、報告どおりであれば、単独で龍を狩れたという事になります。幼生体ではあったようですが、それでも亜竜などではなく、龍なのです。これはもはや脅威の他ありません。


 これまでも周辺にあった集落を、ていのいい併合という侵略で領土を肥大化させてきた帝国が、近隣諸国をのみ込み、より一層の大国へと成長すれば、わが国にとっても脅威と成り得ます。


 上級貴族のなかにも侵攻を懸念する声が出始めております」




「そのようですね。


 兆しなく先代様が突如お隠れになったとはいえ、今のわたくしでは玉座を占むる者として寡聞(かぶん)にして不足なのは自覚しています。


 ゆえに、陰で若輩とそしられ、諸侯らを御する事もできず忸怩(じくじ)たる思いですが、己の未熟さを嘆く時でもありません。


 国が落ち着かない今、帝国に於いては最も処遇に苦慮する事案となるでしょう」




「申し訳ございません。

 わたくしめの力が足りず、陛下にその様な思いをさせてしまい心苦しいかぎりで御座います。


 さきも述べました通り、帝国は建国以来、声高に西側統一と謳っております。このまま放っておけば、力を付けるに従い、わが国にもいずれ食指が動くかも知れません。


 既に塩を運ぶ、一部の商人たちから、帝国に雇われたと疑わしき賊の被害にあったと、こちらに報告も上がって来ております」



「確としたものはありますか?」



「今のところ確証はございません。おそらくは幾人もの人を介し、領境をうろつくゴロツキどもを使うなどして巧妙に隠しているので御座いましょう。


 捕らえた賊を尋問してみましても、おおもとの雇い主まで辿ることは出来ておりません。


 しかし、賊を先導した者の何人かの話し言葉に、僅かですが、帝国地方の訛りがあると取り調べの者は申しております」




「そうですか。確証も無く抗議すれば、ここぞとばかりに難癖をつけ、攻め入る口実に火種を起こそうと画策するでしょう。」




「左様にございます。

 特に今年は百年に一度の回帰の年、祭りの準備で周辺各国から多くの商人が出入りしておりますので、監視を強化しても十分とは言えない状況です」



「そうでしたね。このような時節に、(みな)には重ねて苦労を掛けます」



 王に成って日が浅いフィオレンツァ。それらしく威厳を示し、指図しようと立ち上がりはしてみたけれども、セヴェルスの目線に背が届かず、机を挟んで向き合う形になって見上げてしまう。


 そこで、一度は背伸びをするように胸を張って何かを口にしかけたのだが、椅子に座り直し、咳ばらいを(ひと)つするにとどめて話しを続けた。



「ならば、やはりこちらも早急に召喚魔法を成功させ、帝国への抑止力として傀儡の兵を揃え、より強力な武力を見せることが最良と考えます。


 以上をもって軍備を整え、先ごろの蹉跌にも臆することなく、いま一度、流浪の魂を異界から見事呼び寄せ、帝国のみならず仮想敵国全体に向け、わが領土への侵攻が、いかに利のない事であるかを知らしめるのです」



 そうひと息に指図すると緊張から解かれ、今のはうまく言い切れたと内心で自賛して、ひと仕事終えたことに表情が緩んでしまう。その様子からは、まだまだ君主としての振る舞いが板に付いていないようだ。




「陛下、僭越ながら申し上げます。

 わがアウレリアの強みであるゴーレム兵の増強もあわせて行なうのは、いかがに御座いましょうか。短い期間にて、ことを為すには幾分困難かと思われますので」




「わかっています」

 そうこぼすように呟くと、指示してすぐに意見されたことで、いくらか頬を膨らませたが、それもつかのま、幼い態度を取ってしまった照れをごまかすように立ち上がり、窓の方へと向かった。



 セヴェルスは、それを静かに見送りながら、やや頭を下げ、女王が発する次の言葉を待つ。


 窓際に立ち、しばらく思いを巡らせるフィオレンツァ。



「ファビウス卿の言うことも理解しています。ですが、そうとしても使用できず残してしまった器である、ホムンクルスも捨て置けません。


 いくら状態保存(プリザーヴ)の魔法を掛けた部屋に置いてあるとしても、魂魄(こんぱく)が合わぬままでは長くはもたないでしょう。


 そして、このような魔法は貴卿も知るように膨大な魔力を必要とします。ゴーレム兵にも上級魔法を扱う人員を割けば、いずれ空間を維持できず腐らせる事にも繋がりましょう。


 そうなってはまた(いち)から器を造り出すことになり、いたずらに苦労を重ねるだけです」




「面目次第もありません」

 セヴェルスは依然頭を下げたまま、言葉を続ける。

「既に、他の者の報告にてご存知の通り、こたびの失態について、言い訳と捉えられても致し方ないのですが……やはりわたくしからも、直接陛下にご説明申し上げたく思っておりました」



「言い訳などとそのような……。わたくしは、兄様がたの失態であるなどとは考えておりません。非があるというのなら、わたくしにも」



「陛下。どこに耳がないともかぎりません。気弱と付け入る者も現れます」



「たしかに、軽率な発言でした。では、あらためて詳細を聞きましょう」



「召喚魔法を使ったホムンクルスの兵士は、強力とはいえ博打のようなものです。ゴーレムに比べて負の側面もあり、この数百年ほどは行なわれておりませんでした」



「ええ、現在では史実を疑う者もいるようですね」



「はい、それゆえ伝承に頼ることとなり、召喚の術法は試みたものの正確さに欠き、わたくしども魔法師らの浅慮と経験不足から目算を誤っておりました。


 われらの思い上がりから過小な予測をたて、それを優に上回る魔力を必要としたことで、呼び寄せに用意した魔素の枯渇を招き補充にも手間取り、よって道筋が寸刻途切れてしまったことで引き寄せきれなかったものと愚考しております」



「わが国、随一の魔法師と称えられる貴卿を未熟とするならば、では、誰に託せば良いと言えるのか、わたくしには見当もつきません」



「勿体なき御言葉、望外の喜びでございます。

 ただ、再び召喚を行おうにも、必要な材料が足りておりません。


 目下、近衛の方で選りすぐりの精鋭四班から成る、小隊計三十八名に集めさせておりますが、素材の(ひと)つである亜竜を狩れても、極大な魔精石が必ずしも有るわけではなく、その希少性ゆえに進捗はかんばしくないとの報告も受けております」



「我が国に在住している冒険者たちにも依頼はしているのでしょうか?」



「はい、各領地のギルドに優先依頼という形で要請しております。


 亜竜の討伐は、二足級以上が複数のパーティで行なうもの、というのが定石となっているとは申しましても、時期にもよることですが、手が余ってさえいれば龍とは違い、そう難しい依頼でもありません。


 しかしながら冒険者稼業とは自由なものでもあり、特に少人数で挑めるほど腕の立つ二翼級(によくきゅう)の高位ともなれば尚更強要も出来ませんので、すぐに集まるのかと聞かれれば、いかんともし難いところで御座います」




「わかりました。冒険者という性質上、一つのところに縛ることは出来ません。けれど、(たみ)と同様に彼らも大事な存在なのは変わりありません」



「御意にございます。

 正直を申しますと、魔物の間引きを始め、各種薬材の調達などその経済活動は多岐にわたり、領土の繁栄にも必要不可欠であり、無理強いをして他国に移住される事は避けねばなりません」



「重責を継いださなか、あのような帝国の報を受け気が急いていました。では、探索の兵を増員する方向で調整するように」



「は、かしこまりました」



「わたくしは、まだまだ思慮が足りていない未熟な君主です。ファビウス卿の、賢明な助言にいつも助けられる事は多く、感謝をしています」

 フィオレンツァは、小さくあたまを振りながら自信なさげにそう言った。



「この身を頼りにしていただける事は喜びであり、ましてやそのような御言葉も賜わり、陛下のお心づかいに痛み入る思いで御座います。


 しかしながら、陛下におかれましては、連日、謁見のお役目にてお疲れのご様子。妻ドミティアも、陛下の御からだを心配しておりました。


 このような時になどとおっしゃらず、ひなかとて、ひとときでも、ごゆっくりなされます事を願います」



 慈愛に満ちたまなざしで気づかいを見せるが、すぐに切り替え、脚を揃えて左胸に手を当てると、頭を下げて退室の意を示すセヴェルス。



「またドミーの焼いた美味しい焼き菓子を食べながら、お国の話を聞きたいものです。


 セルヴィ兄様(にいさま)

 宰相として今後も国の支えとなって下さいね。わたくしも、より良い治国に励みましょう」


 胸の前で両手の指を絡め、手のひらを合わせた恰好でフィオレンツァは祈るように言った。


(たみ)()()()()のご加護がありますように」



「御意にございます。では、諸々作業を急ぐよう、指示して参ります」

 セヴェルスは軽くお辞儀をして扉に向かう。



 退室するのを、視線で見送るフィオレンツァの表情は憂いて重く。それを振り払うように、締め切っていた窓を開け放つ。


『わたくしの代で、この国を終わらせるようなことがあっては、初代ディアナ様や歴代の王たちに申し訳が立ちませんね』


 そうひとり、心に思うのであった。



 宰相の退室を待っていたかのように、ノックの音が鳴り、扉の向こうから、謁見の時刻が迫っており、準備のため、侍女たちの入室をご許可いただきたいと、執事長からの申し入れがあった。


 フィオレンツァがそれに許可をすると、両手で持った盆に、替えの衣装やなにやらを乗せて、ゾロゾロと侍女たちが入室してくる。


 御着替えを始めさせていただきますと、いま開けた窓は閉じられ、明かり取り窓以外のカーテンも下ろされてしまい、パーテーションでぐるりと周りを囲まれる。


 ため息をつき「焼き菓子食べたい」と、小声でつぶやいたフィオレンツァの姿に、侍女たちはみな不敬と知りつつ、愛しい思いでいっぱいになるのであった。





 設定のようなものなので、たぶん読まなくても大丈夫だと思います。


 以降、補足です。


◇封蝋魔法〈ふうろうまほう〉◇

 予め登録した魔素認証以外で開封すると、文字が消失したり文面が変わる魔法。


◇魔素認証◇

 静脈認証や虹彩認証の類いだと思って、フワッと流してください。


◇状態保存〈プリザーヴ〉◇

 空間魔法の中の一種で、文字通り現在の状態を保存維持する上級魔法の扱いです。

 時間停止ではなく、腐りや劣化を極限に遅延させることであって静物のみに有効なものとして考えています。

 魔法名が付いたものは、のちにも使うかなという程度の意味合いなんですけれども思いつきで書いちゃいました。


◇魔精石〈ませいせき〉◇

 胆汁を溜める胆のうが有るようにアサルアムンに生息する多くのものに魔のうが有り、体内で作られた魔素は、一時、魔のうに濃縮して溜められるが何らかの要因で結石化したものが魔精石である。


 ちいさな内なら糞尿で排出されるが、とどまって詰まると魔精石が大きくなるにつれ、痛みを伴うようになり、それに比例して好戦的な魔物以外でも凶暴になる場合がある。


 用途は濃縮された魔素の塊なので、魔道具を動かすバッテリーとして使用するか、杖に付属させ威力を高める触媒の役割とするなどの他、魔法そのものを撃てる魔法道具に使用する事もある。


 人族にできる小粒の魔精石は、あえて殺人を犯してまで手に入れる価値は、見いだせないくらいの魔素の蓄積値で、亡くなった身内の者や親しい者が形見で身に付ける程度。ロコが両方の耳につけている。




 なお、魔素を作り出す器官の話は、幾話かあとに出す予定です。一部出した冒険者ギルドの階級の話も、その辺りになると思います。


 あとがきに書いていいのかわかりませんけれど、作中の補足をたまに書きます。


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