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18 結界 2



 ということで、朝です。


 スプレムータ湖です。


 清涼な空気に満たされた湖畔、実に清々しい場所ですね。


 ズコット山の雪解け水が染み込んだであろう地下水が、こんこんと湧き出るこの湖は、近場に生息するあらゆる生きものたちの、命の水となっております。


 勿論わたしも例に漏れず、生活用水として活用してますよ。


 もう慣れたとはいえね、毎日のように水を汲みに往復するのは結構な労働で、おかげで良い訓練になりました。


 湖を利用する生きものたちは、みんなこの場に居るあいだは争わないという事が不文律になっていて、食う側も食われる側も、たとえ、隣合わせになったとしても、大人しくここを使うのですよ。


 貴重な水源を汚さないためだろうね。えらいぞ。


 かくいうわたしも、始めの頃こそジョウゴを持つ手も震え、キョドる自分に活を入れつつ水を汲み、恐る恐る樽を運んでたけれども。


 いまではほうらこの通り、見てよ、この堂々たる振る舞い。ここの風景にも見事に溶け込んでるでしょう。


 ハ? 手桶から水が零れてる? そんなことはない、たかがルプスコルヌの群れがわたしを囲んで水を飲んでるってだけでしょ。


 ちょっとキミ、匂いを嗅がないでくださいね。


 そんなまさか、ビビってなんかないってば。

 その程度でおじけづいてちゃ、生きていけないからね、余裕ですよ、余裕。


 いいな、騒ぐなよ、フリじゃないぞ。


 おい、そこー! そこの猿どもっ、こらバカ猿!

 喧嘩をするんじゃない、騒ぐなー、散れったら、散れえ。


 もうほんと碌なことしないな、あいつら。

奴らに秩序ってものはないのか、危ないったらないよ、ったく。


 はい、狼さん、あなたたちもピリピリするのは、やめましょうねえ。


「ふう」

 しかし昨日までと違うのは、亜空間収納が使えるようになったところだね。いくらでも好きなだけ水を汲んでいけるよ。


 あ、いや、多めには汲んでいくけどさ、自主規制はしますよ、みんなの水だからね。


 まだ気軽に釣り糸を垂れる度胸はないから、そそくさと樽を収納したらこの場をあとにする。


 たまには魚も食べたいからね、いつか釣りに来れたらいいな。



    * * *



 さて、向かいに見えてた洞窟に到着したけれど、近くに来て分かったのは、ここが自然に出来上がった洞窟ではなかったということ。


 ツルハシのようなものが、洞窟の入り口に立てかけてあったりするのを見て取れば、採掘でもしていたのか。


 ほかにも道具類が、壊れて打ち捨てられた様子からは、使用者が居なくなり、永く日が経ってることを教えてくれる。


 ちょっと洞窟の中を覗いてみても、暗くて先があまり見えない。


 坑道には鉱石を運ぶトロッコや、レールなんかも見当たらないところから、試しぼりをして目当ての物は無いと判断したのか、大して深く掘り進まない内に放棄した感がある。


 しかし、はたして道具類を散乱させたままで放棄するものかと考えたら、魔物に襲われて、急遽逃げ出した線もあるなと思ってもみる。


 それとも出掛けた先で、ここへ戻れない理由が出来たとか、色々考えてみたけど答えなど出るはずもない。


 とにかく灯りがない事には奥に進むことも出来ないので、最近当たり前のように呼んでる、オークス先生にアドバイスを求める。


 ほんとに便利すぎるんだけど。

 いつまでチュートリアルと言って付き合ってくれるのかね。


 オークスに話して気づかれちゃうとアレなんで、今はまだそこに触れないようにして頼らせて貰ってる。


 もうしばらく、お願いしますよオークス先生。


    *


 小屋を建てる前に見たログハウスの作り方。


 結局、つくりはしなかったけれどガラスの製造。


 日干し煉瓦の製作手順に、その煉瓦の接着用の泥を作ったときに見せてくれた組成構造体など、かずかずの映像に助けられている。


 今度も灯りをともす何かを作れたらなと、手助けしてもらう事にした。


 洞窟内で松明を使うのは、あまり宜しく無いとかいうのを何かで読んだ事があるので、燃やす以外でヒントになるものを頼んでみる。


 なので、物理とかもう忘れたってもんじゃないくらい、記憶の片隅にもございませんけど、せっかくなんで、魔法らしく励起だの基底だのと、すったもんだとやっていきたいと思う次第なのです。


 何か光源になるものがあればと、光る系のものを中心に、いろいろとそれっぽい映像にしてもらった。


 ほうほう、なるほどなー、ふむふむ、これもいいけどそっちもいいねえ、などと思案する。


 タイプを変えたら、狩りにも転用できそうだ。



 まずは基本動作から練習。


 以前、塵を混ぜて視覚化した風船を作った要領で、なかを空洞にした魔素ボールを手のひらの上に乗せ、そのなかで空気を回転させることを試みる。


 なかの動きも分かりにくいと思うので、少量の砂つぶを入れておく。


 ボールのなかの魔素に干渉して、空気の回転を促す。


 促すと簡単に言ってはみるが、なかの空気を扇ぐわけでもなく、どうイメージして干渉すれば、思う方向に運動エネルギーを作用させて、回転するように仕向けるのか。


 謎だ謎すぎる。ここは考えては駄目なところだ。どうすればいいのか要領がわからず、とにかくなかに矢印のようなものを、思い描いて念じるのみ。至極真面目に波動を送るふうにしてみる。


 ふざけた原理に笑ってしまうが、回ってしまうのだからしょうがない。これはこれで受け入れるしかないのだ。


 砂つぶを見ると空気が回転している様子がわかり、自然に乱回転しているようで都合もよく、むしろ、一定の向きに回し続けるほうが難しいと感じたくらい。


 なかの回転する空気にはじかれて、砂つぶの反射が多くなり乱反射しているようにも見える。


 そのまま続けて、そのボールの外周を、さらに魔素を充填した膜で覆い、下のボールを引っ張るようなイメージで、外側の魔素を操作する。


 なか側が膨張して、霜が砂つぶにまとわりついて結晶のようになり、心なしか冷たさも伝わってくるようだ。実際は外側の膜が阻害して冷たくはない。なので、そう感じるだけだ。


 この状態を続けても変化がなさそうだったので、芯の方の空気を少しずつ抜いて、魔素の割合を多くしていく。


 おお? 目を凝らしてよく見ると、なんだかボールに入れた霜つきの砂つぶが、互いに交差する時にパチパチ鳴ってる気がしないか? 静電気だろうか。


 圧壊によってか、摩擦なのか、どの現象で発光してる? とにかく発光が見られる。


 時おりひかる青白い光が、方向も定まらず、残像でグルグルと、複雑に回っているように見える。


 ん? んん? なんだこれ、この感じ、どこかで見た光景なんだけど。


 こ、これはもしや、らせん……、い、いやあ、きっとわたしの思い違いだろう。


 なにはともあれ。

「いい具合い、これでやれそうだ」


 作業を一旦やめて、なかに入れる砂つぶを増やしてみた。はじめからの手順を繰り返し、引張力を作用させるところまで持っていく。


 すると「バチバチバチ」と鳴った音と共に、まばゆい光の明滅が起こり、グルグル、グルグルと回った。成功したのかな?



 事のとっかかりとしては、自然科学、物理化学の知識が役立つんだろうけど、なにせ謎のチカラが働いてたりするからね、結局のところ魔法ってわかんないって感じだけど。


 常識外の事をいくら考えても仕方がないので、できたのならそれが答えということで納得しておこう。そうしよう。


 魔力の増減をうまく使って、引っぱってゆるめて引っぱってゆるめての間隔をせばめて、光る状態が長くなっているように錯覚させる。


「やった、できたかも」


「おめでとう御座います、ロコ」


「ありがとう、オークス。

 あれ? いつから見てた? もう戻ったのかと思ってた、まいっか。


 オークスのお陰だよ、なんだか初めて、まともに魔法が成功した気分だ」



「わたくしも、お役にたてて大変うれしいです」



「名づけて砂塵嵐ふう、ライトニングボール、なんちゃって」


 ロコは、かなり浮かれているようだ。


 そして、そのままの状態を維持できるのか、しばらく様子見してから、ロコは洞窟の中に足を踏み入れた。


「ジジジジ」と鳴り、ライトニングボールが光を放ち、身の回り近辺が明るく照らされる。


 元来、小心者であるわたしは、かすかに物音がすればビクっとし、顔にそよと風が当たればドキっとしながら洞窟を奥へと進み続けた。


 最悪、魔物が棲みついていれば、戦闘になるだろうと覚悟していたが、そんなことは起こらず。


 道中、バケツのような物が落ちていたりするだけの道行き。


 なにやらゴリっと踏みしだいた足下を見ても、知識のないわたしには、用途のわからない、朽ちた道具が落ちているだけで、拍子抜けするくらいに何事もない。


 洞窟の外から入る間接光も届かなくなり、ライトニングボールの光だけになった頃、突然暗闇の奥から「バサバサバサッ」という羽音と「キュッキュ」という鳴き声が聞こえた。


「うわーっ」


 油断した。ライトニングボールも消し飛んでしまった。


 ホラー映画のように、もうなにも無いかなと思わせたあとで、ドーンみたいなやつ。


 もう驚き過ぎて、こんなビックリ顔になって、恥ずかしいよ、真っ暗で伝わらないだろうけど。


 一旦、落ち着こう。


 もう一度ライトニングボールを点けて「点かない」焦る。


 洞窟内の土が湿っていて、ぬかるんでるから砂がない。空気が乾燥してないから塵も舞ってない。


 とにかく洞窟を出よう。


 一本道だったはず。


 壁を伝っていけば大丈夫だ。壁を手でさわるの、なんかやだな。ぬるぬるだ。


 はやくはやく。



    *



「アーハハハハハハ」


 なんとか転げ出た。


 暗闇だ、真っ暗闇だ。


 自分のからだも見えないって不安しかない、怖すぎて笑いが出た。


 なんだろう、何が居たのかサッパリわからない。コウモリとか?


 「わー、ドキドキいってるよ、なんにもなかった、もっと奥まで進めば、なにか見つかったかな? いや何もないだろう、そうに決まってる、もう何もないって事にしよう」


 しかし、まったくの無駄でもなかった。


 ライトニングボールっていう、収穫はあったんだから、もう、おうち帰ろう。


 帰ってあったかいお風呂に入ろう。


 地面が泥だらけだったから、尻もちついてビチャビチャだよ。







 ぴよ。ぴよ。ぴよ。



 「おうふ、あああああ」

 やっぱりお風呂はいいよねえ。


 マジ作って正解だった、エライぞわたし。


 それにしても、さっきのやつはコウモリかなにかだったのかな。


「オークスさん、プクプクプク」


「ロコ、こんなシチュでわたくしを呼んで、いったい何をやらせたいというのです?」


「いや、そういうのいいんで」


「あら、そうですか? わたくしもそうそう暇ではないのですから、手短にお願いいたしますね」


「あ、ああ、ごめん。あのさ、わたしの情報から、さっき洞窟内で遭遇した生物の検索って、できるのかな?」


「フッ、わたくしにかかればそのような些事、お茶の子さいさいなのですわ!」


「そんなのばっかり、増えてくよね」


「ロコの知識内を検索します……該当、合致ゼロ、類似多数、コウモリなるものに近い生物と肯定します」


「早い! さすがのオークスですね、めちゃくちゃ助かります、ありがとう」


「フフ、ではロコ。通常業務がございますので、わたくしはこれで」


「はーい」


 結局、洞窟まで行って何をしてきたんだか。


「あ、そうだ、気分転換に行ったんだっけ。

 たしかに気分転換にはなったかな、ハハ」


 暗闇からコウモリって心臓にわるいよ。


 さびれた観光地のホラーハウスだよ。


 コウモリかあ。


 むかし、父方の田舎へ行ったとき、家を継いだ父の兄、つまりわたしにとっての叔父が、夕方になると近くを飛び回るコウモリを指さし、わたしに見ているように告げると、『ほらな、当たらない』と石を投げつけながら、なぜか自慢げだった記憶がよみがえる。


 まあ、そもそも空を高速で飛んでいるような生き物に、ひょいと投げた石が当たるかって話なわけで、ねが純粋だったわたしは『わあ、ほんとだ! 叔父さん、すごーい』などと妙に感心していたものだ。


 ふふ、わたしったらカワイイなあ。


 あれってたしか、エコーロケーションとかいうものだったような。


 ああ、そうだ、またひとつ思い出したと、ひとり連鎖反応して記憶が呼び起こされる。


 今しがた叔父のことを思い出したように、一度以前にも同じことが起こって、ネットでエコーロケーション、反響定位を調べたことがあった。ということを思い出した。


 どこだったか大学の研究チームで、人がエコーロケーションを使うとどういう現象が起こるかという研究を、一般の視覚を持つ人と、そうではない人との両方でおこない、いずれに於いても差はなく、高い能力の習得が認められたという記事をみたのだ。


 ここで言いたいのは、視覚を失ったことで、それ以外の感覚が鋭くなった人の特殊能力ではなくて、一般の人でもエコーロケーションを使えるんだってところ、つまり訓練次第でわたしにだってできるということ。


 そして当然ここは魔法だろう。魔法でエコーロケーションだ。


「あ!」


 そしてまたまた思い出した、今日は連鎖祭りだ。


 逆に忘れっぽいともいうんだけどね。


 オークスから、この惑星(ほし)の成り立ちを聞いた際、大気中の魔素に対抗するのに、動植物たちも魔素がつくれるようになったと話してた。この世界の基本的なお話。


 どうしてそんな簡単なことに気がつけなかったんだろう。もしや何者かがわたしの成長を妨害しているに違いない。違うか。カッカカカ。


 たぶん、この世界の魔法使いたちは、離れた場所へ魔法を発現させるときは、空気中の魔素に自分の魔素を乗せるか混ぜるかして、干渉する方法をとってたんだな。


 空気が振動して音が伝わるように、自分の魔素も空気中の魔素を渡り歩くというか、それに乗って伝播するっていうか、うまく言えないけど、エコーロケーションのように魔素が波紋で広がるイメージかね?


 わたしにできるかどうかは別として、やりたい事は決まった。ならやってみようじゃないの。




 次回予告。


 なぐり書きのストックが終わりました。

 おそらく、ちょっと空くでしょう。


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