15 定番のアレ 2
この先、話を書いていけば、いつか辻褄の合わない箇所が出そうなので「3召喚2」の、一部冗長だった箇所を修正したついでに途中の文面も僅かに変更しました。
単なる自己満足なので、気になる方のみ読み直していただいて、そうでない方は、いつか「あれ?」となったとき、この事を思い出していただければ宜しいかと思います。
「成功したようですね。文字は記憶しましたか?」
「ん、たぶん」
「それがロコの作成した、空間にアクセスするためのアドレスになります。
認証は精気の波動を受動的に読み取ります。
ですから、アドレスを知られてしまっても、波動が違えば接続できませんので、本人のみアクセス可能となります。
このあと細かく設定をするのですが、亜空間の新規作成と同様に、全てがカラの状態ならば再構成ができます。
失敗などは気にせず、どのように収納物を配置し、出し入れするのかをイメージしてから、再接続を行なってください。
魔素の消費も小さく、回復量と相殺されているので問題は無いようですね。
ですが、容量をご自分の能力以上に増やし過ぎると空間を維持できず、ところ構わず中身をばら撒くということにもなりますので注意が必要です。
倦怠感などの身体的な変化に負担などは感じますか?」
「んー、なんだろ、強いて言えば飲み屋さんで、会社のセンパイと会話中、ずっとちいさいほうを我慢してて、センパイが追加のメニューを注文するタイミングで、店員さんを呼んだとき、いまだ! って席を立ってトイレに駆け込んで用を足した直後、のような感じかな?」
「その表現は理解し兼ねますが、ロコのバイタルから、特に日常過ごす上で問題ないと判断します。
試しに、その木皿を収納してみては、いかがでしょうか」
収納のイメージね、どんな感じの収納にしようか。
やっぱり利便性が高い方が使い易いよね、どこに何を入れたか分かった方がいいかな。
ステータス画面みたいなものが有れば、PCゲーム風インベントリを想像すればいいけれど。
うむ、よし決めた。
あれの中の映像をテレビの紹介で始めて見た時は、未来っぽくてかなり驚いたけれど、あれがいい、主要駅周辺によくある地下収納の機械式駐輪場。
入り口に自転車を置くとシュッと飲み込まれて、円筒形に配置された棚の内側を昇降してスッと収まるやつ。あれカッコイイよね。外から見えないけど。
いいね、イメージが膨らんできたぞ。
その円筒形の塔を何本か建てよう、そうだクリスタルみたいな質感がいいな、なんとなくその方が綺麗だし。
あくまでこういう風に収めるよっていう、ルール作りをイメージにして思い描くわけだから、実際に塔を作るでもないし、クリスタルとか言っても、自分の目で見て確かめられはしないけれどね。
いいじゃないか気分だよ気分。そういうのも大事でしょ。
それと、中で物の移動ができるように、隣あった塔の動線もつながっている方が都合がいいだろう。
あとはそうだな、どこに何を入れたのか、わたしは忘れっぽいからね。塔の天辺に置いた大型ビジョンにサムネイルを映しだそう。
収納する時点で自動的にリストへ追加、亜空間に接続した際、その映像がわたしに飛ぶようにもしておこうかな。
と、こんなもんでいいだろう。
早速追加した仕様で、接続し直してみた。
空間に亀裂が入ったそこへ、機械式駐輪場に自転車が吸い込まれる様子を思い浮かべて木皿を近づけた瞬間、切り裂けた間口が広がり、それは吸い込まれ……ないだと?
間口に近づけても木皿は微動だにせず手のひらに乗ったままだ。
「どういうこと?」
「分析中です。しばらくお待ちください……
どうやらロコが、こんにちまで培った経験による常識感覚が邪魔をしているようです」
「ブッ、原因、自分じゃないのよ。助けてオークスせんせー」
「誰がせんせいですか、フフ、まったく仕様のない子ですね。
良いでしょう、せんせいに任せてください」
さっすが頼りになる。しばらく待つと、オークスが修正パッチをインストールしたと言うので、再度挑戦した。
何が変わったのかは、一切わからないが、今度は不思議と素直にそういうものだからと思えた。
自然な振る舞いで、間口に木皿を近づける。
その瞬間、パッと手のひらから、開いた空間の、光るモヤモヤに、シュッと木皿が吸い込まれた。
ちょっとビビって「キャッ」とか、乙女チックな声が漏れる。誰も見てないのに、変なポーズをして誤魔化した。なかなか男の子はむずかしい。
「ではそれを、一旦閉じて、少し離れた場所に移動してください。
もう少し、はい、いいでしょう、そこでもう一度、開いて取り出してみましょう」
わたしはオークスに言われるまま、閉じたばかりの空間を開いた。
すると、またまた光る文字が浮かんでは消えて、そのあたりがスッと縦に切り裂けた。
手を近づけると、亜空間のなかで自分がイメージした通りに無色透明の円筒形をした収納棚が感じられ、塔のように立ち並ぶその光景が脳内に伝わってきて、しっかり反映されてるのがわかる。
「よし、リストもちゃんと機能したみたいだ」
先ほど入れた、カラの木皿を頭に思い浮かべると、いくつか有る塔のなかで、一点の、青く光る箇所があり、同時にリストの点滅しているそれを選択して、手元に引き寄せるように念じてみる。
すると木皿が手に乗る感触がした。
受け手の位置を、どうやって割り出してるのかなんて、考えだしたら眠れない夜が続いてしまうので気にしないでおこう。
「おおぉ」できたよできた。アイテムボックスの手軽さはないけど、この容量なら十分凄いだろう。
本格的に、異世界のファンタジーらしい空想科学を目の当たりにして、テンションも爆上がりだ。
「オークスこれって、間口はどのくらいの大きさイケるの?」
「お答えしましょう。間口の広さですが、作成者の、からだに纏う魔素の膜の大きさを自動で感知するので、それに起因します。
容量は、作成時に使用した魔素の総量が最大の要素になりますが、上級者であれば、あえて少ない容量の空間をいくつか作り、用途によって使い分ける。という事もあるようです。一旦、破棄いたしますか?」
ふーん、そういうのも有りなのか。
まあ、それなら偶然、塔を何本か建てたから、種類を分けて収納すればいいだろう。
そう多くはアドレスも覚えきれないだろうし、それに、わたしより大きいものは間口を通らないわけだからね、塔の大きさだって、やたら大きくしないでもいいのかな。
間口より大きい場合、分割可能なら分けて、無理ならそれはその時考える。
のちのわたしに丸投げだー。ごめんよ、わたし。
「空間自体の広さは余裕もありそうだから、塔はまだ増やせるかな。今からでも建て増しできるものか、試しておこうか」
そう言って、ロコは全塔に枯れ枝を、一本ずつ入れた状態で新規に塔を増やせるのか試みた。
作れてはいるが、なんだか開いた空間の間口から、うっすら滲み出てくるギチギチという感じが、モワーンと伝わってくるというかなんというか。
あっ、そういやさっきオークスから容量に気をつけろって言われたばかりだったよ。調子にのって忘れてた。いま増やしたぶんは、余裕がないみたいだから壊そう。
「うん、いいね、これでも十分使えるんじゃない?
むしろ収納チートで異世界冒険譚もできちゃうね。(てきとー)満足満足」
こうして、一つ一つクリアしていく感じが、なんとも充実していて楽しい。
最近、彼氏だと思ってた人に「え? 俺たち付き合ってたっけ」と言われて、そのまま音沙汰なし。
いつのまにか、FINEの友だちからも消えてて、わけが分からなかった。
そのことがあって以来、ずっとネガティブになりがちで、友人に会っても、わたしがひどい顔してるもんだから、負の感情が伝染るって言われたことがショックで、ムリに笑顔つくってたな。
それ考えたら、いまは毎日のように達成感がある。
なんていうのか、脳がパキパキって覚醒される感覚っていうか、とっても恥ずかしい言い回しをすると、さわやかな冬の朝日を浴びた肌の感じ?
「うはっ」からだ熱!
うまく言えないけど、ドーパミンがドバドバ出ちゃって思考も少しずつポジティブになってきた気がするよ。
あっと、夢中になってたら、すっかり夜も更けちゃったね。
さっさと片付けて寝よう。
そうだこれ、食べ残しの鹿肉が乗った木皿を収納するとき、なかで別々に分けて棚に収容すれば、お皿を出すときキレイになってる、なーんて便利機能があったら喜ぶんですけど。
ちょっと食べ切れなかった分を、こうして入れてこう、よしよし、なかで分別はできたぞ。
それでもって、木皿だけ出す。
「うあっ」と、あぶな!
割れないよ、知ってる、けど焦った。
誰だ、受ける手の位置に自動的に出るとか言ったヤツは。
わたしか!
浮いてる時間がわずかにあったからいいものの、危うく落とすところだったじゃないか。まったくもお、出すときは注意しようね。
気を取り直して「クンクン」とか匂い嗅いでみたりしてね。んー、なんかベタベタしてるぞ。
おや? いけそうだと思ったんだけどなぁ。
そう上手くはいかないか。菌とかあるし、微細なレベルで分離しないとダメらしい。あれ? 菌って、生きてるって言わないのか? いや、深く考えるのはやめよう。
横着しないで、洗ってからしまお。
さてと、なにか肝心なことを忘れてる気がするけれど、まあいい、また明日考えるとしよう。
「おやすみオークス、よろしくふかふかベッドさん」
「おやすみなさい、ロコ」