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14 定番のアレ 1



 前回までのあらすじ。


 ……という具合に、前世で不慮の死を遂げたロコ。


 図らずして、もとの世界と似て非なる惑星アサルアムンに召喚される。


 ある国で傀儡の兵として転生するはずであったが、またしても危うく命の火が消えかけるという度重なる不慮に見舞われてしまい不運は続く。


 しかし偶然にも、この惑星の管理者タリアの気まぐれにより助けられることになる。


 そののちに、縁あって古代龍ケパレトの庇護のもと、ようやく手に入れたスローライフ。


 ある日の夕食どき、ふと何気なく手にした木皿の鹿肉を見つめていると、この弱肉強食の世界では食われる側でもあると、しみじみ思い、改めてその恐怖におののくロコ。


 いずれは龍のそばを離れ、魔物が跋扈するなかを生きて行かなければならない日も来ると考え、自らを守る防御結界を張ることができれば安眠できるのではないかと思いつく。


 さっそく、そのすべを習得するため五体投地よろしく知識神オークス様に助力を仰ぐロコなのであった。


 ざっぱーん、ずざざー。


「ここで背景音楽をデクレッシェンドします」




「デク、え? なんて言ったの? 前回までのあらすじって何、まったく。自分で神とか言っちゃってるとこが、ちょっとイタいよ?


 たしかに頼りになるけどさあ、って、ちがうちがうちがう。


 五体投地とかこっちに無いよね? また、あたまのなか勝手に覗いたな、お金取るよ、もお」




「精神核の深層に刻まれるものは、あらゆる事象に対する記憶です。


 ロコの意思で記憶したもの以外にも、無意識下に見たもの聴こえたもの、知覚した出来事など諸々全般が含まれ、わたしはそれを拾い集めることができます」



「さすがに、えっちぃのは拾うの遠慮してね」




「仕方がありませんね、では対価を払いましょう。


 まずはそのからだの精神核から、精霊体を作りだして遊離させます。


 次に亜空間を開き、オリジナルボディを収納してください。


 以上が現在わたくしの提案できる、ロコが作成可能な結界の代替案となりますが、いかがでしょうか」




「みじかっ、ザックリすぎ、てか覗いてるのは否定しないのね、もうタイホだタイホ」



「たいほは、わたくしではないような気がいたしますが……」



「クッ」




「では、亜空間に収納したオリジナルボディに残された精神核、魂や霊などとも呼びますが、それについては、植物の種子などに見られる休眠状態となるリスクがあります。


 そのことを除けば、単独の野営をした場合に有効な手段となり、ロコのオリジナルボディは、おおかた守られるはずです。


 なお精霊体とは精霊族の間で、ごく少数の者が使うとされる独立した意識のある精気の塊とも言えます。


 この精霊体に於いては、その状態の者以外での、他の者からの接触がむずかしくなり、身の危険を回避できます。


 さらに核が休眠する事により精霊体は基本、睡眠も必要としません。


 このように、ほとんどリスクが無いようにも感じられる方法ですが、さきほども申しあげました通り注意事項がいくつかあります。


 生来の肉体と精霊体の結びつきというのは非常に強固なもので、そばにあれば互いを引き合い、自然と(ひと)つとなるくらいです。


 そしてそれを、一時的に、一体になろうとする動きを封じて分離させる術法なので、そのまま強制で離れていると次第に、数日から、あるいは数週間ほどで精霊体とからだとの結びつきが弱くなり、解けてしまいます。


 そうなってしまうと、自力で戻ることが困難になります。再度、自己の意志でつなぐ方法は、今現在わたくしの知識内にはないので、あとにもご説明いたしますが、オリジナルボディに残した精霊核の目覚めを待つ以外ないでしょう。


 また、亜空間から取り出せない状態に陥った場合でも、戻れなくなるので同様です


 こちらでいう亜空間とは、無生物、もしくは行動を停止した、または休眠している生物が、入ることのできる空間です。


 重ねて申しますが、オリジナルボディに有る核が休眠状態となり、自力では出られない状況なので、取り出してから精霊体を収容することになります。


 何らかの障害により、戻れなくなった状況を回避するためには、あらかじめ精霊体の行動や、状態の異常をトリガーとして、オリジナルボディが吐出される、という自動進行する仕組みをつくらなければいけません。


 これは、ご自身で管理し、ロコ以外には知られないようにしてください。


 精霊体のそばに、精霊核を内含した体があれば、互いが引き合うに任せ、磁力を帯びたように自然と合体するので、問題はないでしょう」




「もしもしオークスさん? だからって、一遍に言われても理解が追いつかないんですけれどっ。


 なら出られないと、永遠に休眠して死んだも同然な状態になるってこと?」




「わがままですね。答えは否です。


 もしも空間より出られない状況に置かれましても、内部も僅かにおよそ、一日を十年と等しく緩やかに(とき)の流れというものは存在しています。


 数日後か、数か月後なのか、核の強さにもよるので計りかねますが、いずれ休眠から覚めます。


 ここからが難点なのですが、覚醒して活動を再開する、まさにその瞬間、空間より拒絶が起こり、精神核と結び付きの強いボディも共に、吐き出されることになるのです。


 亜空間からアサルアムンを含む、どの世界のどの空間へ繋がってしまうのか、その場所は誰にも分かりません。


 飛ばされる場所が特定できないという、これが一番のリスクですね。


 あま多の管理者が連携して追跡しましたが、未だに行方に関する法則性を、捉える事は出来ていませんので、現在も継続して検証中です。


 さらに付け加えれば、ロコが死亡した場合にも魔素の供給が途絶え、全収納物が各毎に同じ挙動をとります。


 この事は、その他の惑星管理者ネットワークにより実証した事例が過去に確認されています。


 大半は各世界の権力者、研究者による、囚人や奴隷または類似の者を使用してのそれ、とだけ申し上げておきます」




「なるほどね、好む好まないに関係なく、簡単に確かめるには容易に思いつく手段がそれなんだろう。


 わたしがいま、そのことについて、なにか言うことでもないね。


 だいたいの雰囲気はつかめたけれど、ケパレトも言っていた精霊って、大地の精霊とか、樹木の精霊みたいな何何の精霊とか、そういったもののことでしょ?


 そもそもわたしが精霊体を作ったり、亜空間を開いたりするってさ、簡単にできること?」




「ロコの種族はハーフドワーフです。


 よって、精霊族であるドワーフの血を引き継いでいますので、あくまで可能性の話しになりますが、将来的に精霊体を作りだせる可能性は有ります」



「今すぐには成れないってことね」



「ハイ、わたくしは、精霊族ではありませんので、助言できかねます。


 ですが、亜空間については、その概念の説明を受ける事で、適性があれば使えるようになるでしょう。


 魔法の会得方法と大差はありません。


 大抵の場合ですと、それなりの教育機関で、熟練の使用者が師となり教えるものですが、今回は特別に、このわたくしオークスが師となりましょう」



「難しい理論とか理解できる自信がないよ」



「必ずしも理解する必要はありません。


 たとえるならば、ロコの故郷では金魚なる小魚を、ポイと呼ばれる道具を使い、捕獲した数を競う遊戯がありますね」



「あるけど、なに? なんの話がはじまったの?」



「では、まずはそのポイの性能を確認します。


 ポイに貼られているのは、ロコの故郷に、古くから伝わる技術で作られた和紙です。これを、はたから見ることで、厚みによる耐久性を推測します。


 おメガネにかなうポイを手にしたら、反対の手に椀を持ち、直ちに遊戯開始です。


 あまり動きの激しくない金魚を選び、ポイをチラつかせ、それとなく水際に追い込みます。


 ポイが貼られている面を表側として、水面に対し、およそ斜め40度前後にて入水します。


 標的がこちらに気づき、逃れようと進路を変えた瞬間、尾に和紙を破られないよう注意し、できればポイの縁に尾を乗せる要領で、すばやくすくいあげ、沿わせた椀に、ポイでポイッと放り込むのです」



「おー、なるほどー」



「ポイでポイッと放り込むのです」



「……」



「ポイでポイッと」


「あー、うん、もうわかったから。まあまあの出来だったよ。これでいいの?」



「渾身の力作でしたのに、なかなかカライですね」



「まったく。変なこと覚えてもお」



「おおかた、このような手順を踏み、金魚すくいをするのではないでしょうか」



「急にもどるね。


 そうね、ほかにもありそうだけど。まあ、だいたいそうだね」



「では、はたして幼い子どもたちが、これを咀嚼し理解のすえ、遊戯をおこなうのでしょうか」



「さあ? なかにはいるんじゃ『それは否です』ないの」


「ちょっと被せないでよ」


「器用で勘のいい子どもなら、数匹程度であれば、理屈など知らずとも、捕らえることができるのではないでしょうか」


「うん、そうかも知れないね」


「つまりは、そういうことです」


「あ、うん。え?」


「その原理を詳しく理解しなくても、使用に関して言えば、その事象の概要を知るだけでいい、という事なのです」



「なるほど、わからないけどわかった」



「では、あらためて、亜空間収納の運用、その使用に関する全知識を、インストールしますか?」



「へえぇ、そんな事も出来るんだねー。


 特に段階踏んで習得したいだとか、そういうこだわりは持ってないからさ、それが出来るならお願いしたいな」


「はい、完了しました」


「ハ?」


「すべてのインストールが終わりました。

 始めは魔力に見合った最大容量で作成をしても構わないでしょう。


 運用可能か否かのテストにもなりますし、細かい設定はそのあとでも出来ます。


 まずは亜空間を作成できるかどうか、空間維持に掛かる魔力消費などを見ましょう」




「あ、はい」



「ロコの一歩前辺りに、亜空間への接続口を作ると強く意識してみて下さい。


 文字や記号、数字などが現れるので、記憶するのを忘れずに」




「えと、うわあ頭が割れるぅとか、くおー、一挙に大量の情報がっ! みたいなの無いんだね」




「なるほど、ロコはそっちでしたか。

 痛みを御所望なら、」



「いや、お願いだからやめて。


 意識すればいいだけね。


 ほっほー、なるほど。

 自然と頭に浮かぶんだ、便利。


 これが亜空間というやつね、ふんふん。


 わたしの放出する魔素が、大気に含まれる魔素に干渉して発動するところは、自然界の物理に干渉するこれまでとは少し違うけれど、基本のところは、ほかの魔法と一緒だね。


 よし、やってみるよ、どうだろ、こうかな」


 ロコが「はっ」とか「ほっ」とか言って、片手を前に突き出して、何もない空間を指でなぞっている。


 ロコの眼前で、博物館あたりの「古代なんちゃら展」などで見かけたような、ルーン文字ともエトルリア文字ともつかないものに(かたど)られた光が数秒間現れ、そのままそこへ染み込むように消えた。


 そしてその空間を縦に割る光のすじがスウッと入り、ロコひとりが通れるくらいに裂けて広がった。



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