9 ギルド 1
「9ギルド1」と「10ギルド2」の分割する位置を変えました。
話の最後で昆虫系の内容が有り、黒いアイツ、いわゆるGの存在がでます。保険として念の為、想像したくない方は、★からちょっとだけなので、そこで、読み終わってもいいです。
「好きで裸になってるんじゃないやい」と、泣き真似をするロコ〈ちひろ子〉。
「ちょうどいい、おまえの服が破れとったからのう、そら、受け取れい」と、老人姿のケパレト〈古代龍〉が背負っていた、肩掛け袋から服を取り出し、ロコに投げてよこした。
「これもみやげじゃ」
ケパレトはそう言うと、毛布に水袋、チーズにパンや干し肉を差し出した。
ロコはそれらをひったくるように奪うと、服などには目もくれず、がむしゃらに口へと放り込む。
「ゲフォッゲホゲホありがどう、助かっだ、ンゴクッゴクッ、フーウ、でもどこ行ってたのさ、こっちは異世界初心者ですよ、心細いんだから一人にしないでくださゲプー、失礼」などと恨み言をのたまう。
「すまんすまん、ちと工面するのに時間が掛かってしもうてのう、普段はカネなど持ってはおらんからな。わしの生え変わった古い鱗を、冒険者ギルドで売ろうとしたんじゃが」
「え、鱗って生え変わるんだ、なんかごめん、勝手に脱皮するものだと思ってたよ、てっきり見た目が、トカ『ハッハッハ、面白いことを言うやつじゃのう』……ゲ?」
「半端な蜥蜴ビトじゃあるまいし」
ケパレトはそう言うと、ギロリとロコに一瞥を投げた。
「おまえたちヒトも、皮膚は生え変わるじゃろうが」
「ギクッ、あ、う、うん、そうだね」
古代龍の鱗なんて、相当な額の高値で売れるだろうと思ったら、多少、入手難度は高くなるけれど、巣のそばを探せば意外にたやすく手に入るそうで、激ムズというわけでもないらしい。
とは言っても、龍の鱗だ。防具に使えば、そこそこの効果があるので、高値と言えばそれなりともいうから、どっちなんだよと思う。
ともあれ、多少安くなっても他に売るより面倒もなく、すぐ現金にできるとギルドに持ち込んだらしい。
しかしそれが運もわるいことに、担当した受付係が、相手の威を感じない鈍感な新人さんだったみたいで、ケパレトを年寄りだと見くびり、舐めた応対して怒らせちゃったんだとか。
おまけに、龍の鱗なんか、手に入れられる風貌じゃないとか言って、盗品の疑いまでかける始末、それでますます怒らせてしまったようなのだ。まったくもって恐れ知らずな受付だね。
「あの新入りめ、『盗品は扱えません』などと、このわしにぬかしおった。
わしは悔しくて、四翼のギルド証を見せつけてやったんじゃが、これがうっかり更新するのを忘れとってのう。
二百年ぐらい前にわしは死んだ事になっとったらしく、偽者じゃ騙りじゃろうと言われて腹が立ったわ」
音沙汰なしで二百年も経っていれば、そりゃそうもなるよなと思ったけれど、ケパレトを焚きつけてしまうと話も進まないので、言わずにおいた。
数百年をちょっと前、みたいに言っちゃうケパレトが、新入りなどと言ったことだってあやしいものだからね。
「こっちの時は正体隠して大人しくやっとるしな、仕方なしに馴染みの道具屋で、店主のエルフに身元を保証してくれと頼んだんじゃ。
じゃが、あやつめ、笑い転げてなかなか『うん』と言わんで手間取っておった、小僧、ゆるせよ」
尻尾も生えとらん癖しおって、と怒りの矛先がエルフに移ったようだ。
「しばらくうしろ向いてて」
言われたとおり、素直にうしろを向く、しおらしい老人。
この服ちょっとゆるいかも、とか、わあぉ確かにアレが付いてるよー、なあんて言いつつ、ロコは服を着替えた。
「いいよ帰って来てくれたし。それよりさ、いつか道具屋のエルフさんに会ってみたいな、紹介してくれる? 想像してたとおりの嵌り役って感じで、会えたら感動だろうね。
ちょっと冒険者ギルドの話がわからなかったから、そこんとこ詳しく聞きたいな、教えてくださいよ、センパイ」
「フフン、まーよかろう」
センパイ呼びが、まんざらでもないご様子のケパレト。
「うむ。あー、ギルドにはな、冒険者ギルドと商人ギルド、それに職人ギルドというのがあってのう。
それぞれギルドは運営費として、登録証の更新にはカネを払う必要がある。金額はまあ、それぞれじゃ。
冒険者は危険が付きものじゃし、突然居なくなるからのう、取りはぐれぬように月毎じゃな。
それ以外は年単位で、まとめてあとで払うのも許されとる。んー、あー、わけは知らんぞ。
まずは、商人ギルドの登録証といこうか。
種類は、なんじゃったか、ほら、そうじゃ、変わりなければ二種類じゃったな。
一つは銀製の札でな、その札持ちは別の呼び名を塩商人ともいうてな、名前の由来にもなっておるんじゃが、国の許可がないと、塩の売り買いができん事になっておる。
この札を持っておること、つまりは国が信頼をおいた商人ということじゃな。
他に、香辛料、武具や水薬なども売っておるが、意外にな、銀の札を持つようになると品数を減らし、手堅い商売をするようになる者も多いと聞く。
おそらく、下手を打って国の信頼という看板を失いたくないんじゃろうのう。更に手広くやる大商人になれるかは、その心意気が分かれ道となるのやも知れんのう。
まあ、なかには、好事家専門の商人になる者もおるがの。
そういう点からいうとな、塩のこと以外なら特に決まりがない木札商人のほうが、むしろ貪欲でなんでも売っておるかもしれんぞ。
最初はこの木札から始めるからのう。他より人目を引こうと、変わった物や珍しい物で、みな商売ガタキを出し抜こうと必死なんじゃろ。
たしか、この国で商売をするには、商人ギルドで登録せねばならん、という法律もあったはずじゃ」
「香辛料は誰かの専売とかじゃないんだ」
着替えも終わり、近くの岩に腰掛け、食事を続けながらケパレトの話に耳を傾けるロコ。
「産地から運び賃も掛かるからのう。多少は香辛類の買い値が張ることはあるが、特に独占しとる者もおらんな。そんな事をすれば、仲間からつまはじきにあうじゃろうて。
商人ギルドの証にはのう、売り買いの許可以外、おもてだった階級は無かったように思うが、実績を評価する成績みたいなものはあるぞ。
目利きの商人は当然信頼度が上がる、そこそこの評判となれば、指名依頼も入るようになって、更に安定した稼ぎにもなるじゃろう」
「商人とは縁が無さそうなのに、意外に詳しいね」
「わしも以前は、街で過ごした時期があったからのう。そのくらいは知っておるよ。
街には物が溢れておる。色々目移りして、あれもこれも欲しくなるくらいじゃ。
商人も色々おって、悪意の無い、単に目利きが下手なだけの、粗悪な品を扱う者もおるが、なかには承知で詐欺紛いの商いをする者もおるからな、十分に気をつけるんじゃぞ」
「ありがとう、優しいね」
「いや、そのう、なんじゃ、うむ。
そのような商人は、たちまちギルドから除名され、切羽つまって闇商売に手を染めてしまうかも知れん。ともすれば、国から追われる罪人となろう。
命まで取られはせんが、財産も召し上げられてしまうしのう、国外に追放される事にもなる。
他にもこまごまあるじゃろうが、それはお前が商人にでもなった時に知ればよかろう。
次に職人ギルドなんじゃが……」
わたしが聞きたかったのは、冒険者ギルドの話なんだけれどもなー。まあいいや。
商人になった時と言われたって、塩とかスパイスなんか、普通に流通してそうだし、そもそも安く手に入れる当てなんかないからね。
異世界ものでの定番、マヨネーズの作り方も知らないし、ちょぴっとも商人になる未来は見えないんだよね。
一応買う側でも知っておくのに損は無いと思って聞いていたけれど、さすがに職人にはならないだろうと内心思いつつ、ケパレトのじゃがじゃが節を聞き流しながら頷くだけは頷いといた。
職人ギルドについては、登録して置くと、職場を斡旋してくれるだけでなく、当人に代わって、賃金の交渉までしてくれる。
ハローワークみたいなものだろうか? 自己PRが苦手で口下手な職人には、うってつけの施設だろうと思う。
ひとくちに、職人と言っても、家具、建築、裁縫に調理、更には武具職人など、種類はさまざま。
そしてここにも職人たちの腕前を評価する、階級めいたものがあるということで、大雑把に言えば、物の出来栄えとか、アフターサービスなんかをみるみたいだ。
他にもなにか言ってたような気がするけど、興味は湧かなかった。なので職人の道はほぼ無いかな。
というか、おなかも満たされ眠気にも襲われて、半ば話は右から左だったんだけれどね。
ごめんねー、ケパレトちゃん。
そして、やっとのことで冒険者ギルド。
けれど、ほぼテンプレだね。この世界のことは、見聞きしたのも初なのに、テンプレと言うのもおかしな話だけれどもね、あくまで物語りに出てくる知識があるってだけ。
そもそも、なんで初めてこの世界に来たわたしが、怖い思いはしたにしろ、わりとすんなり受け入れられたことに、考えてみれば不思議だなと思うわけで。
だってね、パンフレットで旅先の情報を予習してるのとは、わけが違うんだからね。
元の世界では得る事のできない魔物の知識とか、環境、文化の情報とか、どうして耳に馴染みがあるのかなぁなんてね。
考えてもわからないことは、聞くのが一番ということで。
オークスの見立ては、召喚魔法でなくても他の多くの多元宇宙なんてところから偶発的な転移現象が、いわゆる神隠しのようなものが起こっていて、生物もそうでない物も、あっちに行ったりこっちに行ったりしてるんだとか。
それがここでは、もともとあった魔法文明と混ざり合うことで独特な発展を遂げているようだ。
当然、わたしのいた所でもそれは起こっていて、あちらでは拒絶反応を起こすからなのか、混ざることはなく、ただただ不可思議な民話として、事象の内容と共に語り継がれた。
そしてどこかでそれを見聞きした。だから馴染みがあるんじゃないかと言っている。
生物の転移先によっては、捕獲され生体実験みたいな胸クソな話もきっとあっただろう。
物なら解体して研究とか、秘密裏にどこかの国が戦力にしてそう。なーんて、テレビの見すぎか。
もしや進んだ科学を持つと考えられてる宇宙人やUFOの話も、実は本当で、もう一つの宇宙と関係しているのかも知れないなあなんて、勝手な想像をしてみる。
こっちの世界を知ったあとで、こういうことを考えるのは、空想が現実味を帯びてきて結構楽しいものだ。
話しが逸れてしまったので元に戻すと、冒険者ギルドの仕組みとしては、冒険者ランクが設定されてて、それによって受けられる依頼が決まる。
達成すれば報酬が得られ、失敗すればペナルティが科せられる、おおかたよく知る構成だ。
けれども、国別にローカルルールがあるかも知れないので、現地での学び直しは必要かもね。
因みに階級などの名称は、アサルアムンのどの国でもほぼ同じらしく、理由としては、始めにギルドを興した国から各国に、仕組みごと伝播したからだということだ。
それと、これは冒険者だけでなくて、商人や職人にも言えることで、国を跨いでの活動は厳しく監視される対象になる。
だけれど、せっかくこんな機会に恵まれたんだし、できればこの世界を観光してまわりたいので、制限されるのも嫌だ。
だから、どうするかは、しばらくこの世界に慣れるまで様子見かな、という感じ。
所属したギルドを問わず、ある程度の報告義務のようなものがある。
仕事内容によっては、国と深く関わったりして、国益に関する情報も知る機会が増えるから。
そうとは言っても、どう頑張っても漏れて筒抜けになる可能性が残るし、技術の流出もあるだろう。
それはわたしのいた世界も一緒だったのでわかる。けれど国が潤うには外貨も必要なので、利害が一致すれば貿易も協力も行われているのもまた然り。
前世の、わたしの浅い知識との違いを挙げるなら、冒険者ランクの構成は聞き慣れていないかも。
アサルアムンの住人たちの間では共通認識でも、わたしの知っているものとは違うので、きみ、どこの国のひとだい? なんて、あやしまれないよう、頭にしっかり入れておきたい。
まあ、呼び名は変わっても、要は冒険者の階級とは信頼度の大小のことなんじゃないかな。
ランクは下から採取級、特殊級〈六足級〉、四足級、二足級ときて、二翼、四翼、六翼、最後は十二翼級となっている。
採取級とは文字通り、薬草類の採取にはじまり、魔物由来の素材とかそのあたり、基礎の知識を習得したか、習得する期間の階級だね。
比較的、安全な場所での薬草採取ということなら子どもでも達成できる依頼もある。が、当然のことなんだけれども、場所によって魔物にも対処しなければならないはずだ。
なので、単なる級の呼び名というだけで、危険がないわけではないと思う。
特殊級、これまた他に言いようもなく特殊で、説明によると、初期の頃の呼び名は六足級というものだったらしく、おもに昆虫系とその幼体を指していたんだけれど、徐々に範囲が拡がり、いつしか虫全般を含むようになったとか。
そこで、一部の者には虫屋とも呼ばれている。きみら本当にその呼び名で良いのか?
昆虫と言っても、わたしの知る一般の昆虫ではない。勿論、魔素を運用しているだけの、こちらに干渉してこない、棲み分けされた、ある意味で一般の昆虫というものも多く存在する。
それは、昆虫や虫たちだけではなく、ほかの動植物全般に言えることでもある。
ここでいうのは、こちらに害意を示す、危険と判断された、魔物化したというか、ちょっと巨大化したというか、魔素で強化されて、通常のものより、多少、脅威度の増した方だ。
こういうと、それを決めてるのは誰だとなるので、結局は、こちらサイドの利益の有無で決まってしまうものではあるけれど、それをいうとさらに、この世界にも有るという曲解した愛護団体に、なにか言われるかも知れない。ととと、脱線してしまったので、話を戻そう。
大雑把に示すと、そういった昆虫系の平均的な体長は、あまり大きくもなく、最大でも大人のあたまほどのサイズだと聞く。そのあたりのサイズ感が、魔法ありにしても、飛び続けるためには軽量化の限界だったのかな?
飛ばれると面倒な相手でも、翅に対処すれば、歩行速度は他の魔物と大差なくて、十分対応できるのだそうだ。
虫が苦手だから、本当にそうなのか不安になる。
★この先にちょっとだけでます。
だって考えてほしい。
数の暴力と言ったら、どれもそうだと言えるだろうけれど。虫でというと話は変わるでしょ。
大量の虫がブワーッと飛んで来ちゃったら、間違いなく、ソロなんかで挑んじゃいけないやつだと思うんだよね。そう思うでしょ?
そう言えば前にどこかで、トビバッタだとかいうのが大量に発生したニュースを見たな。うわ、Gの連中が集団で大移動とかゾワる、考えただけで卒倒して失禁ものだそれ。おっといけない、想像してしまった。