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北方海の守護天使  作者: h.hiro
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第7話「ジェリー島の悲しき伝説」

2人は島では有名な仲のいい夫婦だった。

働き者の夫と献身的な妻、子供は居なかったが傍から見ても幸せそうだった。

そんなある日、夫が漁に出たまま帰ってこなかった。

操業中に嵐にあったの原因らしく、捜索も空しく発見されなかった。

妻は毎日港に立ち夫の帰りを待ち続けた。

数年たった頃、ある噂が島にもたらされた。

遭難したあの夫が別の島に流れ着いたと、だが何故戻ってこなかったのか?

夫はその時助けられた女性とその島で暮らし始めたからだという話しだった。

妻はそれでも港に立ち続けた、島の人々は彼女を哀れに思いながら見ていた。

そして・・・嵐が島を襲った時、妻は忽然と消えてしまった。

絶望して身を投げた、高波にさらわれた、様々な噂がたったが本当のところは分からなかった。

そしてその頃からだった、島の漁船に奇妙な遭難が起き始めたのは。

航行中の漁船から漁師だけが消え無人のまま漂流しているのだ。

島の人々は噂しあった、これは消えた妻が、夫の変わりに漁師達を海底に引きずり込んでいるんだと。

「なにそれ、その夫って奥さんを裏切ったって事でしょう。」

「助けた女が寝取ったか・・・」

「夫は新しい幸せを取ったんじゃないかな?」

「ふう・・・」

恵理香は溜息をつくと読んでいた小説を閉じて傍らで話しに盛り上がっている乗員達に話し掛ける。

「皆さんは一体何の話をしているんですか?」

「えっ艦長いらしゃったんですね、すいません騒いでしまって。」

乗員達は恵理香が隣のテーブルに居た事に今気付いた様で騒いでいた事を謝罪する。

艦長室で読書をしていたがお茶を飲みたくなり食堂に来て、そのまま戻るのも面倒だと恵理香はここで読書の続きをしていた。

そこへ後から入って来た乗員達が恵理香に気づかず会話を始めたのだが。

最初は何となく聞いていた恵理香だったが、途中から話が生々しくなってしまい、読書を中断して乗員達に質問してみたのだ。

ちなみにこの乗員達はさっきまで上陸していた筈で、まさか帰って来てそんな話を始めるとはするとは恵理香も思わなかった。

その日、まほろばはジェリー島付近に出現したシーサーペントの対処を、島の漁師ギルドの支部から依頼さて訪れていた。

まあ対処自体は幸いな事に昼前に終了してしまったが。

本当は今日一日掛けるつもりで、明日の朝帰する予定だったのだ。

だから一旦は直ぐに帰る事を恵理香は検討したが、そうすると到着が真夜中になってしまう。

若い女性達ばかりだからそれは不味いと恵理香は判断し、予定通りジェリー島で夜を明かす事にしたのだ。

とはいえ朝まで艦の中で過ごすだけなのもどうかと思い、恵理香は乗員達に交代で島に上陸する事を許可を出した。

ここジェリー島は80人くらいしか島民の居ない所なので、遊ぶ所が有るか疑問だったが上陸するだけでも気晴らしにはなると考えたのだ。

そして上陸した乗員達が戻って来たらと思ったら、先の様に皆で話が盛り上がっていたという訳だ。

「別に気にしなくても構いませんけど、そんな話しを誰に聞かれたんですか?」

恵理香の問いに先程謝罪した乗員が答えてくれる。

「港にいらっしゃた漁師の奥様達にです、島で面白そうな所が有るか話しかけたら、この話をして下さって、帰還時間までずっと話しこんでしまって。」

どうやら乗員達は島のご婦人方と仲良くなったらしい、まあこの島には若い娘が少なかったから、ご婦人方も嬉しかったなのだろうと恵理香。

何と言うか女性はこういう話が好きなのだとは恵理香は改めて思った、まあ彼女としては漁師達を海底に引きずり込むという結末が気になったが。

「なるほど・・・まあ盛り上がるのは構いませんが交代時間を忘れない様にして下さいね。」

「はい艦長・・・それでその夫はその後どうなったと思う?」

再び話しに夢中になる乗員達に苦笑しつつ恵理香は食堂を出て艦長室に戻る事にした。

どうやら静かに小説を読むのは無理そうだったし、そろそろ副長と当直を交代する時間だったからだ。

だから恵理香は艦長室に小説を置いてから艦橋へ行くつもりだったのだが。

「あ、艦長こちらにいらしたのですね、今島のギルドの支部長が会いたいと来られているんですが。」

「ギルドの支部長が、ですか?」

今回の依頼については既に終了の報告をギルドの支部に報告しており今更何があるのだろかと恵理香は首を捻る。

「分かりました・・・艦長室に案内しておいて下さい、私は艦橋に行って副長に事情を説明してから行きます。」

とはいえ会いたいと来ている以上無視は出来ないと恵理香は判断し乗員に指示を出す。

「了解です艦長。」

案内する為向かった乗員と別れ、恵理香は艦橋に行き副長にもうしばらく当直を頼み、艦長室に向かう。

「支部長をご案内しておきました艦長、後でお茶を持って行きますね。」

艦長室の前まで行くと、案内をしてくれた乗員が待っていた。

「お願いしますね。」

「はい。」

頷くと乗員はお茶を用意する為食堂に向かい、恵理香は艦長室に入る。

「お待たせしました。」

艦長室といってもあまり広くは無がそれでも執務用の机や応接セットを備えていた。

その艦長室の小さなソファに大男の支部長は律儀に座って待っていてくれた様だった。

「いえ突然押しかけてきて申し訳ありません艦長。」

ソファから立ち上がり支部長は頭を下げる。

「どうぞお座り下さい、それでご用件は?」

座った支部長は一瞬俯くと、静かに話し始める。

事の発端は近くの無人島でギルドの漁船が正体不明の船を目撃したという話しからだった。

自分達の船よりも早いスピード、船名どころか識別番号も無い、あまりにも怪しい船。

「どうも最近現れる様になったみたいで、我々としても憂慮していたのです、それでちょうど島に来られた皆さんに調べてもらえないかと思いまして。」

恵理香は支部長の話しに考え込む、これは状況から考えて・・・

「それは密漁船、ということですね。」

支部長は頷くと深い溜息をついて見せる、恵理香もその気持ちは理解出来た。

普通漁師達は漁師ギルドに所属し、漁の期間や漁獲量を守る事を義務付けられる、水産資源の保護と公平に漁をする為だ。

しかし中にはギルドに所属しないで勝手な漁をする連中も居る。

大概は何かやらかしてギルドを追放された漁師達だ、当然彼らはギルドの規則など気にも掛けない。

それどころか、ギルド所属の漁師達の邪魔をしたり、漁場を荒らしたりする困った連中だ。

もちろんは漁師ギルドも対策を講じてはいる、監視船を配置するなどしているのだが、困った事にこういった密漁船は機関を改造し速度を高めており補足するのも難しい。

武装している事もあり監視船が銃撃を受けるのも珍しくなかった。

シーサーペントほど厄介ではないが、だからと言って無視出来ない存在だった。

「分かりましたお引き受けします。」

ギルド支部長はほっとした表情を浮かべお礼を言ってくる。

「お願いいたします天使殿。」

・・・それは言わないでほしかったと恵理香は内心溜息を付くのだった。

1時間後、まほろばは照明はもとより航行灯さえも消し問題の無人島の沖合いにいた。

辺りは真っ暗闇で艦はそれに紛れるよう隠れていた。

もう少し島の近くで待ち伏せしたところだが、密猟者達に気付かれてしまう可能性が高い。

まあまほろばのレーダーは連中のより性能が高いからある程度の距離が離れていても問題無いだろうと恵理香。

「しかし密漁船ですか?シーサーペントに続いてそんなものが出てくるとは。」

恵理香の傍らに立っている副長が肩を竦めてぼやく。

「すいませんね、ただほっとくわけにはいかないと思ったのものですから。」

恵理香は副長や乗員達に謝る、せっかくのんびりしているところを駆り出してしまったからだ。

「いえ大丈夫ですよ艦長、それに私達だってほっとく気にはなりませんし。」

そんな恵理香の謝罪に副長が真剣な表情で答える。

まあ密漁船など海のルールを守らない輩は真っ当な船乗りからすれば許せない存在だ。

だからそれを討伐する事に副長も乗員達にも異存はなかった。

「艦長、島影から船が出てきました。」

見張り担当が報告してくる、どうやらのこのこと出てきてくれた様でこちらとして好都合な展開だと恵理香。

「密漁船で間違いありませんか?」

「はい、船名も識別番号も確認出来ません。」

間違い無い様だと恵理香は確信した、普通の船ならは船名も識別番号を隠さない、そんな事をすれば重大なルール違反になるのだから。

「機関始動、両舷前進半速。」

「機関始動、両舷前進半速。」

機関員担当の復唱と共にまほろばは動き始める。

「総員戦闘配置に就いて下さい。」

「総員戦闘配置!」

副長が復唱し艦内にアラーム音が鳴り響く。

「目標方位右30、まだこちらに気付いていない様です。」

暗闇の中、見張り員担当は的確に密漁船を追跡する。

「分かりました、面舵30、密漁船に接近して下さい。」

「了解、面舵30、密漁船に接近します。」

操舵員担当が舵輪を回しつつ復唱する。

「副長、探照灯の用意をお願いします。」

「探照灯照射準備。」

まほろばは密漁船の後方に着き追跡を開始する。

「艦長、予定の海域に到達しました。」

航海担当の報告に恵理香は頷くと、双眼鏡を持って右舷見張り所へ向かいながら副長に指示する。

「副長、探照灯照射して下さい。」

「はい艦長、探照灯照射始め!」

探照灯がまほろばから照射され、暗闇の中浮かび上がる密漁船。

恵理香が双眼鏡を目に当て密漁船を見ると、突然の事に慌てる乗員達の様子が見える。

「密漁船、進路を変更し速度を上げて逃げて行きます。」

見張り担当が報告してくる、だが逃がすつもりは恵理香にはもちろん無い。

「こちらも速力を上げて下さい、ガトリング砲射撃準備願います。」

「速力上げます。」

機関員担当が復唱しするとまほろばは更に加速して密漁船を追跡する。

密漁船はかなり改造してあるのか普通の漁船より速力は出ている様だが、まほろばの方がはるかに早かった。

これなら相手が小回りを利かして逃げようとしても余裕を持って追跡出来るだろうと恵理香は確信する。

しかも小型の漁船では高速力で航行すればやがて燃料が尽きてしまう、つまり恵理香達はそれまで待っていればいいだけだ。

まあだからこそ密漁船が島に居る時ではなく、離れるのをじっと恵理香は待っていたのだ。

『ガトリング砲に曳光弾を装填、射撃準備完了です艦長。』

火器管制室から射撃用意が整った事が報告される。

曳光弾を使用するのは密漁船とはいえ沈めるつもりは無いからだ、恵理香は曳光弾で威嚇し停船させるつもりだった。

『目標左舷に視認!威嚇射撃開始します。』

恵理香は左舷の見張り員の傍に行き、双眼鏡をで密漁船を見る。

夜目にも鮮やかな光の弾丸が艦の舷側から放たれて、密漁船の操舵室付近を掠める。

その射撃に密漁船は舵を急速に切り逃れようとするが、見張担当からの的確な指示で操船する操舵担当からは逃れられなかった。

探照灯担当も艦や相手の動きに合わせて的確に密漁船を照射して見張担当を支援していた。

こういう事は何度も経験しているだけに乗員の連携は完璧で、恵理香は安心して見てられる。

「結構粘りますねあいつら。」

一緒に双眼鏡で密漁船を追っている副長が呟く。

密漁船はコースや速度を頻繁に変えて追跡を逃れようとしていた。

「そうですね・・・出来れば危険は冒したくは無いですが。」

曳光弾で止まらないのであれば、場合によってはまほろばを密漁船に接触させてでも恵理香は停戦させるつもりだった。

双方に怪我人を出したくはないが、それも仕方が無いだろうと恵理香。

「密漁船の左舷後方から・・・」

「艦長!右舷後方から急速に接近する目標あり、反応から・・・シーサーペントと思われます!」

恵理香が指示を出そうと思ったとたん、センサー担当がディスプレーから振り向いて報告してくる。

「!?面舵一杯、艦載砲及びランチャー射撃用意して下さい。」

その報告を聞いた恵理香は咄嗟に進路変更、迎撃を指示する。

「艦長!?・・・艦載砲及びランチャー射撃用意急いで。」

一瞬戸惑ったが直ぐに私の意図を汲んで副長が復唱する。

まほろばは密漁船から離れ、新たな目標であるシーサーペントを目指す。

『艦載砲及びランチャー射撃準備完了です艦長。』

艦載火器管制室からの報告に恵理香は頷いて攻撃を指示する。

「射撃開始して下さい、ロケット弾は十分引き付けてから、タイミングは火器管制に任せます。」

『艦首及び艦尾艦載砲射撃開始!』

管制室からのリモートコントロールにより艦首と艦尾の艦載砲が射撃を始め、シーサーペントの進行方向上に着弾する。

「距離1千、前部ランチャー発射!」

着弾により進行方向を変えたシーサーペントの横腹に発射されたロケット弾が迫る。

「取舵一杯。」

「取舵一杯。」

ロケット弾が発射されたの確認した恵理香がシーサーペントから離れるコースを指示する。

まほろばは操舵担当の復唱とともに急速に進路を変える。

やがて鈍い爆発音と振動が響く中シーサーペントの絶叫が聞こえてくる。

「確認を急いで下さい。」

「見張り確認を急いで。」

副長が私の指示を見張り担当に伝える。

「シーサーペント沈んでいきます。」

見張り員からの報告が艦橋もたらされる。

「監視を続行して下さい。」

その報告を聞いて恵理香は監視の続行を指示した後センサー担当に問い掛ける。

「センサー、密漁船を確認出来ますか?」

「申し訳ありません艦長、見失ってしまいました。」

センサー担当が悔しそうな声で報告する。

「・・・仕方ないでしょう、貴女が責任を感じる必要はありませんよ。」

「はい艦長。」

慰める様に言ってから恵理香は溜息を付く、どうやら密漁船はこの戦闘の間に逃げた様だった。

まあ、まほろば1艦で両方相手は出来ないから仕方が無いが恵理香も乗員達も当然悔しさを隠せないでいた。

「それにしても一体どこから来たんでしょうね?」

傍らに立つ副長が首を捻って聞いてくる。

「何処かに隠れていたのか、他の海域から潜り込んできたのか・・・まあ対処出来て良かったですが。」

まほろばと密漁船の追跡劇に刺激されて出てきたのだろうと恵理香、被害が出る前に駆除出来て幸いだったと安堵する。

「密漁船も拠点を見つけられた以上舞い戻って来る可能性は低いでしょう。」

恵理香はそう言って肩を竦めると副長も頷いて答える。

「そうですね・・・まあこれで依頼終了ですね。」

「はい、それでは港に戻りましょう。」

まほろばは進路をジェリー島の港に取った。

そして港に到着後、恵理香はギルドの支部で待っていた支部長に報告しにいったのだが。

支部長は大層喜んでくれたのは構わなかったのだが、やたら「流石は天使様!」と言って恵理香を持ち上げてきたのだった。

恵理香は真っ赤になって「勘弁して下さい。」と呟いたの言うまでも無い。

そして翌日、まほろばは商会のある中央港へ島民達の盛大な見送りを受けて出発したのだった。


09:00

シーサーペントの駆除及び追加の密漁船対応を終了

報告者:牧瀬商会所属駆逐艦まほろば艦長牧瀬 恵理香。


・・・じつはこの話には後日譚があった、恵理香にっとては正直言って思い出したくも無い話しだったが。

中央港の商会に戻って1週間たったある日、ジェリー島のギルド支部長から手紙が届いたのだ。

内容は今回の依頼に対するお礼だったのだが、最後の方に書いてあった内容が恵理香にとっては衝撃的だったのだ。

恵理香達が帰って数日後、漁をしていた漁船が漂流している船を見つけた。

どうもそれが例の密漁船だったらしいのだが、人が乗っている気配がまったく無かったらし。

意を決して猟師たちが乗り込んだのだが、船内には誰も居なかった。

どうやら船を放棄したらしいが、それにしては私物などがそのままにされていた事に乗り込んだ漁師達は首を捻った。

確かに彼らはまほろばの追跡を完全に逃れられたのだから放棄するにしても、そんなに慌てる必要などなかった筈だ。

結局何があったか、支部長も漁師達も分からなかったと記して手紙は終っていた。

だが恵理香は手紙の中に記載されていたある漁師の言葉に意識を失いかけてしまった。

それはこう書かれていたからだ、船内は何故かびしょびしょに濡れていて、まるで濡れ鼠になった者が歩き回った様に見えたと。

その光景を聞いて恵理香の時脳裏に浮かんできた光景は。

海底に引きずりこんだ漁師を抱き空ろな笑みを浮べる女性の姿だった。

そう乗員達が聞いたと言う、島の伝説の様に・・・

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