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北方海の守護天使  作者: h.hiro
34/35

第25話「幻影の標的」

「うぃっ・・・」

1人の酔っぱらった漁師が海岸に通じるは道を危なっかしい足取りで歩いていた。

真夜中の3時を超えようかとする時間だがその漁師は酔いを醒まそうと北方海の海風に当たる積りだった。

そして海岸を見渡せる場所に着いた時だった。

「何だあれ・・・?」

海岸線に巨大な黒い塊を見つけ漁師は目を擦りその正体を判別しようして次の瞬間腰を抜かして座り込んでしまう。

「う、嘘だろ!あれってシーサーペントじゃないか・・・」

海岸線に佇む様に居るシーサーペントを指さしながら漁師は後ずさる。

「うぁぁ!!」

そして漁師はその場から絶叫を上げ離れて行くのだった。

「シーサーペントが?」

ペガサスの戦闘指揮所で恵理香はレイアからの通信に困惑した表情を浮かべ聞き返す。

『ああ、ここ数日イリーナ島の海岸で目撃されていいるらしい・・・』

ギルドの作戦室から話し掛けて来るレイアもまた困惑した表情で説明する。

本来なら重大な事態なのだがある点で皆を困惑させていたのだった。

「毎晩現れるだけで何もしない・・・今までにない事だね。」

隣に立っているロベリヤがその状況に首を捻りながら呟く。

そう今回のシーサーペントはイリーナ島の海岸に現れるだけで何もしないのだと言うのだ。

「前に6時間以上も追跡したあのシーサーペントとも様子が違いますね。」

恵理香の隣に控える優香が以前の事を思い出しながら言う。

「ええまったく動きが無いですからね・・・」

艦長席に座る恵理香はそう呟き考え込む、目撃者の証言通りならシーサーペントはその場にただ佇んで居るだけらしいのだ。

「しかも朝にはその姿を消してしまう・・・」

そして昼間には現れないという事が更に恵理香達を混乱させているのだ。

『兎に角現場に向かい調査してほしい牧瀬艦長。』

「はいギルド長。」

こうしてペガサスはイリーナ島へ向かう事になったのだった。

島に到着した恵理香は艦の指揮を副長に託しロベリヤと優香を伴い上陸する。

そして街の集会場に向かう、既に連絡が言っており事件の目撃者達が集められていた。

恵理香達3人はそこで目撃者達の証言を詳しく聞き状況を確認する積りだったのだが。

目撃者達の証言はシーサーペントである以外不整合な点が多く恵理香達は困惑させられるのだった。

大きさも大型なものだと言う者もから小型だと言う者、数も1匹から数匹とばらばらなものだったからだ。

「恵理香、これって幻覚じゃない?」

優香がその証言内容に困惑気味になり恵理香に問い掛ける。

「僕もその可能性を捨てきれないよ恵理香。」

同様にロベリヤもお手上げだとばかりにそう言ってくる。

「・・・確かにそうとも言えるかもしれませんが、逆に不自然さを感じますね。」

証言から幻覚だという可能性は捨てきれないが裏に何かあるのではないかと恵理香はロベリヤ達を見渡しながら話す。

「議論していても解決は出来そうもありません、一番確実なのは我々の目で確かめる事です。」

「そうだね恵理香。」

「うん恵理香。」

ロベリヤと優香は恵理香の言葉に頷くのだった。

深夜のイリーナ島沿岸近くに恵理香達は居た、時間は目撃が多発するという深夜。

あの後ペガサスに連絡し追加の乗員達に通信機やキャンプ用品を持って来て貰いベースキャンプを設営した。

「艦長今の所問題なしです。」

監視を終えベースキャンプに戻って来た乗員2人が恵理香に報告する。

「ご苦労様でした、食事を取って休息して下さい。」

恵理香は報告を終えた2人に労いの言葉を掛ける。

「「はい艦長。」」

そして休息に入る乗員達に代わり新たな乗員達が監視に向かう。

「艦長、これより監視任務に入ります。」

「はいお願いします。」

交代の乗員達は頷くとベースキャンプを出発する。

「ペガサスから何か連絡は?」

乗員達を見送った後恵理香は通信担当に尋ねる。

「いえ、今の所有りません艦長。」

「そうですか・・・」

ペガサスは現在イリーナ島沿岸から離れた沖合に待機している、シーサーペントが何処から現れても対応できる様に。

「引き続き監視をお願いしますと伝えて下さい。」

「はい艦長。」

指示を終え恵理香はコーヒーを飲みながら海岸の方に視線を向ける。

「さて現れるかな?」

恵理香の隣で折り畳み式の椅子に座っているロベリヤがこちらもコーヒーを飲みながら呟く。

「私としては状況をはっきりさせる為に現れて欲しいけど・・・」

同じ様に恵理香の隣で座っている優香が呟く。

「まあ出来れば出現しない方が良いかもしれませんが。」

その方が平和に済みそうだが解決するなら現れて欲しいなと恵理香としては悩みどころだった。

ふと恵理香が時計を見ると時刻は深夜3時を過ぎていた。

「何も起こらないなあ・・・」

その頃海岸線近くでそうぼやきつつ監視に当たっていた乗員だったが次の瞬間。

「え、あれ!?」

「どうした・・・ええ!!」

もう一人の乗員が何時の間にか巨大なシーサーペントが海岸に現れている事に気づき上げた声に海岸を見る。

「う、嘘でしょ・・・一体いつの間に?」

乗員達にはそのシーサーペントが突然現れた様にしか思えなかった。

「艦長に連絡を・・・早く!!」

言われた乗員が慌てて無線機を作動させてベースキャンプに連絡を入れる。

「艦長、監視班からシーサーペント出現との報告です!」

その報告に恵理香は弾かれる様に立ち上がる。

「総員現場に向かいます、あとペガサスにも連絡を。」

指示を受けた乗員達はSMGを手に取り装弾を確認するとベースキャンプを飛び出してゆく。

その後を恵理香とロベリヤ、優香が続く。

「状況は?」

岩陰に隠れ海岸を監視していた乗員達に恵理香はたどり着くとそっと話し掛ける。

「今の所動きは・・・ただ変なんです。」

乗員はシーサーペントを見ながら答える。

「何の前触れも無く表れた感じがして・・・しかも。」

隣で居る同僚に視線を移しながら乗員は続ける。

「彼女に言わせると小型のシーサーペント2匹に見えるらしいんです、私には1匹なんですが。」

「・・・それは。」

ちなみに恵理香には中型のシーサーペントに見えている。

「ロベリヤ、優香はどうですか?」

傍らで海岸を見ているロベリヤと優香に恵理香が尋ねる。

「まるで動きが無くて、僕には活動している様には思えない・・・写真を見ている様な気分だよ。」

「・・・ロベリヤの言っていた幻覚と言う説も否定できないわね。」

そう言って腕を組み暫し考え込む恵理香。

「兎に角確認してみる必要がありますね、ドローンの準備お願いします。」

偵察用に小型のドローンを持ってきたのは正解だったなと恵理香は内心苦笑する。

「艦長準備完了です。」

ドローンの準備を終えた乗員が報告してくる。

「ドローンの情報送信システムは作動可能ですか?」

「申し訳ありません、調整がまだ終わってなくて・・・録画システムとセンサーは使用可能です。」

カメラが捉えた画像とセンサーが収集したデータを送る機能は作動しないらしい。

「仕方が無いですね、今はそれでいきましょう。」

「はい艦長。」

指示を受けた乗員がドローンを発進させシーサーペントへ接近させていく。

「総員警戒態勢を。」

「皆配置について!」

恵理香の指示を受け乗員達がSMGをシーサーペントに向け構える。

「ロベリヤ、優香は下がって・・・」

「いや残るよ恵理香。」

「私も。」

ベースキャンプへ下がるよう言おうとした恵理香の言葉をロベリヤと優香はきっぱりと拒否する。

「・・・分かりました。」

深い溜息をついて恵理香は肩を竦めると接近して行くドローンを見つめる。

「艦長、コースは?」

暫しシーサーペントとドローンを見ていた恵理香が指示を出す。

「そのままシーサーペントに進行させてください。」

「えっ?それではドローンが。」

そのままではシーサーペントに衝突するのではないかと乗員は復唱を忘れて恵理香に聞いてしまう。

「思いっきりぶつけて構いません。」

「はい艦長。」

乗員は一瞬困惑した表情を浮かべたが指示に従いドローンを操縦してシーサーペントに接近させてゆく。

そしてドローンはシーサーペントに接近して・・・そのまますり抜けていった。

「「「え!?」」」」

その光景に皆驚きの声を上げる。

「・・・恵理香、これってやっぱり?」

「ええ、疑いの余地はありませんね。」

恵理香はロベリヤと優香、乗員達を見渡して言う。

その時だった水平線上が明るくなってきた、どうやら夜明けを迎えた様だった。

「か、艦長シーサーペントが!?」

乗員の声に視線を戻した恵理香とロベリヤ、優香の3人はシーサーペントの姿が薄れ消えて行くのを呆然と見つめる。

「消えて行く・・・」

呆然とその光景を見ながら恵理香が呟く。

やがてその姿が完全に見えなくなると恵理香は深い溜息を吐いてロベリヤ達を見渡し指示を出す。

「一旦ベースキャンプに戻ってからペガサスに帰還します、キャンプには数名監視の人間を残して置いて下さい。」

「はい艦長。」

指示にそう答えると乗員達はベースキャンプに向かった。

「ロベリヤ、優香行きましょう。」

「うん恵理香。」

「ええ。」

ベースキャンプにロベリヤと優香と共に向かおうとした恵理香は再度海岸線を見る。

「・・・幻影の標的ですか。」

「恵理香何か言った?」

恵理香の呟きにロベリヤが聞き返してくるが恵理香は肩を竦めると答える。

「何でもありませんよロベリヤ。」

そして恵理香はロベリヤと優香と共にベースキャンプに到着後ペガサスに帰還したのだった。

「それではペガサスのセンサーにはまったく何も反応は無かったのですね。」

ペガサスの戦闘指揮所で恵理香は昨晩の状況をセンサー担当から聞いていた。

「はい、ソーナー及びレーダーにはまったく反応なしでした。」

海岸線を映し出していた暗視カメラの映像にも何も映っていなかったらしい。

「見えていたのは現場に居た我々だけだった訳ですか・・・ドローンのデータの方は何かありましたか?」

ドローン担当はタブレットを見ながら恵理香の問いに答える。

「画像データの方は暗視カメラ同様何も記録されいませんでした、ただ大気センサーに反応がありました。」

タブレットにドローン担当がデータを表示させ恵理香に見せる。

「ロベリヤ、どうですか?」

艦長席の隣に立ちタブレットを覗き込んでいるロベリヤに恵理香が尋ねる。

「・・・ペガサスのデーターベースには該当する物は無いのかい?」

「はい、該当するデーターはありませんでした。」

ロベリヤの問いにドローン担当が答える。

「それならギルドの研究班に送って分析してもらうしかないね。」

「わかりました、至急お願いします。」

ロベリヤの提案に恵理香は頷くとドローン担当に指示を出す。

「了解です艦長。」

ドローン担当がデータをギルドの研究班に送るのを見ながら恵理香は原因が解ればいいなと思うのだった。

数時間後研究班から帰って来た情報をディスプレー上に見ながらロベリヤが恵理香達に解説する。

「分析によれば・・・これは一種の幻覚ガスの様だね。」

「幻覚ガスですか?」

「そう、研究班は送られたデータを元にそのガスを再現してシュミレーションしてみたらしい。」

ロベリヤが指示すると共用ディスプレーにシュミレーション結果の情報が表示される。

「その結果このガスは人が恐れるものを見せてしまう事が判明した様だね。」

「恐れるもの?」

その意外な結果に恵理香と優香と思わず顔を見合わせてしまう。

「私達にとって共通する恐怖は何だと思う恵理香?」

恵理香と優香を見ながらロベリヤが問い掛ける。

「・・・シーサーペントですね。」

「なるほど、そうなりますね。」

ロベリヤの問いに恵理香と優香は頷きながら呟く、確かにこの北方海いや世界で生きる人々にとって最大の恐怖はシーサーペントだと気づいて。

「まあ見る者によって形態や数などが違うのは個々の恐怖心の違いで説明できるね。」

肩を竦めながらロベリヤは補足の説明をする。

「問題はそんなガスを誰が、いえ何がまき散らしているかですね。」

その説明を聞き優香は思案顔で言う。

「それは議論するより現地へですよ優香。」

片目をつぶって恵理香が言うとロベリヤと優香がほほ笑んで頷くのだった。

シーサーペントが目撃された海岸に近い海中を水中作業用強化外骨格パワードスーツが航行していた。

「ベースキャンプ、映像の状態はどうですか?」

強化外骨格に取り付けられたカメラによって撮られた映像はベースキャンプに送られていた。

『良好だよ恵理香。』

「分かりましたこのまま進みます。」

ベースキャンプでモニターしている優香からの返答に恵理香は頷いて答えると海中の岩石群の中を進んで行く。

そして一際巨大な岩石近づく、それは海上にまでそびえ立っているものだった。

岩石の近くで停止した恵理香はマニピュレーターが持つ小型のセンサーを海中岩石の側面に設置する。

「優香どうですか?」

ベースキャンプでセンサーのデータを見ている優香に恵理香が問い掛ける。

『ガスの検出を確認・・・量は大した事は無いみたいだけど。』

戸惑う優香の声にロベリヤが続く。

『推測だけど夜に活発化するじゃないかな、そう考えれば今までの状況に合うしね。』

例のシーサーペント目撃は夜間に集中していた事を恵理香は改めて思い出す。

「それにしてもこれがガスの発生源ですが・・・」

岩石から距離を取りそれを見つめながら恵理香は呟く。

『一見普通の岩石に見えるね。』

カメラによって映し出された映像を見ながらロベリヤが言う。

「正体についての議論は後にしましょうロベリヤ、それでは始めます。」

『ああ恵理香。』

恵理香は強化外骨格は岩石から離して距離を取ると浮上しマニピュレーターに装備したロケットランチャーを構える。

「目標ロック・・・発射。」

ランチャーからロケット弾が発射され岩石に命中しバラバラに吹き飛ばされる。

「破壊を確認、これより破片を回収し戻ります。」

『了解恵理香。』

恵理香は海底に散らばった破片をマニピュレーターで回収するとペガサスに戻った。

「お帰り恵理香。」

「ご苦労様恵理香。」

ペガサスに戻り指揮所に到着した恵理香をロベリヤと優香が迎える。

ロベリヤと優香に微笑みつつ頷くと指示を出す。

「私達はこのまま監視を続けます。」

「了解です艦長。」

恵理香の指示に乗員達は返答すると監視体制に入るのだった。

その夜にシーサーペントは出現せず島は久々の平穏を取り戻した。

暫く様子を見て問題ない事を確認した恵理香達は住民達から深い感謝を送られながら中央港へ帰投した。

「通常の珊瑚が突然変異を起こして特殊なガスを内部で発生させていたみたいだね。」

中央港に帰還しギルドの研究室に持ち込まれた破片は直ちに分析に回された、そして・・・

分析していた結果をロベリヤが恵理香達を会議室に集めて報告する。

「突然変異ですか?」

恵理香が聞き返す。

「うん・・・原因ははっきり言えないけど海の汚染だと僕は考えているよ。」

「海洋汚染ね・・・納得できるわね。」

優香が納得顔で頷くのを見ながらロベリヤが続ける。

「その突然変異体によって皆にあんな幻影を見せた、まあそれがシーサーペントなのは何かの皮肉かもしれないね。」

そんなロベリヤの言葉に会議室に集った一同は何とも言えない表情を浮かべる。

「ロベリヤ・・・もしそうだとすればまたあの幻影は現れるかもしれないと言う事になりますね。」

「そうだね・・・愚かなことを私達が続ける限りね。」

恵理香の言葉にロベリヤは深い溜息を付いて見せるのだった。


15:00 

イリーナ島に現れたシーサーペントの調査を実施。

その結果本物のシーサーペントでなく付近の岩石から放たれていたガスによる幻影と判明。

該当の岩石を破壊後シーサーペントの出現は確認されていない。

報告者:牧瀬商会所属駆逐艦ペガサス艦長牧瀬 恵理香。

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