幕間「海中作業用強化外骨格２」
それは奇妙なパーツで形作られたゴーレムに見えた。
身体から生えた４本の腕を振り上げ咆哮を上げている、もっとも水中なので聞こえる事は無かったが。
そしてそのゴーレムの前に立ち塞がる様に水中作業用強化外骨格を身に纏った一人の少女が居た。
しかし少女の強化外骨格は左のマニュピレータが破損しているだけでなくあちこちが傷だらけの状態だった。
『無駄な事を何時までも続ける積もりなのかしらねえ。』
嘲笑う様な女の通信が少女に送られて来る。
『仲間は全て倒れちゃったのよ、しかも貴女は最早戦える状態じゃない、もう残っているのは絶望だけよ。』
言われた少女は俯く、その女の言葉に打ちのめされた様に少なくとも見えた。
『私は生きている限り絶望するつもりはありません、自分の出来る事をするだけです！』
だがそうでは無かった、顔を上げそう告げる少女の瞳にはまだ強い闘志がみなぎっていた。
残った右のマニュピレータで剣をゴーレムに向け少女は強化外骨格を突っ込ませて行く。
『あははは！それでは死んで絶望しなさいエリカ。』
女の声と共に４本の腕を突っ込んで来る強化外骨格を纏ったエリカに振り下ろして来るゴーレム。
『はああ！！』
気合一閃エリカは剣でゴーレムの一撃を受け止め・・・次の瞬間激しい光が溢れ。
そこで画面は暗くなり浮かび上がる『続く』のテロップ。
「ああ何回見てもお姉ちゃん感動が抑えられないわあ！！」
見ていたテレビの前で立ち上がって絶叫するのは姉で牧瀬商会の会長である万理華。
「そうよね本当に燃えるシーンよ。」
絶叫はしていないが興奮を隠せず同じように立ち上がって声を上げる、ドックの優秀な技師である優香。
「その点については同感だね、うんいいよこれは。」
立ち上がる事は無かったが目を潤ませ感動の声を出す、ギルドのシーサーペント調査部研究員のロベリヤ。
「「「そうだよね恵理香。」」」
３人は同時に後ろ居た妹で友人で北方海の守護天使である恵理香に振り向いて問い掛ける。
「・・・３人とも恥ずかしいので止めて下さい。」
問い掛けられた恵理香は真っ赤になった顔を両手で覆いながらそう返す事しか出来なかった。
テレビアニメ『ブルーアークス』。
海中作業用の水中作業用強化外骨格の操縦者を育成する学校を舞台にした青春群像劇アニメ。
そう恵理香の知らぬ間に作成されてしまったあのアニメだった。
そして万理華達が今見ていたのはシーズン１のクライマックスシーンだった。
学校を突如襲った謎の巨大ロボットと主人公である東条 ユリの壮絶な一騎討ちの場面。
何回みても恵理香は恥ずかしくて仕方がない、特にユリがゴーレムに突っ込む寸前に言うあの台詞。
『私は生きている限り絶望するつもりはありません、自分の出来る事をするだけです！』
３人に言わせれば「何時も言っている言葉でしょ。」となるのだが。
正直言って自分の台詞をあんな風に熱血調に言われては本人としては恥ずかしくて仕方が無い恵理香だった。
ところで肝心のブルーアークスのストーリーだが。
学校に入学した平凡な少女東条 ユリが、様々な出来事を通じて強化外骨格乗りとしてその才能を開花させて行く。
そして多くの仲間を得て学校で起こる事件に関わっていったユリは、裏で糸を引く正体不明の敵が居る事を知る。
やがて正体不明の敵はそんなユリを抹殺する為に最強の刺客を送り込んで来る。
それがあのゴーレムだったのだ、その強力な力に仲間は傷つき倒れ、ユリも窮地に追い込まれる。
だがそれでもユリは戦う事を止めず、あの台詞を叫んで最後の突撃を行う。
それが冒頭のあのシーンな訳だ、万理華達が言う様に最大のクライマックス。
いや３人だけでは無く視聴者からも絶賛されているシーンなのだ。
ちなみにこの後ユリは辛くもゴーレムを倒すのだが、結局正体不明の敵は最後に声だけが出て来ただけでシーズン１は終わる。
まあこうなれば続きを見たくなるのは絶対で、シーズン２作成が最終回前に決まったのも当然だろう。
「ああ早くシーズン２見たいわね、お姉さん待ちきれないわ。」
そんな恵理香の心情などどこ吹く風とばかり万理華は興奮を隠しきれない様子だった。
「ストーリーもまた一段ともりあがりそうだしね。」
「本当に楽しみです。」
優香とロベリヤも同様に興奮を隠せない様だった。
そのシーズン２のストーリーだが・・・
最終回で声だけ出て来た正体不明の敵らしき女性が本格的に暗躍を始め、ユリ達を更に窮地に追い込もうとする。
確かに楯無達にとっては更に盛り上がるストーリーなのだが、恵理香はより一層に複雑な心境に追い込まれそうだった。
それは正体不明の敵らしき女性が強化外骨格の開発者で、自分の事を理解しようとしない為に世界を混乱させようとしていると言う設定だからだ。
優秀すぎる為に中央海の技師ギルドを追い出されたケイの境遇に重なってしまうからだ。
ただケイ自身はまったく気にしていないのか、『こうゆう展開待っていたのよ！！』と盛り上がっているのだが。
「それに主題歌も豪華だし。」
これもまた恵理香を複雑な心境にさせる事だったりするのだが。
「そうね世界の歌姫、神代レイが歌うんだものね。」
話題の一つにブルーアークスのシーズン２主題歌を神代 レイが歌う事が有ったからだ。
しかも神代 レイ本人から申し出が有ったと言うのだから世間が大いに盛り上がるのも当然だろう。
まあモデルが北方海の守護天使様となればレイが黙って見ている事などありえない話だ。
『素晴らしい歌にしますから、楽しみにしていてね恵理香ちゃん。』
主題歌を神代 レイが歌う事が発表された後にレイが送って来た手紙にそう書かれていたのを見て恵理香は最早笑うしか無かった。
「このまま晒し物にされ続けるのでしょうね。」
ブルーアークスのシーズン２で盛り上がる続ける万理華達を見ながら恵理香は鬱になるのだった。
