幕間「西村班長」
「ケイさんペガサスの整備の事で相談が・・・」
ドック事務室に入って来た恵理香はケイが居ると思ってそう声を掛けるが。
その声に振り向いて答えたのは白い作業用のつなぎにサングラスを掛け帽子をかぶった初老の男性がだった。
「ドック長に用か?申し訳ないが今席を外しているぞ。」
「いえ、約束があった訳でなないので構わないですが・・・お久しぶりですね西村班長。」
「おお久しぶりだな牧瀬艦長いや守護天使様。」
悪戯っぽい笑みを浮かべて恵理香の言葉に答えるのはドックで整備班長を担っている西村 庄司、ケイがもっとも信頼を寄せている技師だった。
普段から鬼の班長と呼ばれその厳しさでドックの職員達に恐れられている男だったが恵理香は一度もそんな経験が無かった。
この辺はケイに言わせると孫娘と思っているから「恵理香ちゃんだけには甘いのよ。」との事らしい。
まあこの点については「まあ確かに優秀な孫だな・・・ったくあいつに爪めの垢でも飲ませたいよ。」と西村班長も遠い目をして言っていたのだが。
「それで何かトラブルか?・・・ってお前さんに限ってそれは無いか。」
「そんな事は無いと思いますが。」
恵理香らしい控えめな態度と言葉に西村班長は笑いながら続ける。
「そうか?派手なドンパチやらかしても艦内システムの不調は無いし、艦体に掠り傷程度しか付けねじゃないかお前さんは。」
「ありがとうございます班長、ところでケイさんはどうされたのですか?」
恵理香はその賞賛に困った表情を浮かべつつ西村班長に問い掛ける。
「優香嬢ちゃんが突然来て「ケイ、今日という今日は許さわないわよ。」と言って連れ出していった、助けを求められたが、嬢ちゃんの迫力に止められなかったよ。」
西村班長の答えにどうやらケイが何か優香を怒らすことして制裁を受けているらしいと状況を理解し恵理香は呆れてしまった。
「そうですか・・・まあ何時もの事ですからね。」
「まったくな、ドック長も懲りない人だよ。」
そんな恵理香の言葉に肩を竦めつつ西村班長は同意とばかりに答えるのだった。
その後ペガサスの整備について恵理香と西村班長が話している所にお仕置きが終わったらしいケイと優香が帰って来た。
「あ、いらっしゃい恵理香ちゃん・・・西村班長お疲れ~」
嬉しそうに恵理香に抱きつくケイに優香は呆れた表情を浮かべ、それを見た西村班長は苦笑していた。
「はいお邪魔してます優香さん。」
「ドック長もな・・・優香嬢ちゃんとの話は終ったのか?」
「うん、何時もながら優香ちゃんの愛がこもった・・・」
「そんな物込めた覚えはないんだけど・・・恵理香いらっしゃい、西村班長お疲れさま。」
冷たい視線をケイさんに向けながら優香が恵理香と西村班長に挨拶する。
「それではお茶でも入れるね、紅茶でいいよね恵理香、西村班長も。」
「はい構いませんよ優香。」
「俺も構わんよ。」
恵理香と西村班長の返事に優香が微笑みながら紅茶の準備を始め様とする。
「優香ちゃん、ケイさんには・・・」
「ケイにはドックの水で構わないよね?」
相変わらず優香はケイに情け容赦なかったが、恵理香も西村班長も何時もの事だったので気にしなかった。
その後は皆優香の入れてくれた紅茶を飲みながら話をした。
何かと自分の開発したものを自慢するケイ、容赦なくそれに駄目出しをする優香、恵理香と西村班長はそんな2人の姿も何時もの事だと見ていた。
「それじゃ俺はそろそろ戻るぜ。」
やがて西村班長はそう言うとその場を辞してドックへ戻って行った。
「私も帰りますねケイさん、優香。」
恵理香もケイと優香にそう挨拶すると商会へ戻る為事務室を出て行く。
「お疲れ様恵理香ちゃん、西村班長。」
「うん恵理香またね、西村班長留守をありがとう。」
それをケイと優香は見送るのだった。
ドック事務所を出て商会へ帰りながら先ほどのケイと優香のやりとりを思い出す恵理香。
義理とは言え2人は本当の親子の様で幸せそうだったなと恵理香は笑みを浮かべる。
まあ私達だって仮初の姉妹かもしれないけど仲は悪くはないのだから幸せなのかもしれないなと恵理香は考える。
だったら万理華の事も大切にしないと恵理香は思ったのだったが・・・
「恵理香ちゃんお帰り、お姉ちゃん寂しかったわ。」
万理華は何を考えたのか玄関で水着の上にエプロンという姿で恵理香を迎えたのだった。
小一時間恵理香が万理華を説教したのは仕方が無い話だろう。