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北方海の守護天使  作者: h.hiro
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幕間「イージス駆逐艦ペガサス」

「ウォーカー商会所属サラトガより緊急信、巨大シーサーペントが中型シーサーペント3匹を追って警戒ラインを突破、隣接海域へ進行中。」

巨大シーサーペントが餌にしようと中型の3匹を追いながら船舶が多く航行している海域へ侵入しつつあるのを交代で監視しに当たっていた駆逐艦が発見する。

『ペガサスよりサラトガへ、現在急行中、貴艦は海域より離脱されたし。』

手が出せず傍観するしかなかったサラトガからの警告を聞きつけたペガサスから返答が入る。

「ペガサス!?北方海の守護天使が来てくれたのか。」

サラトガの艦長が安堵の表情を浮かべ呟く。

「海域を離脱する、前進全速。」

進路を海域の外に取り全速力で航行するサラトガ。

「艦長!前方より接近中の艦影を捕捉・・・ペガサスです。」

センサー担当が報告に艦長は見張り所に出て前方に双眼鏡を向けるとこちらに接近して来る守護天使が指揮する駆逐艦を確認する。

但し何時ものスプルーアンス型でなかった、その姿はアメリカ海軍のアーレイ・バーク型駆逐艦だった。

例の如くアメリカ海軍は存在しない世界なのでアーレイ・バーク級に似た駆逐艦と言い方が正しいにの言うまでもなかったが。

サラトガの横を通過していくペガサスの煙突には牧瀬商会所属である事を示す盾と剣を持った女神が描かれている。

そのペガサス艦内の明かりと言えばディスプレイや計器類の放つ僅かな光しかない戦闘指揮所には恵理香と元まほろば乗員達が居た。

「巨大シーサーペントは12ノットで進行中です艦長。」

複合ディスプレイを見ていたセンサー担当が報告する。

「分かりました、ドローンは配置に着きましたか?」

「はい着いています、映像も入って来てます。」

「では映像をこちらにお願いします。」

恵理香が指示を出すと、指揮所内の共用ディスプレーに巨大シーサーペントと中型の3匹が映し出される。

「海域監視システムを表示。」

その画像を見ながら恵理香が指示を出すと、繁殖地を写している画像が縮小し新たな画像が写しだされる。

そこには海図上をシーサーペントとタグが付けられた4つのマークが移動していく様子が表示される。

「総員戦闘配置、対水上ミサイル及び艦載砲の準備を。」

「総員戦闘配置繰り返す総員戦闘配置。」

恵理香の指示を受けた通信担当が艦内にアラーム音を響かせアナウンスすると、乗員達はそれぞれの配置場所に着いて行く。

「対水上ミサイル及び艦載砲の準備に入ります。」

火器管制担当が指示を復唱すると恵理香は頷き指示を続ける。

「ペガサスの進路と速力はそのままでお願いします。」

『ペガサスの進路及び速力はそのまま維持します。』

艦橋で操艦の指揮を執る副長が恵理香の指示を復唱する声が指揮所内に流れる。

これはペガサスでは恵理香が戦闘の指示を指揮所で行い、操艦の指揮を艦橋で副長が執る体制になったからだ。

「艦長!中型シーサーペンが射程内に入ります。」

「前部VLS(垂直発射システム)1番から4番発射用意。」

「1番から4番のミサイルに目標データ入力完了、発射用意良し。」

火器管制担当がディスプレイから振り向いて報告すると恵理香は頷き命じる。

「前部VLS1番から4番発射。」

「発射。」

恵理香の発射命令でペガサス前部VLSから4基の対水上ミサイルが打ち上げられる。

垂直に打ち上げられたミサイルは艦の上空で水平飛行に入ると急速にペガサスから離れて行く。

「ミサイル発射しました、目標まで1分30秒。」

火器管制担当の報告と共に、海域監視システム上に中型シーサーペン3匹に向かうミサイルの軌跡が表示される。

1分30秒後発射された4基のミサイルは目標である中型シーサーペントに命中し、凄まじい音と共に高く水柱が上がる。

「効果の確認急いで下さい。」

「中型3匹の撃破を確認・・・巨大シーサーペンはこちらに接近して来ます!」

センサー担当が複合ディスプレーを見ながら報告する、巨大シーサーペントは目の前で餌を奪われ怒り狂った様に突っ込んでくる。

共用ディスプレイに表示されている海域監視システムの表示には巨大シーサーペントがペガサスに接近して来る様子が表示されている。

「艦の進路を090へ。」

『進路を090へ。』

副長が復唱するとペガサスは進路を変え左舷側面を接近して来る巨大シーサーペントに向ける。

「特殊ロケット弾を発射用意。」

「目標データ入力完了・・・発射します。」

前後の煙突の間に装備されたランチャーから特殊ロケット弾が2発打ち出され巨大シーサーペントに向って飛翔して行く。

「前進全速取り舵いっぱい、総員衝撃に備えて下さい。」

ペガサスは発射後舵を右に切り巨大シーサーペントから全速力で離れて行く。

恵理香は離脱を指示後海域監視システム上にペガサスから発射されたロケット弾の航跡が表示されているのを見つめる。

数分後、ロケット弾が命中し激しい火柱が上がり衝撃波はペガサスを激しく揺さぶる。

やがてそれが収まってくると恵理香が指示を出す。

「ドローンの映像を出ますか?」

「暫くお待ちください艦長。」

画像は暫く乱れていた、十分離れていたとはいえドローンも衝撃波を受けた所為だった。

やがて画像が戻り巨大シーサーペントがボロボロになりながらも繁殖地へ逃げて行く様子が映し出された。

その光景に戦闘指揮所内の乗員達がほっと息を付く。

「レーダーでの監視を続行、ギルド本部へ対応完了の連絡をお願いします。」

「了解です艦長。」

指示を終え共用ディスプレー上に逃げ帰っていく巨大シーサーペントを見ながら恵理香は呟く。

「何とか・・・終わりましたね、流石はケイさん、相変わらずチートな艦を作りましたね。」

「本当だね流石はケイと言う訳だ、呆れを通り越して感心するよ。」

「私も同じ気持ちよロベリヤ。」

ロベリヤと優香が艦長席の恵理香の傍らに来てため息交じりにそう声を掛ける。

まさかこちらの世界でイージス艦に乗艦する事になるとは恵理香は思っていなかったが。

「ギルド本部より返信、対応を感謝するとの事です艦長。」

通信担当がギルド本部からの返信を伝えて来る。

「結構です・・・ドローン回収後海域を離脱し中央港に帰港します、警戒を怠らない様お願いします。」

「「「了解です艦長。」」」

帰って来る返答を聞きながら恵理香は深い溜息を付いてこうなった経緯を思い出していた。

「恵理香ちゃんまた新発明が出来たんだ、ぜひ見て欲しいんだけど!」

商会事務所にそう言ってケイが来たのは3か月前の事だった。

「新発明ですか?」

午後のお茶をしていた恵理香は困惑しつつ聞き返す、なお万理華はギルドに呼び出され居ない。

「それでは早速ドックへ。」

恵理香の困惑に気付く事なく腕を取り連れ出そうとする。

「ちょっと待って下さいケイさん、戸締りをあと姉さんに伝言を残して置かないと。」

何も残さず外出したら確実に万理華が拗ねてしまうと恵理香は懸念してケイを止めようとするが。

「万理華ちゃんなら大丈夫、ドックに来ている筈だからレイアちゃんと一緒に。」

「姉さんとギルド長もですか・・・」

ケイの新発明に姉やギルド長達も関わっているらしい、果たしてこれは吉なのか凶なのか恵理香は悩んでしまう。

「さあさあ早く。」

悩みつつ恵理香はケイにラボに隣接した専用ドックまで連れて行かれるのだった。

そしてラボに到着した恵理香は専用ドック前で待っていたらしい姉の万理華とギルド長のレイアに気付く。

2人を見て一体何が始まるのかと益々困惑が強くなってきた恵理香だった。

「来たか牧瀬艦長、まあ困惑するのは分かるが心配するな。」

困惑する恵理香を見てレイアが苦笑しつつ言ってくる。

「大丈夫だから恵理香ちゃん。」

万理華も微笑みながら頷いて見せるので恵理香は取り合えず落ち着くと問い掛ける。

「それでケイさんの新発明って一体?」

「この中に有るんだ、見て驚くのは確実、入って恵理香ちゃん。」

ケイに先導され扉からドック内に入って行く恵理香、その後をレイアと万理華が続く。

中は真っ黒だったが扉から漏れる光で船らしい姿が確認できた恵理香は首を捻る。

「それじゃお披露目だよ。」

ケイの声と共に照明が付きドック内が明るくなる、そして恵理香はそこにあった物を見て驚愕する。

ドック内にあったのは1隻の駆逐艦、恵理香はそれが何か一瞬で分かってしまった。

アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦、通称イジース戦闘艦だったのだ。

「じゃーんこれが私の開発した新型ミサイルシステムを搭載した駆逐艦ペガサスだよ。」

ペガサスの前でドヤ顔でケイが説明する。

「特徴はね、同時多目標の標的を誘導されたミサイルで迎撃するシステムなんだ。」

鼻息荒くケイは説明を続ける、恵理香はペガサスを見上げながら呟く。

「本当にイージスシステムですね。」

まあ恵理香の転生前の世界では防空専用だったが、こちらでシーサーペント専用と言う訳らしい。

この世界では明らかにチートな艦であるが既に水中作業用強化外骨格パワードスーツまで出て来たのだから今更かと溜息を付く恵理香。

「それでこの艦をどうするのですか・・・まさか?」

恵理香が察して万理華を見ると、姉であり商会長である彼女は頷いて答える。

「ええ牧瀬商会で使ってみてほしいとギルド長から要請を受けてね。」

いくら何でもこんなチート過ぎる艦を一商会に持たせる積りなのかと恵理香はレイアを見る。

「牧瀬艦長の懸念ももっともだ・・・正直言って最初に聞いた時はケイごと闇に葬るべきかと悩んだからな。」

「酷いよレイアちゃん。」

「うそ泣きをするな、あとちゃん呼ばわりもな。」

レイアはジト目でケイを見ると深いため息を付きつつ説明を続ける。

このような艦が出現したらここ北方海だけでなく中央海や南方海のギルドが大騒ぎになるだろうとレイアは懸念した。

一つの海域のギルドが強力過ぎる力を持つことで猜疑心を持たれる、例えそれがシーサーペントに向けられたものだとしてもだ。

それを聞いて恵理香はゲームも元にしたこの世界でも現実世界と同じだなと気が重くなるのだった。

「そこでハンターギルド所属の商会だけでなく広く他のギルドの商会、中央海や南方海のギルドも含め話し合った結果・・・」

レイアの視線を受け万理華が続ける。

「守護天使が扱うのなら構わないと納得してくれたの、流石は恵理香ちゃんよね。」

「はい?」

恵理香は万理華の言葉に直ぐに理解が出来ず暫し呆然としてから言う。

「本当ですかそれ・・・」

どうやら守護天使の名は伊達では無かったらしい、恵理香としては喜ぶべきか嘆くべきか迷ってしまうのだった。

「本当だ牧瀬艦長・・・正直言って守護天使の名がここまでとは私も思っていなかったよ。」

レイアも「賞賛すべきか懸念すべきか迷ったよ。」と言って苦笑いする。

「恵理香ちゃんなら当然ですわギルド長。」

「そうだね流石は恵理香ちゃんだよ。」

万理華はもちろんケイさえもドヤ顔で言ってくるので恵理香は更に恥ずかしくてしょうがなかった。

「牧瀬艦長、分かっていると思うが強大な力を持つからには重大な責任と義務を負う事になる。」

厳しい表情を浮かべレイアは恵理香を見つめながら言う、そこには同じ様にギルドという強大な力を背負う者の姿があった。

「だがこんな事牧瀬艦長にはわかりきっている事だろうがな、まあ私だけでなく周りに居る者も同じ認識だと思うがな。」

険しかった表情を崩しほほ笑みかけてくるレイアに恵理香は自分に課せられたものを改めて認識し答える。

「・・・分かりましたギルド長、ただまほろばはどうなるんですか?」

ここまで皆の信頼を受けている以上恵理香には断ると言う選択肢は無かったが、自分が今まで乗艦していた艦の行く末が気になった。

「まほろばはギルド海洋学校の練習艦として牧瀬商会からギルドが買い上げる形にする予定だ。」

「ペガサスの購入代金をそれで相殺する訳よ恵理香ちゃん。」

レイアに続いては万理華が事情を説明してくれた。

なお養成学校はハンターの養成を行うギルド直轄の機関だ、恵理香もそこで学び主席で卒業している。

「それであれば、お引き受けいたしますギルド長。」

自分の乗艦していたまほろばが後輩達の育成に貢献出来るならそれは光栄なことだなと嬉しくなった。

こうして北方海いや世界最強のミサイル駆逐艦が活動を開始したのだった。

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