第19話「愚かさが招いたもの」
「おい急げよ・・・気付かれると厄介だからな。」
闇夜の中、3人の男達はトラックを海に突き出した崖の上に持って来ていた。
「しかし良いのかよ?こんな事して?」
「知るか・・・所長がやれって言うんだからな。」
心配そうに話す男に先ほど急げと言った男が答える。
「よし止めろ、さっさと済ますぞ、ったく何でこんな事を・・・」
トラックを止め、男達は荷台へ向かい、乗っているドラム管を下ろし始める。
「じゃあやるぞ。」
そう言って持って来た7個のドラム管を海に30分ほど掛けて投棄する。
「戻るぞ・・・これで手当てが出ねえんだから、やっていられねぜ。」
「まったくだな。」
ボヤキつつ男達はトラックに戻りその場を離れる、ドラム管がどうなったか確かめもせずに。
実は落下途中でドラム管は岩に当たり、そのショックで蓋が飛んでいたのだ。
そして海面に落ちたドラム管は海水が入り沈んで行く、中に残されていた液体を辺りに撒き散らせながら・・・
数日後1隻の貨物船がイアス島沖を航行していた。
その航跡を辿るように黒い影が付いて来る事にその時点で船員の誰も気付いていなかった。
そして気付いた時には全てが手遅れだった。
激しい絶叫を上げシーサーペントが海面から現れ貨物船に襲い掛かった。
その瞬間船員達が見たのは、そのシーサーペントの目が真っ赤だった事だった。
貨物船は真っ二つになり沈み始めた、そんな中救難信号を出せたのは奇跡と言って良いだろう。
もっとも通信士は船と運命を共にする羽目に陥ってしまったのだが。
『艦長!シーサーペントの襲撃を受けたと救難信号が・・・位置イアス島沖合い座標5-11です。』
同時刻に近海を航行していたシルフィードの艦橋に通信室からの報告が響く。
「直ちに救助に向かいます、総員戦闘配置に着いて下さい。」
「総員戦闘配置、繰り返す総員戦闘配置。」
艦長席に座っていたセレスが指示を出すと乗員達が俊敏にそれぞれの役目を果たして行く。
そして速力を上げシルフィードは遭難海域へ向かう。
「艦載砲及びランチャー射撃準備。」
セレスの指示で艦載砲とランチャーが射撃準備に入る。
『・・・救命艇を発見しました艦長。』
左舷見張担当からの報告が入る。
「・・・・」
その報告にセレスは違和感を覚える、信号弾を使ったと言う事は生存者が居るからだろう、しかし・・・
「見張り、救命艇の状況は?」
『数は3、10~20人居ます。』
シーサーペントに襲われた船舶で生存者が居る事は無い訳ではないが、それは稀だったのでセレスは戸惑いを覚える。
真っ先に乗員達をシーサーペントは襲うからだ、だが今回は違ったのかとセレスは考える。
「機関停止、救命艇の収容を急いで下さい、レーダー及び見張を厳重に。」
兎も角生存者の収容を急がなければとセレスは判断する、まだ近くにシーサーペントが居ないとは限らないからだ。
救助中に襲撃を受け撃沈される可能性はけっして低くないからだ。
「機関停止。」
「救命艇の収容を急げ。」
「レーダーに反応無し。』
「周囲には救命艇以外確認出来ません。」
乗員達の復唱や報告が艦橋に流れる中、セレスは考え込む、明らかに何時もと違う状況に。
そしてそれは救助した人々から聞いた証言で深まった。
『やつは俺達には見向きもしなかった。』
『船に突進して来ただけだった。』
まるで破壊衝動に駆られているだけの様にセレスには思えた。
『目が真っ赤だった。』
何時とも違う行動を示唆する数々の証言、最早疑いの余地は無かった、このシーサーペントは明らかに異常だった。
1週間後イアス島沖合いにまほろばが到着する。
「艦長、イアス島にはあと1時間程で到着予定です。」
航法担当が艦長席に座る恵理香に報告する。
「了解です・・・到着まで引き続き警戒を怠らない様にお願いしますと。」
「分かりました、警戒態勢を維持せよ、繰り返す・・・」
恵理香の指示を副長が復唱すると艦内放送によって乗員達へ伝達する。
「しかし問題があるかもしれないからって我々が出る必要あるのかな?」
優香が恵理香の傍らに立ちながら呟く。
「商会の施設を調査・・・確かに前例の無い話だけど、ギルド長の懸念はもっともだと思うよ。」
同じ様に恵理香の隣に立つロベリヤが肩を竦めながら言う。
「確かにその商会にある重大な嫌疑を明らかにする必要があるとギルド長はそう考えているようですからね。」
優香とロベリヤの言葉に恵理香はそう答えると更に続ける。
「まあ正式な依頼ですので遂行するだけですが。」
恵理香はそう言うとここ来る事になったギルド長との会話を思い出していた。
「イアス島ですか?」
ギルド本部にあるレイアの部屋に呼び出された恵理香は彼女からある依頼を受ける事になった。
「ああ、イアス島にある商会施設の調査を牧瀬艦長に頼みたい。」
「・・・・調査ですか?」
意外な要請に恵理香は戸惑った表情を浮べ聞き返す。
「まあ表向きは施設の防御体制の調査だがな、ところで牧瀬艦長はイアス島にある施設について知っているか?」
「・・・様々な薬品の研究施設だったと記憶してますが。」
イアス島は北方海中央にある、人口300人の島だと恵理香は覚えていた。
そこに中央海資本の製薬商会の研究施設がある事も。
「実は中央海のハンターギルドから極秘の連絡があり、その研究施設が薬品の違法投棄を行なっている疑惑が浮上した。」
中央海のハンターギルドにその製薬商会からの内部告発があったとレイア。
「なるほど、でもそうならハンターギルドではなくてもいいのでは?」
恵理香は疑問に思ってレイアに聞く、そう言った疑惑の監査ならその製薬商会が所属するギルドがすればいい話だと考えたからだ。
「まあその通りなんだが・・・我々が恐れているのは違法投棄された薬品の生態系への影響、特にシーサーペントへのだ。」
レイアの懸念を理解し恵理香は息をのむ。
シーサーペントの生態について分からない事が多い、そんな未知の物にどんな影響があるか分からない薬品を与えてしまったら・・・
「そしてそれは現実のものとなった様でな・・・数日前イアス島沖で船が襲われた際のシーサーペントが異常だったとの報告があった。」
三雲商会のシルフィードから船を襲ったシーサーペントについてギルドにそんな報告が入ったと言ってレイアは報告書を渡して来る。
渡された報告書に書かれていたシーサーペントの異常さに恵理香はレイアを見ながら言う。
「これは確かに異常ですね・・・分かりましたギルド長。」
ギルド長からの依頼の事を恵理香が考えている中にまほろばの前方にイアス島の港が見えて来た事に気付くと指示を出す。
「入港します、準備を。」
恵理香の指示で艦橋の乗員達が動き始める。
「イアス島管理事務所に入港許可を要請。」
副長が艦内電話で通信室へ指示をする。
「艦長、入港許可下りました。」
暫くして入港許可がまほろばへ送られ港に入港して行く。
「機関反転・・・停止。」
まほろばはイアス島の桟橋に接岸するとタラップを降ろす。
「艦長、今桟橋に施設の所長が訪ねて来ているそうです。」
接岸が終ったまほろば艦橋にそんな連絡が入る。
「早速来た様だね。」
ロベリヤが肩を竦めて言う。
「こちらの真意を確かめる積もりでしょうね。」
優香が溜息を付きながら答える。
「どうしますか艦長。」
副長の問い掛けに葉に暫し考えていた恵理香は艦長席から立つと言う。
「会いましょう・・・相手の出方を見る必要があります。」
恵理香の言葉にロベリヤと優香が頷く。
まほろばから桟橋に降りると、2人の男性が待っていた。
愛想笑いを浮べる初老の男性と、何か探るような視線を投げ掛けてくる中年。
恵理香はロベリヤと優香を引き連れて2人の元に行く。
「よ、ようこそイアス島へ、研究所長を務めております安西と申します、こちらは事務長の酒井です。」
初老の男性が自分と隣に居る者の紹介をしてくる。
「まほろば艦長牧瀬 恵理香です、あとこちらは・・・」
「研究班長のロベリヤ・レインバーク、よろしく。」
「技術班長の優香・パーク、初めまして。」
見た目麗しい恵理香に2人の目に好色なものが浮かぶのをロベリヤと優香は見逃さなかった。
そんな目を恵理香に向ける2人をその場で叩きのめしたいロベリヤと優香達だったが何とか抑える。
ちなみに恵理香はそんな視線に元男であった為か気づいてもいなかったが。
「お出迎え感謝します、ギルドから連絡が行っていると思いますが、施設の防御体制調査への協力をお願いします。」
恵理香の言葉に2人は顔を見合わせる。
「・・・ええもちろんです牧瀬艦長、こちらこそお願いいたします。」
所長の男性は落ち着かない表情で答える。
「ただしこちらも業務がありますので、それは理解して頂きたい。」
事務長の男はそう言って恵理香を見る。
「それは十分理解しています、出来るだけそちらの業務に支障が出ない様配慮します。」
淡々と答える恵理香だが、心の中ではこれは完全に黒だなと思っていた。
明らかに恵理香達の調査を迷惑がっているのは明白だったからだ。
「それは助かります、施設の中には我が社の重要機密の物もありますのでね。」
「分かりました・・・それでは我々はこれで。」
そう言って恵理香達はまほろばへ戻って行った。
「ったくわざわざ自分達に探られたくない事があるって言っている様なものよねあれ。」
艦橋に戻ると開口一番優香が肩を竦めて言う。
「まったくだね、そう思わないか恵理香?」
ロベリヤも頷くと恵理香に問い掛ける。
「そうですね・・・では調査を開始して下さい。」
恵理香は調査に向かう乗員達を見渡しながら指示を出す。
「「「了解です艦長。」」」
まほろばを出発した調査班はまず予告通り防御施設の視察を装いつつ調査を開始した。
真の意図を見抜かれない為偽装の調査を行う班員達を目立つよう行動させその隙をつき別の班員達が動くという算段だった。
そしてついに班員の1人が何かを見つけ同僚の元に駆け寄ってくる。
「ねえ、こっちに来て。」
呼ばれた班員達は研究所の主要な施設からはかなり離れた所に案内されて向う。
そこには丈夫な鉄の柵で囲まれた今は使われていない様に見える倉庫群があった。
だが付近で見つけたタイヤ痕が最近の物である事に気づき顔を見合わせる班員達。
「・・・やはり施設のリストには載って無いわねここ。」
班員の1人が持ち込んだタブレットで施設に関して検索した結果を報告する。
「様子は?」
双眼鏡で施設を見ていた班員が振り向いて答える。
「今のところ人の気配は無し。」
先ほど呼びに来た班員によれば施設に入ってゆく数人の研究所の職員がいたらしい。
ただ今姿が見えなところから、他の班員達が来る前に去った可能性がある、そして再び戻って来る可能性も・・・
そう考え班員達は傍の施設の陰から監視する事にしたのだった。
暫くしてトラックが入って行くのを班員達が気づくと、全員顔を頷きあうと倉庫群へ向かう。
「おい良いのか?牧瀬商会が来ているのに。」
トラックの運転席から降りて来た男が、荷台に居た同僚に聞く。
「仕方ないだろう、あのままじゃ商会の連中に気づかれる、早めに移動しておいた方が無難だ。」
シートを取り除くと、数本のドラム缶が現れる。
「ったく何で俺たちがこんな厄介事をしなけりゃならないんだ、誰か代わって欲しいもんだぜ。」
「だったら代わってあげましょうか。」
ぼやく男にそんな言葉が掛けられ、慌てて振り向く連中の前に班員達が立っていた。
「お、お前らまさか牧瀬商会か!?」
「正解・・・それじゃ何をやっているのか教えて貰えるかしら?」
先頭に立つ班員の1人が男達を睨みつけながら言う、そして後ろにカービン銃を構えて立つ残りの班員達。
「くっ・・・だが所詮女、黙らせてやる。」
そう叫ぶと荷台から男が降りて来て班員の1人に手を伸ばすが。
「・・・!?」
男の腕を掴むと班員は捻り、その反動で地面に叩きつける。
「な・・・何!?」
叩きつけられた男は茫然とつぶやく。
男たちは知る由も無いが、班員達は全員格闘術に精通している者達で構成されていた。
だから男とは言え、ただの研究員達に適う筈も無かった。
「!?・・・」
「あら何所へ行く積もりかしら、まだ答えて貰っていないんだけど。」
もう一人の男はそれを見て逃げ出そうとしたが、あっさりと別の班員にカービン銃を突き付けられ取り押さえられる。
「さて話して貰いましょうか・・・大丈夫時間はたっぷりありますから。」
班員達の目が笑っていない笑みに恐怖に駆られる男達、この後全てを喋らさせられたのは言うまでもない。
男達の尋問を終えた班員達から恵理香に通信が入る。
『違法投棄は数か月前からやっていた様です、動機は禁止薬物の製造を隠す為です。』
男達を締め上げ、違法投棄を確認した班員達は他の班員達と共に所長室を強襲、所長を尋問し事実関係を確認握した。
それが禁止薬物を製造、中央海へ向かう商会の輸送船に紛れ込ませて運び、売りさばいたと言うものだったのだ。
関係した研究員を始めとした連中は既に全員身柄を拘束された、もちろんその中にあの事務長もいた。
彼の証言から中央海の商会幹部にも共犯者が居る事が分かり、事態はかなり大事になりつつあった。
『要は関係ない研究所の職員達にばれない様にする為、製造に失敗したり、余ったその禁止薬物を投棄したらしいですね。』
「その禁止薬物ですが、どんな物なんですか?」
班員の報告を聞いた恵理香が質問してくる。
『一種の興奮剤ですね・・・しかもかなり中毒性のあるやつです、また場合によっては服用した者を凶暴化させる恐れが有る様です。』
その答えに恵理香は深いため息をついてしまう。
「なるほどそれで全ての辻褄が合いますね。」
「辻褄?』
聞き返す優香に恵理香は三雲商会から報告のあったシーサーペントの異常な姿について優香とロベリヤに話す。
「それは・・・ったくとんでもない事をしたもんだねその連中。」
ロベリヤは心底呆れた様に呟く、自分達の利益のために、多くの人々を危険に晒す様な真似をしたものだと。
「兎も角、島に接近する前に捕捉撃滅する必要があります、もし仮に港にでも侵入されたら・・・」
「艦長!沖合を哨戒中のシルフィードより緊急信、『イアス島に向かいつつあるシーサーペントを発見、異常な速力の為、接近前の攻撃は困難、警戒されたし。』です。」
状況は恵理香達の予想を超えて最悪の段階に突入しつつあった、イアス島に最大の危機が迫りつつあった。
「イアス島の自警団に評議会を通じて警報を伝えて下さい、本艦はこれより迎撃に向かいます、総員戦闘配置。」
「はい艦長、通信室に至急評議会に連絡をする様に伝えて、それから総員戦闘配置を発令!」
「総員戦闘配置繰り返す総員戦闘配置。」
「通信室へ至急へイアス島評議会へ通信を・・・」
副長が恵理香の指示を各部に伝えると、まほろば艦内にアラーム音とアナウンスが流れ、乗員達が指示された行動をとってゆく。
「艦長、目標を補足、島の南岸へ急速に接近中です。」
1時間後艦橋内にセンサー担当の声が流れる。
報告に恵理香は艦長席を立つと、双眼鏡を持って見張り所に向かう。
「艦長、目標を視認・・・こちらには気づいていない様です。」
大型双眼鏡でシーサーペントを目視した見張り担当の報告に恵理香は頷くと次の指示を出す。
「島に辿り着くまでに撃破します、総員戦闘配置、ランチャー及び艦載砲発射用意!」
まほろば搭載の艦載砲とランチャーが発射準備を整えて行く。
『ランチャー及び艦載砲にデータ入力完了、何時でも攻撃出来ます艦長。」
火器管制室からデータ入力を受け、艦載砲とランチャーが旋回し仰角を取る。
「シーサーペントを島から引き離します、艦載砲打ち方始め!」
まほろばの艦首と艦尾の艦載砲が射撃を開始し、シーサーペントの前後に着弾するが針路を変えない。
「駄目です、シーサーペントは依然島に向っています。」
センサー担当が報告してくる悲痛な声に恵理香は次の指示を出す。
「まほろばの進路を島とシーサーペントの間に向けて下さい。」
「駄目です間に合いそうありません。」
異常に早い速度で進行するうえに島に近い為まほろばの速力をもってしても間に合いそうになかった。
「このままでは・・・」
だが次の瞬間シーサーペントの顔面に轟音と火柱が上がり絶叫が辺りに響き渡る。
薬で我を失っていたシーサーペントも流石に目が覚めたのか慌てて進路を変え島から離れて行く。
「艦長!シルフィードが前方より接近して来ます。」
見張り担当の報告に恵理香が双眼鏡を向けると、こちらに向かって全速力で向かってくるシルフィードが見えた。
「どうやらシルフィードが間に合った様ですね。」
シーサーペントを追っていたシルフィードが追い付たらしいと恵理香は気づき一息つく。
「シルフィードへ通信を、共に追撃に入って下さいと。」
シルフィードの艦橋で艦長席に座るセレスはまほろばのからの通信を聞いて奮い立つ。
「守護天使との共闘です、皆さんお願いします。」
「「「はい艦長!!!」」」
まあ乗員の大半は「セレスちゃん頑張っているわね。」と言う心情だったのは言うまでもない。
「艦首ロケットランチャーに目標データ入力、発射用意。」
「用意完了ですセレスちゃ・・・艦長。」
「発射!」
セレスの指示により艦首のロケットランチャーからロケット弾が轟音と炎と共に発射される。
発射されたロケット弾がシーサーペントの背面に命中し絶叫が辺りに響き渡る。
「今です全艦載砲打ち方始め。」
まほろばの前後の艦載砲がロケット弾の直撃を受けてなお進み続けるシーサーペントに命中する。
砲弾を受け更に絶叫を上げながら逃走を図るシーサーペント、既に身体はバラバラになりかけていたがまだ動きを止めない。
「くっこいつ何時もと比べて往生際が悪い!」
致命傷を負いつつなおも前進するシーサーペントを見てセレスが叫ぶ。
「薬の影響ですかロベリヤ?」
「あいつは身体の痛みなど既に感じていないんだろうね・・・ああなると哀れだよ。」
恵理香の問いにロベリヤは肩を竦めながら答える、薬の為シーサーペントの痛覚は正常に働かくなっているらしい。
「・・・それでは早く楽して上げましょう、艦首ランチャー発射用意。」
『目標データランチャーに入力完了です艦長。』
火器管制室からの報告に恵理香は頷くと指示を出す。
「これで終わりにしましょう、シルフィードに同時に攻撃する様に要請を。」
「はい艦長。」
まほろばのランチャーとシルフィードの艦載砲が断末魔を迎えつつあるシーサーペントに向けられる。
「ランチャー発射!」
「全艦載砲、打ち方始め!」
恵理香とセレスの指示により発射されたロケット弾と砲弾が降り注ぎこの哀れなシーサーペントの息の根を止めたのだった。
こうしてイアス島の研究施設による違法薬物の投棄から始まった一連の事件は終息を迎えた。
その後の事についてだが・・・
違法薬物の投棄に関わり拘束されたイアス島の研究所職員達は、その後島に到着したギルドから派遣された船に乗せられ連行されていった。
中央港のギルド本部に連行された後尋問を受けた後中央海のギルドへ引き渡される予定だった。
そして関わっていなかった研究所の職員達も一時的に中央海に戻る事になりイアス島の研究所は当分閉鎖される事が決まった。
イアス島は大きな損害を受けずに済み、恵理香はセレスと島民達から深い感謝を寄せられ、盛大な見送りを受け帰還する事になった。
「それにしても・・・今回はとんでもない話でしたね。」
イアス島から離れて退避港に向かうまほろばの艦橋で優香が溜息を付きながら言う。
「まったくね、このご時世、人間同士で足の引っ張り合いなんかして、まったく何を考えているんだか。」
優香の言葉に同じ様に溜息を付きながらロベリヤが続ける。
「本当ですね、こんな事やっている場合ではないと思うですが。」
恵理香も苦々しく言って優香とロベリヤは顔を見合わせて溜息を付く。
まあ今回の事は完全に人災と呼んでいいものだろうから恵理香達がそう思うのも無理は無かった。
恵理香は艦長席に座って艦橋の窓から海を見ながらふと姉が言っていた『人間の敵は結局同じ人間なのだ。』と言う言葉を思い出し絶望的な気分にさせられていた。
13:00
イアス島の研究所調査終了。
その結果違法薬物の製造を確認、関係者を拘束しギルド調査部に引き渡した。