第17話「支援艦天草VSシーサーペント」
『ギルバート島の沖合で発生した海底火山の噴火ですが、現在も活発な活動が続いています。』
激しく噴煙を上げる様子を監視中の駆逐艦はるなからの報告がハンターギルド本部に伝えられてきた。
「了解した、はるなは引き続き監視を続けてくれ。」
本部でその様子を見ながらギルド長のレイアがはるなにそう指示すると傍に居る職員に言う。
「航路とは距離が有ると言え付近を航行中の全船舶に対し十分注する様要請してくれ。」
「はいギルド長。」
職員が商船及び漁師ギルドに連絡を取るのを見ながらは大自然の驚異を感じ、自分がその場に居ない事にレイアは安堵しながら見ていた。
だが中継に映し出されていない海底下で厄介事が発生していた事にその時点でレイアは気づいていなかった。
数日後海底火山から数百キロ離れた海域を1隻の貨物船が航行していた。
「進路010、速力12ノット、航行は順調ですね船長。」
貨物船のブリッジで乗員がディスプレーを見ながら報告をする。
「うん順調だな・・・とは言えシーサーペントに対しての警戒は忘れずに・・・」
船長がそう言って注意を促そうとした時だった、レーダー画面を見ていた船員が慌てて報告して来る。
「船長!左舷より本船に接近して来るものがあります。」
「何だとシーサーペントか!?」
船長は海図台から双眼鏡を取ると左舷見張り所に出て接近してくる物に向ける。
「なっ!?」
双眼鏡の視界に入ったそれを見て船長は絶句する、顔面が崩れ目が潰れた状態で急速に船に迫って来るシーサーペントを見て。
「せ、船長あのシーサーペント目が見えないのにこっちへ突進して来ます一体なぜ?」
隣に立ち同じ様に双眼鏡を向けていた見張りの船員が驚愕した表情を浮かべて聞いて来る。
「俺に分かるか!?」
船に接近して来るシーサーペントに船長はそう答えるとブリッジに戻り指示を出す。
「機関全速!救難信号を出せ。」
「機関全速。」
「通信室救難信号を・・・」
船員達が大慌てで指示を実行して行く。
「シーサーペント更に速度を上げて接近中・・・駄目だ、ぶつかる!!」
次の瞬間、激しい振動がブリッジを襲い乗員達が壁や機器類に叩きつけられ悲鳴を上げる。
『船長!機関室に浸水です。」
「速力低下、操舵不能。」
乗員達の切羽詰まった報告に船長は真っ青になる。
「くそっ!!全員退避を・・・」
船長がそう叫ぶが船体は急速に傾き多くの乗員を道連れに沈んで行き、後には残骸だけが漂っていた。
船を沈めたシーサーペントは何時の間にかその姿を消していた。
「救難信号の発信座標に到着しました艦長。」
3時間後沈んだ貨物船の残骸が浮かぶ海域に救難信号を受信した支援艦天草が到着した。
天草は水中作業用強化外骨格のテスト海域へ航行中に救難信号を受信しこの海域に来たのだった。
その天草の艦長席に座って指示を出しているのは守護天使こと恵理香だった。
強化外骨格のテストをケイに頼まれた恵理香はそれだけではなく天草の指揮も頼まれたのだ。
「了解です、両舷停止。」
「両舷停止。」
恵理香の指示を受け機関担当の乗員が速力指示器を操作し天草を停船させる。
「作業艇を降ろして捜索を開始して下さい。」
「ええ恵理香、作業艇を降ろし捜索を開始。」
今回副長役を担った優香が艦内電話で甲板に居る乗員に伝える。
停船した天草から降ろされた作業艇2隻が捜索に向かう。
「総員警戒配置に。」
「総員警戒配置繰り返す総員警戒配置。」
作業艇の発進と警戒配置を指示した恵理香は露天甲板に出ると双眼鏡で漂流物が漂う海上を見渡す。
その漂流物が漂う中を2隻の作業艇が遭難者の捜索を開始する。
「艦長!作業艇1号より救助者を発見したそうです。」
報告を聞き恵理香が捜索海域に双眼鏡を向けると、作業艇1号の乗員が救命胴衣を着けた男性を海中から引き上げている様子が見える。
やがて救助者を引き上げた作業艇1号が天草に戻って来る、既に医療班が受け入れ態勢を整えて待機していた。
そして医療班は救助者を乗せたストレッチャーを医療区画へ運び込む。
その後捜索は続けられたが結局あの1人以外救助者を発見出来ず恵理香はこの後ろ髪を引かれる思いのまま帰港を指示する。
「テストを中断して中央港に戻ります、あとギルド本部へ状況を連絡して・・・」
その時だった艦長席に設置された艦内電話がコール音を鳴らす。
「はい牧瀬です。」
『須藤だ、天使様申し訳ないが医務室まで至急に来てくれないか。』
天草には恵理香と共に医師として須藤 美波も乗船していた、最近彼女はギルド専属に自ら志願してきたのだ。
その理由が「天使殿と居ると退屈しないから。」らしく恵理香を困惑させている、その彼女からの呼び出しに眉を顰める。
「救助者の事で何か有りましたか?」
救助者に何か問題があったのかと思い恵理香が聞く。
『その救助者が・・・訳の分からない事を言っていてな。』
「・・・分かりました取り敢えず向かいます。」
『ああ待ってる。』
「優香、後をお願いします。」
「了解恵理香。」
艦内電話を戻した恵理香は優香に後の事を任せると医療室へ向かった。
医療室へ入った恵理香は美波に救助者の寝ているベットに連れて行かれる。
「艦長の牧瀬です、何か有りましたか?」
頭に包帯を巻かれ荒く息をしていた男性はその声に目を開けると表情を歪ませて叫び出す。
「傷だらけの・・・シーサーペントが・・・目が無いのに突進して来て・・・助けてくれ!!」
男はそう叫ぶと頭を抱え暴れ出し看護担当達が慌ててベットに押さえつける。
「鎮静剤を急いで!」
美波が指示すると看護担当の一人が注射器を持って駆けつける。
注射器を受け取った美波は抑え込んだ男に注射するとようやく静かになり皆安堵の表情を浮かべる。
「傷だらけ・・・目が無いのに?」
「目が覚めたからこればっかり叫んでいてな・・・」
恵理香は男の言葉に首を捻って呟く。
『恵理香!緊急事態発生、艦橋へ至急戻って。』
その時だった医療室にあったスピーカーから突然恵理香を呼び出す優香の声が飛び出す。
恵理香は美波に後を任せ医療室を急いで出ると急いで艦橋へ向かう。
「一体何が?」
艦橋に戻った恵理香が尋ねるとセンサー担当が振り向いて報告する。
「本艦に接近中の物体があります、反応からしてシーサーペントの様です。」
「方位及び距離は?」
「左舷20度、距離3千です。」
恵理香はセンサー担当の報告を聞くと左舷側の見張り所に出て双眼鏡を接近して来るシーサーペントに向ける。
「艦長、あのシーサーペントの目潰れているみたいですが?」
大型双眼鏡でそのシーサーペントを見た見張り員が震えた声で恵理香に問い掛けて来る。
「その様ですね・・・」
乗員が言う通り顔面にあっただろう目は潰れている、いやそれだけでなく一部骨や内臓らしきものを晒しながら迫って来る。
「目標が更に接近して来ます!。」
見張り員の声に恵理香はよりによってこの艦でシーサーペントと戦う羽目になるなんてと思いつつ艦橋に戻る。
何しろ何時も指揮を執っているまほろばでなく武装はガトリング砲と機関銃しか装備はしていない支援艦なのだ。
だが躊躇している時間は無かった、恵理香には乗員と艦に対する責任が有り、それを放棄する事は出来ないのだから。
「両舷全速!」
取り敢えず天草を一旦退避させようと恵理香は指示を出す。
だが機関担当が恵理香の指示通り速度指示器を操作しようとした時だった。
「・・・いえ機関停止。」
「え?」
「恵理香!?」
何かに気付いた恵理香が指示を変更し優香と機関員が驚いた表情を浮かべる。
「機関停止して。」
「は、はい機関停止。」
だが直ぐに困惑しながらも優香が指示を出し機関員はそれに従う。
「目標の動きは?」
再び見張り所に出た恵理香の問いに見張り員は双眼鏡で目標を見ながら戸惑った声で答える。
「停止しています・・・これって?」
見張り員の隣に行き双眼鏡で同じ様に目標を見ながら恵理香は答える。
「思った通りですね、あいつは天草の機関音に反応しているんです・・・ロベリヤに艦橋に来る様伝えて下さい。」
恵理香は生存者の船員が「目が無いのに突進して来て・・・」と言った事を思い出し直感したのだった。
目が見えなくなったあのシーサーペントは船舶の機関音よって襲い掛かって来るのでなはないかと。
「現状を鑑みる限り恵理香が正しいと思うね。」
呼び出されたロベリヤは恵理香の隣に立ち双眼鏡でシーサーペントを見ながらその直感を肯定する。
「視覚を奪われても聴覚で獲物を狙う・・・シーサーペントらしいと言えるね。」
そう言ってロベリヤは肩を竦めて見せる。
「そうなると・・・うかつに動けませんし応援を呼ぶのも危険ですね。」
目が見えないシーサーペントが機関音で獲物を識別している以上天草をうかつに動かせない。
応援もその機関音で危険を呼び寄せてしまうかもしれずこちらも下手に呼べないと恵理香は結論を出す。
「さてこうなれば我々で対処するしかありませんね・・・」
「何か手は有るの恵理香?」
暫し考え込んでいた恵理香はロベリヤと優香に自分の考えた作戦を話す。
「・・・危険だと思うけど、私にはそれ以外の作戦を思いつけないね。」
「そうだね残念ながら私もだよ恵理香。」
ロベリヤと優香の言葉に頷くと恵理香は指示を出す。
「優香、強化外骨格と遠隔の起爆装置を付けた特殊爆薬の準備をお願いします。」
「爆薬は兎も角強化外骨格は気が進まないけど・・・分かったわ。」
優香は溜息を付きつつそう答え艦橋を準備する為出て行く。
「私はあの爆薬の方も気が進まないけどね。」
優香が出て行くのを見ながらロベリヤがぼやく。
まほろばに搭載される特殊ロケット弾の弾頭に使用されている爆薬は強力過ぎるだけにロベリヤが危惧するのも当然だろう。
「危険は承知ですロベリヤ、ですがそうしなければ我々に勝機はありません。」
確かに天草でシーサーペントと戦う事は無謀だとロベリヤにも理解は出来る、まあ特殊爆薬の使用も似た様なものかもしれないが。
『恵理香、強化外骨格と遠隔の起爆装置付きの爆薬が準備完了したわ。』
1時間後艦橋の恵理香へ優香からの報告が入る。
「ご苦労様です、直ぐにそちらへ向かいます、後をお願いしますね。」
その報告に恵理香は頷くと乗員に後の事を頼むとロベリヤ達に見送られつつ艦橋を出て行く。
優香が準備を終えたところに強化外骨格用マスター・スレイブ・スーツに着替えた恵理香が到着する。
「優香お願いしますね。」
「うんこっちへ。」
用意されていた強化外骨格に恵理香は素早く駆け寄ると優香の手助けで装着する。
そしてクレーンで海中に降ろされると既に降ろされていた起爆装置を付けた特殊爆薬入りのコンテナを左右のマニピュレーターで掴む。
固定用ワイヤーが外され恵理香はコンテナをマニピュレーターで掴んだまま海中に潜りその海域に有った岩礁に向かう。
岩礁に到達した恵理香はコンテナを設置すると天草に引き返しスーツ姿のまま見張り所に起爆用リモコンを持った優香と共に向かう。
「発進準備をお願いします、総員戦闘配置に。」
「了解です艦長、総員戦闘配置繰り返す総員戦闘配置。」
恵理香の指示を受け艦内にアラーム音が鳴り響き乗員達が戦闘配置に付いて行く。
「発進準備完了です艦長。」
「前進全速!やつの前を掠めて岩礁へ誘導します。」
天草はシーサーペントへ向かい前を掠める様に通過すると岩礁に向かって行く。
シーサーペントは恵理香の思った通り天草の機械音に反応すると後を追い始める。
「岩礁まであと1000です。」
天草が岩礁に接近して行く。
「取舵一杯、岩礁を回避後元の進路に戻して下さい。」
「取舵一杯、回避後元の進路に戻します。」
操舵担当が復唱し天草は岩礁を回避後元の進路に戻り岩礁から離れて行く。
「シーサーペント岩礁へ接近中。」
シーサーペントは一直線に天草の機関音で誘導され岩礁へ向かって行く。
普通なら岩礁を避けるのだが目が見ない為シーサーペントはそれが出来ず一直線に向かって行く。」
「距離500。」
「優香、今です点火して下さい。」
「うん点火!」
優香が起爆スイッチを押して岩礁に設置されている特殊爆薬を爆発させる。
次の瞬間岩礁に火柱と破片が飛び散り、その轟音に恵理香達だけでなく天草さえも揺らす。
そして火柱と破片に全身を直撃されたシーサーペントは海面上をのたうち回っていたがやがて動かなくなり海中に沈んで行く。
「レーダーの反応は?」
センサー担当が複合ディスプレイを見ながら恵理香の問いに答える。
「反応消失しました艦長。」
その声に艦橋内は喜びと天使への称賛で優香とロベリヤそして乗員達が盛り上がる。
恵理香は盛り上が収まるまで顔を真っ赤にして俯いているしかなかった。
「これでまた守護天使の名声が高まるね。」
ロベリヤが腕を組みながら呟くと優香も頷いて言う。
「駆逐艦でなく戦闘に向かない天草でシーサーペントを撃破したんだから当然ね。」
2人がそんな話をしていた事を恵理香は恥ずかしさで慌てていた為気づかなかった。
ギルドへの連絡や付近の警戒でざわつく艦橋にロベリヤがタブレットを持って入って来る。
「一応分析が終わったよ恵理香、あのシーサーペントの負傷の原因は火傷だったみたいだよ。」
何故シーサーペントがあんな状態になったのかを恵理香はロベリヤに調べて貰っていたのだ。
「火傷?一体どうして・・・もしかして海底火山の噴火が原因と言う事ですか。」
あのシーサーペントは噴火に巻き込まれあの状態になったのではないかと恵理香は考えたのだった。
「なるほどねそれならあの酷い火傷も納得できるね。」
ロベリヤは恵理香の考えを聞いて納得した表情を浮かべて言う。
「艦長、ギルドからシーサーペントの撃破に感謝するとの通信が入りました。」
「了解です、これより天草は帰港しますと伝えて下さい。」
これでようやく終わったなと恵理香は安堵の溜息を付くと次の指示を出す。
「警戒配置を維持しつつ中央港へ帰港します・・・皆さんお疲れ様でした。」
「「「「はいお疲れ様でした艦長。」」」」
こうして天草は中央港へ向かい、恵理香と天草乗員達にとって長った1日は終わりを告げた。
なおロベリヤと優香の言った通り、今回の事は北方海はもとより中央海や南方海でも有名になり恵理香の守護天使の名を高めるのだが。
恵理香が恥ずかしさと困惑に襲われ喜ぶ気にならなかったのは何時も事だった。
15:50 救助及びシーサーペントの掃討完了。