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北方海の守護天使  作者: h.hiro
20/35

幕間「三式潜航輸送艇みやまの災難」

「艇長機関が・・・」

「トイレがまた調子悪くなりました。」

「ベント弁が開かねえ!」

「うるさい!いっぺんに言うな、一人づづ言え!」

今日も三式潜航輸送艇みかさはトラブルに見舞われていた

「くそったれ何でこうトラブルばっか起こるんだ機関長?」

司令塔上で憤慨している艇長の傍らに立つ機関長の男がため息交じりに答える。

「そうりゃこの艇がおんぼろだかでしょう・・・中古品を値切って買った奴ですからね。」

「馬鹿野郎、使える物は動かなくなるまで使うのが俺のポリシーだ。」

それでなくても使い勝手の悪い艦のしかも中古品なのだから、あちこち具合が悪いのは当然だった。

「・・・その所為でこうなっているんでしょうが、ほんとうちの艇長はケチなんだから。」

「何か言ったか?」

「さあ何か言いましたか俺?そうだベント弁の修理もう少し掛かりそうです、それまでシーサーペントに遭遇しない事を祈りましょう。」

睨みつけて来た艇長に惚けつつも状況を報告する機関長、みさかは今潜航する為に必要な機構の一つであるベント弁が故障していた。

これが何を意味するかは説明の必要ないだろう、みやまは潜航する事が出来なかった、つまりここでシーサーペントに遭遇すれば最悪の事態と言う訳だ。

「くそったれ・・・レーダーどうだ?」

毒づくと艇長は艦内通話機でレーダー手を呼び出すと尋ねる。

『いや・・・何時も通り移りが悪くて・・・わかりません!』

「馬鹿野郎、何嬉しそうに言ってやがるんだお前は!」

そんなやり取りを機関長は苦笑しつつ傍らで双眼鏡を持って周りを見ている男に言う。

「頼りはお前さんだな。」

「いやいくら何でもレーダーの変わりなんて出来ませんよ。」

この中では一番若い男はそう言って困った表情を浮かべる、彼は最近みやまに来たばかりの人間だった。

「そうりゃそうだ、お前さんも難儀だなこんな艇に来ちまってな。」

機関長は同情した様に若い男の肩を叩きながらぼやく。

「トイレを始め機器は故障が当たり前、食事は缶詰ばかり、だが一番最悪なのは暑苦しい男所帯ってところか。」

「うるせい、みやまは男の城だ、女なんかいらん。」

艇長は機関長のぼやきを切って捨てる。

『要らないとゆうより乗せられないじゃないですか、ああ一度でも良いからまほろばに乗ってみたですよ私は。』

レーダー手が艦内通話機しにボヤいてくる。

「まあ確かにな・・・あっちは食事だってちゃんとした物が出るし、居住性だって段違いだ、武装だって凄いからな。」

みやまの居住性や搭載武装などまほろばに比べれ格段に劣る、だから乗員達にとってまほろばは羨望の対象だ。

「何よりあちらはあの守護天使様の乗って居る艦だからな、しかも乗員だって女性ばかり、はあこっちとは段違いだ。」

「そうですね・・・でも僕は女性ばかりの艦に乗る度胸は無いですけど。」

見張り員の男は機関長の言葉に苦笑を浮かべつつ言う、まあ彼の一家が女系家族だからそう思うのだったが。

『そうかあ?何か期待してしまうんだが俺は。』

「女性は集団になると怖いですよ、ましてそこに男が少数しか居なかったら良い的ですよ。」

レーダー手の言葉に見張り員は肩を竦めて返す、実家に居た時は姉や妹に弄られたから経験があったからだ。

あっちは可愛がっている積もりの様だったが当人として大変だったのだ、ちなみにしょっちゅう『何時帰れるのか?』と連絡が来る。

『・・・っとあれ?艇長、レーダーに反応が、方位010です。』

そんな与太話をしていた司令塔上にレーダー手から報告が入る。

「何だ?おい何か見えるか見張り。」

その報告に艇長が問いかける、すぐさま見張り員は双眼鏡をその方向に向ける。

「あれは・・・艇長シーサーペントです!」

洋上を1匹のシーサーペントが向かってく来る、それ程大きくは無いがみやまとっては十分脅威だ。

「くっそ、機関全開、総員戦闘配置だ!」

艇長の指示に司令塔上は騒然となる。

「ああ悪い予感が当たりやがった、艇長全開と言っても今の状態じゃ半分も出せね。」

機関長が青い顔で報告する、少し前に故障し、先程やっと動く様になったばかりだったのだ。

「分かってる、応戦用意!早くベント弁を直せ。」

その指示に機関長は慌ててハッチから艇内に降りて行く、一方甲板に砲員が出て来ると艦首にある艦載砲に取り付き発射体制に入る。

司令塔上に設置された機関銃にも乗員が配置に付く。

「シーサーペント更に接近中!距離2千・・・大丈夫なんですか?」

接近して来るシーサーペントに対し、みやま搭載の艦載砲と機関銃は余りにも非力に見張り員は見えた。

「・・・何とかなる!気合と根性で!」

その言葉に見張り員は絶望に陥る、そんな物で勝てる程シーサーペントは甘くない事を船乗りなら誰でも知っているからだ。

ああ姉さん、妹よ、俺は帰れそうも無い、御免と見張り員が覚悟を決めた時だった。

飛来音がしてシーサーペントの進路上に水柱が数本上がったのだ、驚いた艇長と見張り員が周りを見渡し・・・

「艇長!左舷後方に船・・・いや駆逐艦が接近して来ます。」

見張り員が指し示す方を見た艇長が驚愕の表情を浮かべ叫ぶ。

「あ、あれは!?」

左舷後方に何時の間にか1隻の駆逐艦が接近して来ていたのだ。

「どこの商会の?」

見張り員が疑問の声を上げるが誰もそれに答えられる者は居なかった。

接近して来た駆逐艦は、艦前方の艦載砲をシーサーペントに向けて発砲している。

「自分の方に引き付けてこっちを助ける積もりか。」

その言葉に見張り員は気づく、その駆逐艦の砲撃が命中させると言うより誘う様に進路上に着弾させている事に。

結果シーサーペントは狩りを邪魔した駆逐艦に目標を変更し向かって行く。

それを確認した駆逐艦は進路をみかさから離れる方に取り離れて行く。

その時になってみかさの乗員達はそのの艦尾に掲げられ翻っている旗を見てその駆逐艦の正体を知る事になった。

「まほろばか・・・やってくれるじゃないか天使様。」

艇長はその駆逐艦が天使の指揮するまほろばと知って苦々しく呟くと乗員達と一緒にまほろばとシーサーペントを見送る。

「艇長、ベント弁修理完了、潜航出来ますぜ。」

機関長がハッチから顔を出して報告して来たのはそんな時だった。

「馬鹿野郎!もう遅い、シーサーペントはまほろばと共に行っちまったよ。」

「へっ!まほろばが・・・」

艇長の言葉に機関長は司令塔上に飛び出して来ると辺りを見渡す。

だがまほろばの姿は水平線の彼方に消えておりその姿を機関長は見る事は出来なかった。

「ちくしょう見たかったぜまほろばを。」

悔しそうに機関長は言う。

「てめえの見たかったのはどうせ天使様だったんだろうが。」

そんな機関長を見て艇長は呆れた様に言う。

「まあそりゃあね、噂の北方海の天使様ですぜ一度はその顔を見たいじゃありませんか。」

呆れられたの構わず機関長はドヤ顔で答える。

そんな2人を見て見張り員は苦笑しつつ、出来れば自分も会ってみたいものだと思った。

危機が去りほっとした空気が流れる司令塔上の3人は次の瞬間、響いて来た轟音に一斉に聞こえて来た方を見る。

水平線上に上がる水柱を見て、3人はまほろばがシーサーペントを仕留めたのだと確信したのだった。

それから数十分後。

『艇長、左舷より接近して来る艦影を確認・・・シーサーペントじゃありません。』

その報告後通りみやまの左舷側にまほろばが接近して来る。

世界最強の駆逐艦でありあの北方海の守護天使の乗る艦、それが今自分達の傍に居るのだ。

乗員達は羨望の眼差しでまほろばを見る。

『艇長、まほろばより通信、何か援助する必要が有るか聞いてます。』

通信士から艦内電話を通して報告が来る。

「・・・問題無いと言って置け。」

艇長は憮然とした表情で答える。

「いや艇長、まったく問題が無い訳じゃあ・・・」

「馬鹿野郎、助けられたうえに更に援助なんか頼めるか!」

シーサーペントの襲撃から救われたうえに助けを乞うなど男として出来るかと艇長は言いたいらしい。

「まったくプライドだけは高いんだから・・・」

「何か言ったかぁ?」

「いえ別に。」

呆れた様に言うと艇長が睨んで来たので機関長は惚けるとまほろばの方を見てぼやく。

「これ幸いに天使様と親しくなれるかもしれないのになぁ・・・それにしてあの恰好エロいよなぁ。」

甲板上に出て艦周りの点検をしている女性達を見て呟く機関長。

一応上にジャケットを着ているとは言え、ちらりと見える身体に張り付いてラインが出る艦内服は男心(スケベ心か)を刺激するらしい。

「ははは・・・そうですね。」

苦笑しつつ見張り員は答える、まあ彼も女性乗員達を見て感じる物が無い訳では無かったが。

「変な目で見たら怒られますよ、女性はそう言う視線に敏感ですから。」

甲板に居た乗員の1人が機関長のそんな視線に気付いたのか、こちらを睨みつけているのに気づき見張り員が言う。

「おっと・・・これは不味いな。」

言われた機関長は気まずそうに眼を逸らす、ちなみに見張り員がそう言った点に詳しいのは、姉や妹達に散々言われているからだが。

『まほろばより返信、貴艦の無事な航海を祈ります、との事です艇長。』

「ふん。」

その返信の内容に艇長は憮然とした表情のままで答える。

やがて点検が終了したのか甲板上に出ていた乗員達が艦内に次々と戻って行く。

そんな中見張り所に女性が出て来るとこちらに向かって手を振って来た。

憮然とした表情の艇長に苦笑しつつ機関長と見張り員が手を振り返すと、女性は微笑み艦橋に戻って行く。

暫くしてからまほろばはみやまから離れて行く。

「行きましたね・・・」

「ああいっちまったな。」

機関長と見張り員はそう言って顔を見わせる、天使達との突然の邂逅に2人は感慨深い思いを味わっていたのだ。

「ったく何時までも惚けているんじゃぞお前達、俺達も行くぞ、天使なんかに負けてられるか。」

そんな2人に向かって鼻息高く言って来る艇長に機関長と見張り員が呆れた表情で呟く。

「負けられるかって、元々勝負にならんでしょうがまほろばと天使様に。」

中古品の潜水艇にろくでなしな乗員の集まりでは艇長がいかに吠えようとも同じ土俵に上る事さえ出来ないだろうと機関長。

「一応助けてくれたんですから少しは感謝しましょうよ艇長。」

天使様は危険を顧みないでみやまを助けてくれたのだからと見張り員。

「言われんでも分かっている、だがそれでもだ!」

艇長はそう言うとハッチから艦内に入って行く、それを機関長と見張り員は顔を見合わせて苦笑する。

「素直じゃないんですから艇長は。」

「まったくですね。」

「無駄話なんかせずさっさと行くぞ、輸送の仕事はまだ終わってないんだからな。」

艦内から聞こえて来る艇長の声に機関長と見張り員は再び顔を見合わせて苦笑すると艇内に入って行くのだった。

三式潜航輸送艇みやまとその乗員達は今日もお仕事に励む。

彼らもまたまほろばと天使達と同じく危険と隣わせの海に生きる者達だった。

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