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北方海の守護天使  作者: h.hiro
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幕間「水中作業用強化外骨格」

その日恵理香は身体のラインがはっきり出るボディスーツタイプのつなぎに、小型の圧縮酸素ボンベ付のヘルメットを被った姿で海中に居た。

別に水中作業をしている訳では無かった、それは機械を全身に纏っている異様な姿からもも分かるだろう。

事の始まりは数時間前桟橋で停泊中だったまほろばにやって来たケイのこの言葉から始まった。

「見てくれたまえ私の新作メカを。」

「・・・はい?」

恵理香が呼び出された桟橋まで来ると、台車に乗せられた物を前にケイがドヤ顔で言う。

また飛んでもないメカを作成したのかと恵理香が固まったのは言うまでもなかった。

そして台車に置かれている物を見て更に固まる事になる。

「ケイさんそれって・・・」

それを見つめながら聞くと、ケイは胸を張って説明し始める。

「これこそ海中作業用の強化外骨格だよ。」

いわゆるパワードスーツの事らしい、大型のマニュピレータや背中の部分には翼みたいなものが付いている。

それにしても海中作業用と言うのやはり海洋が舞台だからかと恵理香は思った。

「装備されたマニュピレータにより大型の機材を運搬し、水中で扱うことが出来るよ、それに水中推進システムとして水噴流エンジンを採用。」

ケイが台車に寝かされていた強化外骨格をリモコンで起こしながら説明を続ける。

「既存のスクリューを使った推進システムに比べスピードは段違い、これは将来艦船にも装備させたいと思っているんだけどね。」

前世で見た事のあるウォータージェットだろうかと恵理香。

「それでこの・・・強化外骨格のテストを私にと言う訳ですか。」

「うんお願い出来るかな、恵理香ちゃんなら操作は問題ないからね、前にテストしたからね。」

恵理香は以前ケイのラボに呼び出され、何かのシュミレーションをやらせられた事が有った。

今考えればあれが強化外骨格の操作訓練だったのだと確信する恵理香だった。

「ケイ、恵理香。」

そんな2人の元に圧縮酸素ボンベ付のヘルメットを持った優香がやって来る。

今回優香は試験のオペレーターを務める事になっていた。

「モニターシステムの準備が終わりました。」

「うんありがとうね優ちゃん。」

優香からヘルメットを受け取りケイが点検を始める。

「恵理香、今回もケイの我儘に付き合ってもらってありがとう。」

申し訳なそうな表情を浮かべながら言う優香に恵理香は微笑みながら答える。

「気にしないでもいいですよ優香、私は大丈夫ですから。」

優香としてはケイの我儘に恵理香を付き合わせてしまう事に胸を痛めている様だった。

久々の休暇を潰す事になってしまったからだ、もっとも精々部屋で本を読む予定しか無かったので恵理香は別に気にしてはいなかったが。

「それにこの強化外骨格には興味がありますから。」

転生前に見たSF映画に出てきた強化外骨格パワードスーツみたいで恵理香としては多大な興味が有ったからだ。

「うんうんケイさんは嬉しいよ恵理香ちゃん、期待は裏切らないから安心して大丈夫!」

ドヤ顔で言うケイに優香は深い溜息を付くと恵理香に荷台上に上がる様指示する。

苦笑しつつ特殊なボディスーツ(マスター・スレイブ用スーツ)に着替えていた恵理香が台車上に上る。

「それじゃまず両足を入れて、それから背中を預けて、優ちゃん固定を確認して。」

「はい、恵理香ちょっとごめんね。」

ケイの指示通り起きあげられた強化外骨格の脚の部分に恵理香が両足を入れる。

優香は正面から両足を入れ終わった恵理香に抱き着く様な感じで背中に両手を入れて、スーツと強化外骨格との接続を確認してくる。

優香の様な美人に抱き着かれ恵理香は非常に恥ずかしかった、まして身体のラインが強調されるボディスーツ姿でだ。

例え自分が今は女性であったとしても恵理香にしてみれば恥ずかしい事には変わりがなかった。

「固定を確認、恵理香具合はどう?}

真正面から抱き着かれ、上目遣いで見られ、恵理香は妙な気分にさせられてしまう。

傍から見たら女性同士が抱き合っている様に見え、その手の趣味の人間には大いに受けそうな光景だった。

まあこの場に居ないロベリヤや姉である万理華はその光景に嫉妬で怒り狂うだろうが。

「どうかした恵理香?」

「う、うん大丈夫ですよ優香。」

落ち着かない様子の恵理香に優香が聞いてくる。

まあ優香としては準備をしているだけで他意は無いと恵理香は思っていたが。

本当のところ優香は真面目な表情をして作業していたが役得だと心の中で喜んでいたのだったが。

「それではヘルメットを・・・失礼します。」

優香はケイが機能を確認したヘルメットを恵理香の顔に被せると気密を確認する。

「どうでしょうか恵理香様?」

『うん問題ありませんよ優香。』

頭にセットしたヘッドセットを通じて状況を確認してくる優香に恵理香は答える。

「それじゃ海中に降ろすね、優ちゃんよろしく。」

「分かりましたケイ。」

台車の横に用意されていた小型クレーン車のリモコンを操作し優香は強化外骨格を纏った恵理香を海中に降ろす。

そして首元まで海中に入ったの確認しクレーンと強化外骨格の接続を解除する優香。

『では行ってきますケイさん、優香。』

「うん恵理香ちゃん。」

「気を付けてね恵理香。」

恵理香は二人にそう言うと強化外骨格を操作し海中に潜って行ったのだった。

そして状況は冒頭に戻る。

『何だか不思議な気分ですね。』

水中での航行は水噴流エンジンのお陰で加速や停止はスムーズだった、そして背中の翼(舵か)で水中での機動も自在だ。

港から出発した恵理香は近くの岩礁に向かいその周りを航行していた時にふと海底に奇妙な光を見つけた。

『漁?いえまだその時期では無い筈ですが・・・』

この辺は島のご婦人方が貝を収獲する所だが、まだ漁の時期では無かったと恵理香は記憶していた。

『確かめておきますか。』

恵理香は強化外骨格を光が見える場所の近くにある岩場の陰に向ける、そこからなら気付かれる事も無く様子を見られるからだ。

そして覗き込んだ恵理香が見たものは海底をランプで照らし貝を取るウエットスーツを着た二人組だった。

『密漁ですか・・・」

ギルドの規定でこの期間は漁は行われ筈だ、だからこんな事をするのは密猟者としか考えられない。

海上を見上げた恵理香はボートが一隻泊められているのに気づく、連中が乗って来たものだろう。

さてどうしたものかと恵理香は考える、この一帯は島の人々にとっては大事な生活の糧となる場所だ。

それを荒らす行為は許されるものでは無い、だが今の私ではと考えふと自分の姿を思い出す。

強化外骨格を身に纏った自分の姿に・・・

恵理香は水噴流エンジンを全開にして岩陰から飛び出すと二人組に迫る。

彼らは強化外骨格を身に纏って突然現れた恵理香に動揺し逃げ出そうとするが・・・

人が泳ぐスピードなどたかが知れている、あっと言う間に追いついた恵理香は大型のマニュピレータで2人を捕まえる。

2人は暴れ逃れ様とするが、大型の機器を運搬し扱う事の出来るマニュピレータに対抗出来る訳も無かった。

恵理香は二人組を左右のマニュピレータで拘束したまま専用港へ向かったのだった。

「ありゃ珍しい物を捕まえて来たんだね恵理香ちゃん。」

ケイは戻って来た恵理香が左右のマニュピレータで連れて来た者達を見て言う、ちなみに2人は尋常では無いスピードで振り回された為か失神していた。

『私も海の底でネズミを捕まえるとは思っていませんでしたよ。』

恵理香は苦笑しつつケイにそう答える。

『優香、漁師ギルド長に連絡をお願いします。』

そして漁師ギルド本部に居るギルド長に連絡する様に優香に頼のむ恵理香。

「うん恵理香。」

優香が漁師ギルド本部に連絡を取ると、暫くして桟橋にギルド長がやって来る。

あの2人は港の職員達に囲まれうなだれて座っている、ボートの方も漁師ギルド所属の漁場監視用支援艦によって曳航され確保済みだった。

そのボートに連中が密漁した貝が多数あったのは言うまでもない。

「いやあ天使殿、ありがとうございます、島の漁師から相談を受けていてどしたものかと悩んでいましたが、これで万事解決ですな。」

何時もながらの大声に恵理香は頭が痛くなるのを感じながら微笑んで答える。

「いえギルド長、お役に立てて光栄です。」

何か月も前から付近の漁場が荒らされ島の漁師は困っていたらしい、目撃はされていたが高速のボートだった為捕まえる事が出来なかったらしい。

「・・・なるほど強化外骨格とやらのテスト中に、それにしても大した物ですなパーク技師殿。」

「ふふーん、もっと褒めていいんですよギルド長、このケイさんに出来ぬ事などありません!」

「その通りですなわははは!」

結構この2人気が合うんじゃないかと恵理香と優香はその時思ったのだった。

さてここで話が終わっていれば恵理香にとっては良かったのだが・・・実はこの後事態は急展開する。

それは密猟犯逮捕を聞きつけて北方海にあるテレビ局の取材班が駆けつけて来た事から始まる。

彼らは漁業の最前線を取材する為取材中で、密漁の摘発場面があったと聞いては格好の題材と思ったらしい。

それに加え天才技師であるケイの開発した強化外骨格を身に纏って密猟者を捕まえた天使、彼らが更に歓喜し取材を申し込んできたのだ。

ケイが大喜びで受けたのは当然で、恵理香は強化外骨格で海中を舞う姿を撮影されたり、インタビューを受ける羽目になった。

そして後日放送された番組が大好評であったのは当然だが、それに加えケイの開発した海中作業用外骨格が大きな注目を集めた。

海中作業を行う商会やハンターチームなどから問い合わせがギルドに殺到したのだ。

ただ今回の強化外骨格はまだ試作機な為、量産には課題が多かった。

「水噴流エンジンや搭載バッテリーを小型化するのに結構裏技を使ったしね、まあ簡単には出来ないねえ。」

色んな物を詰め込んだ上に、ケイお得意の無茶ぶりが重なって、簡単には量産化出来ない事が分かったのだ。

だから量産化は暫く保留される事になり、この話はここで終わる筈だったのだが、意外な副産物を生む事に繋がって行く。

恵理香が強化外骨格で海中を舞う姿を見た北方海を拠点するアニメ制作会社がギルドにとある企画を持って来たのだ。

それが強化外骨格の操縦者を育成する学校を舞台にした青春群像劇アニメの企画だったのだ。

元々そのアニメ制作会社はそう言った青春群像劇アニメで北方海はもちろん中央や南方海でも有名な会社だった。

その企画に牧瀬商会の会長であり、恵理香の姉である万理華と開発者のケイが賛同し、あっと言う間にアニメが作成される事になったのだ。

だが恵理香にとってもっとも問題だったのは、そのアニメの主人公の事だった。

何と北方海の守護天使である恵理香をモデルにしていたのだ。

これは万理華がアニメ制作会社との交渉の中で持ち掛けた事で、相手側もこれには大きく賛同し、決定したらしいのだ。

もちろん本人にまったく承諾を得ぬままにだ、恵理香が全てを知ったのは放映が決定した後だった。

「すまん二人の暴走を止められなかった。」

レイアがすまなそうにそう謝罪して来た、彼女の知らない間に進められていたらしく、気付いたのは恵理香同様放映決定後だったらしい。

ちなみに万理華とケイの二人がレイアからきついお叱り(制裁?)を受けたのは言うまでもない。

こうしてアニメ『北方海の守護天使』は放映され、北方海はもちろん中央海や南方海でもたちまち大人気作品となった。

それにより恵理香の悩みがまた増える事になったのは当然の帰結だった。

16;50 強化外骨格のテスト終了。

なおその際に密猟者2名を捕獲。

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