第15話「悪魔は再び?」
三式潜航輸送艇みやまの乗員達は今信じられないものと遭遇していた。
ちなみに三式潜航輸送艇とは日本陸軍の潜水艦だった通称まるゆがモデルとなったものだ。
その性能はオリジナルにも劣らなかった・・・悪い意味でだが。
この世界の元になったゲーム内でも使用出来た物だが、余りの使い勝手の悪さから誰も使う者がいなかった奴だった。
一応潜水艦だが潜水するのは非常時だけで、通常は浮上航行を主としていると聞けばどれ程の物か想像出来るだろう。
武装も艦載砲と機関銃のみで魚雷発射管を装備していない所はオリジナルとそっくりだった。
一応トイレはちゃんとした物があり空調装置も完備しているがはっきり言って居住性は最悪でここ北方海では潜れる棺桶と揶揄される艦だった
「センサー間違無いのか!?」
司令塔上で双眼鏡を構えて前方を見ていた艇長が怒鳴る様にセンサー担当に聞いていた。
『間違い無いです!前方1千を進路030で進行中です。』
報告を聞きながら双眼鏡で目標を追っている艇長が呻く。
「と言う事は幻じゃないって訳か・・・たっく冗談じゃねえぞ。」
隣で同じ様に目標を追っていた見張担当が問い掛ける。
「それじゃさっき艇長が言っていた通りなんですか?」
呻いた艇長は双眼鏡を降ろすと溜息を付きつつ答える。
「ああ間違いな・・・信じられね話だがな。」
答えた後艇長はハッチを通って発令所に降りようとしながら言う。
「こんなおんぼろ艇なんぞ一撃でお終いだ、そうなる前に潜って隠れる。」
危険時に潜って姿を隠す、何時もみやまがやる手だ。
「上手く隠れられるんですか?」
「まああいつ次第だな、ほらさっさと潜るぞ。」
艇長の答えに見張りは顔を青くさせながら続いて艇内に降りて行く。
数分後みやまは潜水すると物音を出さない様その場で静かにしていたからか、見向きもされず辛うじて逃れられたのだった。
「それは・・・確実ですか?」
『はっきりと断言は出来ねえ、俺もそいつについては話を聞いた事があるって程度だからな。』
浮上航行していたみやまと洋上で落ち合ったまほろばの艦橋で恵理香は艇長と通信回線を開き話をしていた。
『まあ背中に大きな傷らしいものは見えた、ただそれだから言ってあいつだと確信出来た訳じゃないしな。』
たった一日で数十隻の船を沈めた凶悪さから悪魔と名付けられたシーサーペント。
みやまからそれらしきものを見たとの報告があり、まほろばがギルドからの要請を受けこの海域に派遣されて来たのだった。
特徴は背中にある他のシーサーペントと争った結果出来たと言われる傷跡。
「しかし悪魔は撃破された筈です。」
恵理香は巨大シーサーペント対応で関わっていなかったが、複数の商会によって撃破されたと後に聞かされた記憶があった。
『俺だってそう聞いていたからな、未だに自分の見たものが信じられん。』
結局恵理香はそれが悪魔がなのか確信を得る事は出来なかった。
『とりあえず付近の船舶には警戒する様伝え、ギルドに所属する全商会に対応をする様に要請した。』
みやま乗員からの聞き取りを終え、報告を上げた恵理香にギルド長のレイアが告げる。
『ただこの件でギルドは大混乱だ、誰が責任を取るかでな、まあ牧瀬商会長が抑えている様だが。』
「騒ぎを収めるには悪魔を撃破するしかありませんね・・・本物ならですが。」
未だにみやま乗員の見たシーサーペントが悪魔なのか恵理香は確信を持てなかった。
恵理香の言葉にレイアも同意した様に答える。
『確かにな私も納得出来ていない、兎も角牧瀬艦長には真偽の調査と撃破を要請する。』
「了解しました。」
レイアとの通信を終えた恵理香はまほろばの進路を指示する。
「取り敢えずみやまが目撃した海域へ向かいます、総員警戒態勢へ。」
「悪魔か・・・これかなり厄介な相手だね。」
自分のタブレット端末に悪魔の情報を呼び出して見ていたロベリヤが呟く。
「その悪魔については私も聞いた事があります。」
恵理香の隣に立つ優香が言う。
「かなり凶悪な奴で被害も酷かったと、ケイが話していました。」
撃破されるまで犠牲になった船は10隻に達した、これには戦った商会の駆逐艦も含まれる。
「姉いえ牧瀬商会長も私を戻す様にギルドの商会長達に言われた様ですね。」
北方海の天使が必要だと圧力が凄かったらしいと恵理香は後に聞かされた。
「結局私を呼び戻す前に撃破された・・・と聞いていたのですが。」
「それが違ったと言う事なのでしょうか?」
優香が恵理香に問い掛けるが。
「まだそうだと結論は出せませんね優香、慎重に対処する必要があります。」
優香の問いに恵理香は慎重に答える、まだ断定するの時期早々だと思って。
やがてまほろばはみやまが目撃した海域に到着する。
「これより捜索を開始します、進路及び速力はこのまま、ソーナー及びレーダーの監視を厳重に。」
「「「はい艦長。」」」
指揮所内の各担当達が恵理香の指示を受けてそれぞれの役目を果たして行く。
「艦長!貨客船シーホース号から救難信号です、『我シーサーペントの襲撃を受けつつあり、即救援を願う。』です。」
そして捜索を開始して2時間後、まほろばに救難信号が入って来た。
「座標を操舵担当へ、両舷全速、総員戦闘配置に着いて下さい。」
「座標を確認、進路を変更します。」
「両舷全速。」
操舵担当と機関担当が復唱しもほろばの進路を変更と速度を上げて行く。
「総員戦闘配置に着きました艦長。」
副長が乗員が戦闘配置に付いた事を報告して来る。
1時間後まほろばはシーサーペントの襲撃を受けているシーホース号の元に到着する。
「近すぎますね・・・」
その状況を見て恵理香は呟く、シーサーペントはシーホース号近くにおり攻撃は危険だったからだ。
「前部艦載砲に発光弾を装填し射撃用意を。」
恵理香はシーホース号からシーサーペントを引き離すと為爆発すると強烈な光を発する砲弾を使用する積もりだった。
『前部艦載砲に発光弾を装填し射撃用意に入ります。』
火器管制室からの復唱を聞くとロベリヤがほほ笑みながら言う。
「流石だね恵理香。」
意図を察したロベリヤが称賛すると恵理香は恥ずかしそうに微笑む。
リモートコントロールにより発光弾が艦載砲に装填されてゆく。
『発光弾の装填完了、射撃用意完了。』
発光弾の装填完了の報告を火器管制室が復唱すると前部の艦載砲が旋回し砲身が仰角を取る。
「撃ち方始め。」
『撃ち方始め。』
発射された発光弾はシーホース号とシーサーペントの間でセットされた時限信管の作動により眩しい光を放つ。
正に襲い掛かろうとしていたシーサーペントはその光に怯むとシーホース号から離れて行く。
「シーサーペント急速に離脱して行きます。」
「・・・救難を優先します、進路をシーホース号へ。」
まほろばから離れて行くシーサーペントを見ながら恵理香が指示を出す。
シーホース号の救助中にシーサーペントはもほろばの索敵範囲から消えて行った。
その後救助したシーホース号の乗員を要請を受けて来た商会の駆逐艦に引き渡したまほろばは追跡を再開する。
艦橋内では恵理香達がディスプレーに映し出された先程のシーサーペントの映像を見ていた。
「そこで止めて下さい・・・ロベリヤ?」
「傷が有るね、記録とは一致するけど。」
映し出されているシーサーペントの背面に傷跡があった。
「ですが行動の方は記録と違う様な気がします。」
優香はそう言うと恵理香を見る。
「確かにあの攻撃位で逃げ出しているのは悪魔らしく無いですね。」
同意する様に優香が呟く。
2人の言葉を聞きながら恵理香は考えていた、本当にあれは悪魔なのかと。
「私も2人の言う通りだと思うよ恵理香、悪魔は少々の攻撃など意に返さなかったらしいからね。」
タブレットで記録を見ながらロベリヤが言う。
「兎も角追跡を続行します、例え悪魔では無いにしてもです。」
既に被害が出ている以上恵理香達のやる事は決まっているのだから。
しかし混乱は恵理香の思っている以上に北方海に広がりつつあった。
「付近にある島の漁師ギルドは出漁を取りやめたそうです、あと商船ギルドは航路の安全が確保されるまで出航を拒否するそうです。」
ギルド職員からの報告にレイアと万理華は溜息を付く。
漁師ギルドや船員ギルドからのハンターギルドへの圧は強まりつつあった。
「このままでは流通が停止してしまうな・・・」
「一部の島では食料や燃料の枯渇が起きるかもしれないと言う不安からパニックも起き始めていますね。」
伝わって来る状況は悪化して行くものばかりだった。
「ほろばからは貨客船を救助後追跡に入ったという連絡が有ったきりだ。」
腕を組み眉間にしわを寄せながらレイアは呟く。
「・・・恵理香ちゃんならきっと仕留めて見せますよギルド長。」
その通りだと信じて疑わない万理華の言葉にレイアは苦笑しつつ答える。
「確かに今は牧瀬艦長いや守護天使を信じるしかないか・・・」
「ええだから私達は出来るきことをやりましょう。」
レイアは頷き万理華と共に自身が出来る事を進めるのだった。
「艦長!パーク島から救助要請です・・・シーサーペントが港に接近中との事です。」
追跡を再開したもほろばに予想コース上に有る島から通報が入って来た。
「進路をパーク島へ、両舷全速前進。」
「進路をパーク島へ向けます。」
「了解、両舷全速前進。」
操舵と機関担当が復唱する。
「総員戦闘配置。」
「総員戦闘配置に着け繰り返す総員戦闘配置。」
指示を副長が復唱し艦内アラームを鳴らす。
「全砲塔及び全ロケットランチャー発射態勢へ。」
『こちら管制室、全砲塔及び全ロケットランチャー発射態勢へ入ります。』
優香の指示で艦載砲に砲弾が装填されロケットランチャーが発射体制に入る。
「艦長、シーサーペントを捕捉しました、島まで30キロです。」
ディスプレイを見ていたセンサー担当の報告を聞いて間に合ったと恵理香は安堵の溜息を付く。
「進路を島とーサーペントの間に向けて下さい。」
操舵担当が恵理香の指示でもほろばの進路を島とシーサーペントの間に向ける。
「艦長、予定ポイントに到達しました。」
「進路そのまま打ち方始め。」
もほろばが島とシーサーペントの間に入った事を操舵担当が報告すると恵理香が射撃を命じる。
『艦載砲及び前部ロケットランチャーを左舷へ・・・打ち方始め。』
もほろばの前部と後部の艦載砲と前部のロケットランチャーが左舷側に向けら攻撃が始まる。
『目標に着弾・・・今。』
発射された砲弾とロケット弾がサーペントに降り注ぎ激しい炎と水柱を上げる。
「目標の速度低下しつつも未だ健在です。」
砲弾によって身体の半分を吹き飛ばされながらもシーサーペントはのたうち回りながらまだ生きていた。
「後部ロケットランチャーの攻撃用意は?」
恵理香の確認に間髪を入れず火器管制室から返答が来る。
『何時でもいけます。』
「では打ち方始め。」
『はい艦長、打ち方始め。」
後部のランチャーから8発のロケット弾が打ち出され、先の攻撃で海上でのたうち回っていたシーサーペントに命中し止めを刺す。
「目標の撃破を確認。」
撃破を報告して来た見張りの声を聞いた恵理香が艦長席から立ち上がり左舷見張り所に出ると双眼鏡を向ける。
そして黒く濁った海面と漂う肉片を見て恵理香が命じる。
「戦闘配置を警戒配置に・・・ギルドに悪魔の撃破を報告して下さい。」
恵理香がそう告げると艦橋内に安堵の溜息が広がって行った。
「お疲れ様恵理香。」
ロベリヤが恵理香の傍に来ると声を掛ける。
「ええロベリヤもお疲れ様です。」
微笑みながら恵理香が答えるとそれを見た優香がロベリヤに対抗(?)する様に声を掛けに来る。
「お疲れ様恵理香、流石は守護天使。」
互いに競い合う2人を見て恵理香は苦笑しながらもこれで終わったな感慨深く思うのだった。
「しかし本当に悪魔だったのでしょうかあのシーサーペントは・・・」
もほろばの食堂で恵理香はロベリヤと優香と共に休憩を取っていた。
ちなみに3人共いるのは誰が一緒に恵理香と休憩を取るかで騒動が起きそうになったので乗員達に追い出されたからだ。
恵理香にしてみれば申し訳ないと思うのだが、乗員達にすれば何時もの事なので気にしていなかったが。
そんな中恵理香の前に座って居る優香が紅茶を飲みながらそう問いかけて来たのだった。
「今となってはもう誰にも分からないだろうね、全てが海の藻屑と消えてしまったからね。」
優香と並んで座って居たロベリヤがこちらはコーヒーを飲みながら答える。
「そのお陰で陸の上は未だに騒ぎが収まっていませんね、姉さんとギルド長も後始末に追われているみたいですし。」
コーヒーカップをテーブルに置くと恵理香が溜息を付きつつ話す。
その辺の状況は悪魔撃破を報告後、ギルド長のレイアから連絡が来た時に皆が知る事となった。
『牧瀬商会長が検証委員会を作って調査する言って何とか皆を説得した、正直に言って厄介事を先送りにしただけだがな。』
もほろば乗員達を労った後レイアはうんざりした声で状況を教えてくれたのだった。
「では急ぎますか詳しい報告書を?」
『いや急ぐ必要は無い、牧瀬商会長がその辺は上手くやるだろうさ』
まあ確かに姉なら騒ぐ商会長達を抑えて混乱を収めるだろうなと恵理香はレイアの返答を聞いて確信する。
「恵理香はどう考えているんだい?」
ロベリヤの問い掛けに恵理香は暫し考え込んだ後に答える。
「もしかすると私達は悪魔と言う過去の影に振り回されただけじゃないかと思ってます。」
優香とロベリヤが顔を見合わせる。
「傷についてもただ似ていただけかもしれませんしね・・・あくまで私の考えですけど。」
一連の騒ぎを見て恵理香はどうしてもそう思えて仕方が無かったのだ、自ら作り出してしまった影に怯えていただけではないのかと・・・
「その可能性はあると僕も思うね。」
座席に背を預けロベリヤが呟くと優香もまた頷いて同意を示しすのだった。
14:00 悪魔の掃討を完了。