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北方海の守護天使  作者: h.hiro
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第13話「北方海のロミオとジュリエット?」

密か洋上に小型の漁船が1隻漂流していた。

「駄目だもう燃料がねえ。」

20代前半の男性が操作盤から顔を上げて悔しそうに後ろに居る女性に言う。

「仕方は無いわ、急いで出て来たからで貴方の所為じゃないわ。」

女性はそう言って男性を慰める。

「そうだけどよ、くっそもう少しで中央港だというのにな。」

航法用ディスプレーを見ながら男性は悔しそうに言って海上を見る。

「救難信号を出すしかないか、でも下手をすれば親父達に連れ戻されかねない。」

2人は顔を見合わせて溜息を付く、だがグズグズしていてはシーサーペントに襲われる可能性があるのだから。

「ねえあれって?」

「シーサーペントか?」

その時女性が漁船前方から何かが接近して来る事に気づきそちらを指さす。

それに気づいた男性は操舵室あった手銛を取って甲板にでる。

もちろんこんなものでシーサーペントを相手に出来ないのは男性には分かっていた。

しかし自分の腰に捉まって来る女性を守らないといけないと接近して来る影を睨みつける。

だが男性の悲壮な思いは直ぐに意味が無くなる、接近して来たのが船いや駆逐艦だったからだ。

「ねえこれって?」

「ああ俺達幸運だったかもしれないな。」

艦尾に翻る剣と盾を持った女神が描かれた旗を見て2人は安堵の表情を浮かべ頷きあうのだった。

「艦長、漂流中の漁船の乗員を救助しました・・・若いカップルだそうです。」

連絡を受けた副長が振り向いて報告して来る。

「カップルですか・・・こんな所で何をしていたんでしょうか?」

艦長席に座る恵理香の隣に立って居た優香が不思議そうに呟く。

「まさか愛の逃避行と言う訳じゃないとは思うけどね。」

同じく恵理香の隣に立つロベリヤが冗談半分に言って来る。

「まさかとは思いますが・・・」

この時点でロベリヤの言っていた事が本当だとは恵理香も思っていなかった。

「・・・艦長、先程救助したカップルなんですが、天使と話させて欲しいと言ってるそうですが。」

救助後哨戒任務に戻る指示を出していた恵理香に電話を受け取った副長が報告して来た。

「天使ですか?」

報告を聞いて恵理香は困った表情で答える、大体その名で呼ばれる時はろくでもない事になるからだ。

「分かりました、後をお願いしますね。」

艦橋を出て恵理香は救助した2人がいる食堂へ向かう。

「あ艦長、こちらです。」

食堂に入った恵理香を乗員が呼ぶ、傍の机に並んで座って居る2人が話をしたいというカップルの様だった。

「お待たせしました、牧瀬商会所属まほろば艦長の牧瀬 恵理香です。」

「ああ俺はビーン、こっちはリヤだ、助けてもらって感謝するよ天使様。」

ビーンと名乗った男性が感謝の言葉と共に傍らの女性を紹介する。

「・・・それでお話と言うのは?」

天使様という言葉に苦笑しつつ2人の前に座ると恵理香が聞く。

「クイーン島とクーインズ島の争いを止めて欲しいんだ。」

ビーンとリヤの話によれば、2人の住む島は近い事も有り互いに協力しながら生きていたがある出来事により対立する事になったらしい。

それは両島が半分づつ漁を行っていた漁場の水揚げが大幅に減ってしまったからだった。

「原因をめぐってお互い相手が悪いって言い合いになって、今や一触即発の状態だ。」

溜息を付きつつビーンはリヤを見て続ける。

「俺達はそんな事が無かったら結婚する予定だったんだ、だがこのお陰で引き離される寸前だ。」

「そう言う事ですか・・・」

恵理香はビーンの話を聞いてまるで転生前の世界のロミオとジュリエットの物語みたいだと不思議な気分になっていた。

ちなみにこの世界にはそんな物語は存在していなかった。

「しかし商会としては簡単に介入する訳にはいきません。」

商会としてはシーサーペント対処なら別だが、そう言った漁師同士の争いとなると漁師ギルドの管轄になるからだ。

恵理香の返答にビーンは悔しそうな表情を浮かべ、リヤは両手で顔を覆い嗚咽を漏らし始める。

「艦長・・・」

見ていた乗員がどうにかなりませんかと言った感じで話し掛けて来る。

「取り敢えずマーべリックギルド長を通して漁師ギルドに連絡をしてみましょう。」

問題が漁場であるならばそれが最適だと恵理香は考えたからだ、少なくても牧瀬商会が口を挟むよりは。

「ああ頼む守護天使。」

「お願いします守護天使様。」

必死の表情で訴えて来る2人に恵理香は「天使は止めて欲しい。」と言えずまた苦笑するしかなかった。

数時間後まほろばはクイーン島とクーインズ島の中間海域にある漁場に接近していた。

レイアを通して漁師ギルドに連絡を取ったところ恵理香に漁師ギルド長の代理として争いを収められる権限を委任される事になった。

『天使殿であれば誰も文句は言いません!!』

無線越しでも耳鳴りがする声に恵理香が引きつった表情になったのは大声だけではなく責任を負わされてしまったからだったが。

兎も角ビーンの父親が率いる支部とリヤの父親が率いる支部を順番に回り事情を確認する積もりだったのだが。

「艦長!レーダーに複数の反応が有ります、通常の船舶だと思うのですがどうも様子が変です。」

両島の漁場に入って暫くした頃センサー担当がディスプレイを見ながら報告して来る。

「表示をディスプレイに出して下さい。」

恵理香の指示で艦橋に設置されたディスプレイにレーダーの表示が映し出される。

「・・・これってもしかして。」

「疑いの余地無しですね。」

ロベリヤと優香が表示された画面を見て言うの聞きながら恵理香は苦笑しつつ頷く。

「正に一触即発と言う所ですか。」

ディスプレイ上に双方十数隻の船団が海域の真ん中で対峙している様子が映し出されていたからだ。

「あの2人を艦橋まで連れて来て下さい。」

「はい艦長。」

副長が艦内通話機を通してビーンとリヤを呼び出すと数分後2人が現れる。

「どうやら貴方達の懸念が当たった様ですね。」

2人にディスプレイを見る様身振りで示しながら恵理香は言う。

「・・・ああ当たったみたいだな。」

ビーンは恵理香の言いたい事を察して苦渋に満ちた、リヤは悲しみ満ちた表情になるのだった。

「ドローンを向かわせて下さい。」

まほろばの甲板からドローンが発進し船団が対峙している海域へ向かう。

そしてディスプレイに洋上の様子を映し出す、2組の漁船群が対峙する光景を。

「映像を拡大して下さい。」

ズームアップして一方の漁船群の先頭に居る船が映し出されるとビーンは溜息を付いて言う。

「親父だ。」

続いてもう一方の先頭に居る船が映し出されると今度はリヤが悲しそうに呟く。

「父です。」

そんな2人を見ながらロベリヤが恵理香に聞く。

「それでどうするの恵理香。」

艦長席に座る恵理香は暫し考えると皆に告げる。

「止めます、このままでは死人も出かねませんから。」

何しろ気の荒い連中だ、まともにぶつかり合ったら怪我人だけでは済まないだろうと恵理香は断言する。

「機関半速・・・少々荒っぽくなりますから注意して下さい。」

恵理香のその指示でビーンとリヤ以外の者達は彼女の意図を察していた。

「では行きます。」

洋上で対峙する漁船群の中心にいる船の舳先に立ってにらみ合うクイーン島とクーインズ島のギルド支部長達。

「へっようやくこれで決着をつけられるな。」

「そうだな覚悟は良いかな。」

2人の言葉に両者の漁師達が手銛を構えて相手を睨み遂に激突かと思われた時だった。

「「!?」」

だが突然目の前に船が割り込んで来た為、突撃を指示しようとした2人は動きを止められてしまう。

双方共相手しか見ていなかったので接近して来た駆逐艦に気づけなかった。

「しゅ、守護天使のまほろば!?」

漁師の1人が艦尾に掲げられた旗を見て驚愕の声を上げ、その場に居る全員が茫然とまほろばを見つめる。

誰しもが何故此処に守護天使が今現れたのか分からなかったからだ。

『両漁師ギルド支部の皆さん、争いを止めこちらの指示に従って下さい。』

周囲に響き渡った女性の声に漁師達は顔を見合わせてから自分達の支部長を見る。

「「・・・・・」」

険しい目でまほろば見つめる2人の支部長だったが、彼らに対抗する手段など存在しなかった。

何しろ相手は駆逐艦でしかも北方海の守護天使なのだからだ。

恵理香の警告で両者は引き離された後、両支部長はまほろばに乗艦する様連絡を受ける。

憮然とした表情で迎えのボートに乗せられ2人はまほろばに向かう。

甲板に上がった2人は当然睨み合うのだが、乗員の「艦長がお待ちです。」との言葉と圧に大人しく艦内に入った。

強面の支部長2人だが相手は女性だと言ってもシーサーペントと常に戦っている歴戦の人間達だ。

もちろん支部長2人だって危険な海で生きる者達だが実際にシーサーペントと相対しているまほろば乗員とは年季が違う。

艦内に入った2人はまほろばの食堂に通されると、席に座って待って居た女性の前に立つ。

2人は憮然とした表情を隠そうともせずその女性を見る、相手が女だからとなめてかかっている様だった。

「・・・お座りください、お二方。」

まあ何時もの事なので恵理香は気にしない・・・むしろロベリヤと優香や乗員達の怒りが強い様だが。

「まほろば艦長の牧瀬 恵理香です。」

「クイーン島ギルドの支部長アークだ。」

「クーインズ島の支部長合場。」

2人は憮然とした表情のまま答えるが、それに構わず恵理香は話を始める。

「今回の両島の間に起こっている問題について私が裁定を行います。」

恵理香の言葉に2人は憮然とした表情を怒りに変えて怒鳴ってくる。

「「それは一体どう言う事だ!?」」

対立しているわりには気が合っているなと恵理香は思って苦笑する。

「言った通りですが・・・ちなみに漁師ギルド長から委任を受けています。」

そう言って漁師ギルドから商会を通して送られて来た委任状を見せる恵理香。

「まず配下の漁師達を引かせて下さい、あと原因調査が終わるまで争う事は禁止しますので。」

委任状を見て茫然とする2人の支部長に恵理香は冷静に告げる。

「ちょっと待ってくれどうしてそんな事に、第一これって俺達の頭越しな話じゃないか、納得出来ん!」

アーク支部長が椅子を蹴飛ばす様な勢いで立って恵理香を怒鳴りつける。

「ああ当事者を無視て事だろ、俺も納得出来ん!」

合場支部長は立ち上がらなかったがやはり怒りの表情で恵理香の事を睨みつける。

そんな強面の2人に対し恵理香は落ち着いた表情で話を続ける。

「お2人では解決は望めない・・・漁師ギルド長は貴方達のお子さんからの話で判断されたんです。」

「そ、そんな事認められるか!第一ビーンの奴が何と言おうと・・・」

「まったくだ、リヤがそんな事言うはずが・・・」

その言葉に2人は目を向くと更に逆上した様で、合場支部長も立ち上がって恵理香に反論してきた。

「落ち着いて下さい、これは決定事項です、漁師ギルド長の指示に異論を唱えるのですか?」

冷静な恵理香の言葉に2人は押し黙る。

「決定に従わない場合ギルドからの追放もありえます・・・私にはその決定権も有る事をお忘れ無く。」

2人は茫然とした表情で座り込むが、直ぐに顔を上げて恵理香に迫る。

「息子にビーンに会わせてくれ・・・こいつの娘と居るんだろう。」

「リヤに娘と話を・・・こいつの息子と一緒など許せん。」

そんな2人に恵理香は首を横に振って答える。

「息子と娘さんはそれを望んでいませんので会わせる事は出来ません。」

「俺達は親だぞ!」

「そうだ何の権利があって言うんだ。」

2人は怒りに顔を真っ赤にして言って来るが恵理香はそれに対しても冷静に対応する。

「息子と娘さんは既に成人ですので、2人の意志が優先されます。」

自分達より二回りも違う恵理香の言葉に2人は遂に切れ掴みかかろうとしたが。

音がして構えられるサブマシンガンに2人は動きを止められてしまう。

「船の中では艦長である私の権限が全てです・・・それは2人もお分かりですね。」

船の中では最高責任者の艦長(船長)が全てを支配する、それは2人も知っている、何しろ自分達だってそうしているからだ。

「それではお帰り下さい・・・言って置きますが先程の通達を実行願いますね。」

2人の支部ギルド長は更に憮然とした表情を浮かべながら乗員に案内され自分達の船に戻って行ったのだった。

指示通り漁船群はそれぞれの港に戻っていった、それを見ながら恵理香は傍らに立つビーンとリヤに言う。

「一応貴方達の意志を尊重しましたが、良かったのですか?」

ビーンとリヤは自分達の父親の元に帰る事を事態収拾まで拒んだのだった。

「構わないさ・・・戻れば絶対引き離される、守護天使が言ったとしてもな。」

「はい、私も同じです。」

結局そうなるだろうなとは恵理香も思ったので2人の意志を聞いてその通りにしたのだった。

「・・・それにしてもあの親父をやり込めるなんて流石は守護天使だな。」

感嘆した表情でビーンは言う、最初に会った時の物静かな印象とは違うと思って。

「そうですね、私も父にあそこまで言えた人は母を除き知りません。」

やはり守護天使様だとリヤもビーン同様に感嘆した表情で答える。

そんなビーンとリヤからの畏敬の念の籠った視線に恵理香は居心地が悪くてしょうがなかった。

ちなみにロベリヤと優香、乗員達がその様子を楽しそうに見ていた。

「・・・それでは調査に出発します、総員配置に着いて下さい。」

「「「はい艦長。」」」

「「ああ恵理香。」」

ロベリヤと優香、それに乗員達が楽しそうに返答する光景に恵理香は溜息を付くのだった。

「どうやら原因はここじゃ無いみたいだね。」

2時間後まほろばの発令所でロベリヤは艦橋から海域を見ながら呟く。

ロベリヤの指揮の元海流や餌となるプランクトンなどを調査したのだが、どれも異常は認められなかったのだ。

「となると原因は別の海域と言う事ですかロベリヤ?」

漁場の調査結果をロベリヤから聞いた恵理香が確認して来る。

「そうだね可能性が高いのはこの漁場に向かって来る魚達の産卵場かもしれないね。」

海図台に向かったロベリヤが海図上の産卵場を示しながら答える。

「産卵場で何か異変が起こり結果数が激変したと私は思っているんだ。」

その推測に恵理香達は改めて海図を見る。

「その原因を突き止め回復させれば両島の争いを解決できますね、そうすればあの2人も・・・」

優香はそう言ってホッとした表情を浮かべ言う。

「確かにその通りですが・・・問題はその原因です。」

そう言って恵理香はロベリヤ見る。

「そうだね・・・場合によっては最悪な事も想定した方が良いかもしれない。」

「まさか?」

2人の会話でその最悪の事態を察した優香が不安そうに聞く。

「そう・・・シーサーペントが原因かもしれないと言う事です。」

恵理香の言葉に艦橋内に重い空気が流れるのだった。

「そろそろ目的の海域に到着します、総員戦闘配置に。」

更に3時間後恵理香の指示で艦内にアラーム音が鳴り響き乗員達が配置に着いて行く。

「艦長、総員戦闘配置に着きました。」

「了解です、監視を怠らないようにお願いします。」

ここは大小様々な岩礁が存在する海域なので恵理香は気を抜けなかった。

「艦長ソーナーとレーダーに複数の・・・シーサーペントの反応が!」

前方に大きな岩礁を確認した瞬間センサー担当が報告して来る。

「待機中のドローンを発進させて下さい。」

甲板で待機していたドローンが岩礁上空へ向かい映像を送って来る。

ディスプレイを見る恵理香達、そこには岩礁の周りに居る多数のシーサーペントの姿があった。

「画像を拡大して下さい・・・ロベリヤこれは?」

広がる光景を見てロベリヤは苦虫をかみ潰した表情を浮かべて恵理香に答える。

「ああ・・・間違いなくシーサーペントの繁殖地だね、漁場に魚が来なくなったのはこいつの所為と言う訳だ。」

シーサーペントによってこの海域で誕生した魚達が餌にされてしまったのが今回の原因だと分かった瞬間だった。

「取り敢えず排除します、最早クイーン島とクーインズ島の漁場の問題だけでは済みませんから。」

監視の点で言えばまったくの死角だった海域だ、こんな所で大量にシーサーペントが発生したら被害はクイーン島とクーインズ島だけは止まらないと恵理香。

「艦載砲及びランチャー、特殊ロケット弾も射撃準備を。」

『艦載砲及びランチャー、特殊ロケット弾も射撃準備準!』

恵理香の指示を火器管制室が復唱すると艦載砲とランチャーが旋回し仰角を上げる。

「両舷全速前進。」

「両舷全速前進!」

機関担当の復唱と共にまほろばが岩礁に向って進む。

「シーサーペント3匹がこちらに向かって来ます。」

センサー担当がまほろばに向かって来る3匹のシーサーペントを確認して報告して来る。

「艦首艦載砲及びランチャー射撃開始。」

『艦首艦載砲及びランチャーに目標データ入力良し、射撃開始。』

火器管制室が接近して来るシーサーペント3匹の目標データを入力後射撃を開始する。

まほろばの艦載砲とランチャーから砲弾とロケット弾が発射されシーサーペント達は逃げる事無く吹き飛ばされる。

「左舷より4匹のシーサーペント接近。」

「艦尾艦載砲及びランチャー射撃開始。」

更に押し寄せて来るシーサーペントをまほろばから発射された砲弾とロケット弾が撃破する。

「残りが押し寄せてくる前に叩きます、特殊ロケット弾の準備は完了してますか?」

「はい艦長。」

「面舵一杯。」

火器管制担当の返答を受け恵理香はまほろばを右舷に回答させランチャーを岩礁に向けさせる。

「戻せ、ロケット弾発射!」

舵を戻し疾走しながらまほろばから特殊ロケット弾が発射され一直線に繁殖地に向かって行く。

「目標まで3分。」

ディスプレイ上に繁殖地へ向かって飛翔する特殊ロケット弾の映像が表示されるのを恵理香は静かに見つめる。

「取舵一杯、総員衝撃に備えて下さい。」

まほろが針路を変え離れて行く中乗員達が衝撃に備えて身構える。

次の瞬間繁殖地に火柱が立ちまほろばに激しい轟音と振動が伝わって来た。

やがてそれが収まるとかって繁殖地が有った岩礁は跡形も無く消え去った映像がドローンから送られてくる。

岩礁の周りには爆発に巻き込まれバラバラになったシーサーペントの死骸がディスプレーに映し出される。

「付近に反応は?」

恵理香の問いにディスプレイを確認したセンサー担当が答える。

「付近にシーサーペントの反応ありません。」

艦橋内の張り付詰めた緊張感が薄れロベリヤと優香、乗員達が安堵の溜息を付く。

「これで漁獲量が戻ると良いのですが。」

「直ぐには無理だけど徐々に回復して行くと思うよ。」

ロベリヤは恵理香の呟きに肩を竦めながら言う。

「問題は2島の人達がそれを待てるかですね。」

優香が心配そうに言う。

「まあそれはあの2人に期待するしかないでしょうね・・・取り敢えずも戻りましょうか。」

まほろばはその海域を離れてクイーン島とクーインズ島へ戻って行くのだった。

翌日恵理香は両島の支部長を漁場の中心海域に呼び寄せた。

「・・・繁殖地を処理したので今後漁獲量は回復して行くと思われます。」

ロベリヤが再び食堂に来た2人の支部長を前に自分のタブレット端末を使って説明していた。

「時間はどの位かかるんだ?」

クイーン島支部長が憮然とした表情で聞いて来る。

「予想ですが半年は見て貰わないと、それでも完全に元通りになるかは保証出来ません。」

こればかりは自然に任せるしかない為ロベリヤもはっきりとは言えない様だった。

「ですので両島共に漁獲量を調整して公平に漁をして頂く事になります。」

恵理香がロベリヤの説明を受けて両島の支部長に今後の事について伝える、一応漁師ギルド長と相談して決めた事だった。

「「・・・・」」

2人が不服そうな事は恵理香に内心溜息を付き、考えていた対応の許可を漁師ギルド長に取っておいて良かったと思った。

「言って置きますがこれは漁師ギルドの決定です、違えば処分が下されます。」

「それくらい分かっている。」

「言われるまでも無い。」

だがそう言いながら2人の支部長の表情にはこの後どう決着を付けてやろうかと言う気が満々なのは傍に居たロベリヤと優香にも分かったほどだ。

まあ今回の件は既に終了しており恵理香にはこの後に対しての権限が無いと2人の支部長は考えているのだった。

商会もクイーン島とクーインズ島だけに関わっている訳にはいかないだろう、そうなれば自分達で決着を付けられると。

「分かりました・・・所で今後両島が指示を守っているかを見る為監視役を置きますのでその了承をお願いします。」

「「!?」」

この後の事をどうしようか考えていた2人は恵理香の言葉に驚愕した表情を浮かべる。

「その監視役ですが貴方方のお子さん達であるビーンとリヤのお二方にやって貰います。」

2人のそんな思惑等恵理香はお見通しだった、だから漁師ギルド長に進言し双方の関係者の中から監視役を選ぶ事にしていたのだった。

幸い事に適任者が2人も居る、お互いの島の事を知り、決して自分達に有利な事をしないと分かっている者達が。

「ビーンとリヤには監視と共に今私が持っている権限も移乗されます・・・もちろん漁師ギルド長の許可も得てますので。」

驚愕に表情を凍り付かせながら恵理香を見つめて来る2人の支部長に意地の悪い笑みを浮かべ合図する。

「そう言う訳だオヤジ、漁師ギルドの指示は必ず守って貰うぜ。」

「お父さん、ギルドから除名されれば皆が困りますので是が非でも従って頂きます。」

待機して居たビーンとリヤが座って居る恵理香の後に現れて自分達の父親いや支部長達に告げる。

漁師ギルドの指示であれば2人にはなす術は無かった。

支部長達の思惑は果たされる事は無く2人はただ項垂れてそれを受け入れるしか選択肢しか残されていなかった。

「流石だね恵理香。」

「ええそうですねロベリヤ。」

海域を離れて行くまほろばの艦橋でロベリヤと優香は何時もの如く恵理香を称賛していた。

「・・・全て私がやったと言う訳では無いのですが。」

確かにビーンとリヤを監視役にと提案したのは恵理香だが、彼女一人の力で進んだ訳ではないと思っているのだが。

「しかしあの2人・・・悪いとは思うけど、傑作だったね。」

自分の息子と娘にあそこまで言われ父親としても支部長としても立つ瀬が無いだろうとロベリヤは意地悪く言って笑う。

「まあ将来的には一つのギルド支部になるでしょうね、あの2人が居ればきっと。」

何しろビーンとリヤの母親達を中心にした島の女性達が、今回の事で一致団結して動き始めているからだ。

船の上では怖いもの知らずの支部長達もその猛攻には抗しきれない訳で今更ながら女性の凄さを実感している恵理香だった。

とは言え自分も今はその女性なのだがと内心苦笑を禁じ得ない恵理香は肩を竦めると言う。

「では帰りましょうかロベリヤ、優香。」

「うん恵理香。」

「はい恵理香。」

まほろばは進路を中央港へ取り速度を上げて帰って行くのだった。

13:00 漁師ギルドの依頼完了

・・・なお後日恵理香達の予想した通り両島のギルドは一つになり、結婚したビーンとリヤによって運営される事になった。

支部長を解任された父親達は一船長として島の女性達に尻を叩かれながら漁に励んでいるらしい。

改め女性達は逞しいなと恵理香は思い、元同性として密かに2人にエールを送るのだった。

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