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北方海の守護天使  作者: h.hiro
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第12話「悪夢の島」

卵が割れると中から出て来たのは小さなシーサーペントの幼体、とは言え大きさなら大人の背丈の藻にも匹敵したが。

その幼体の前に成獣のシーサーペントが食料である大型の海洋生物を置くとたちまち食らい付いて行く。

それがあちこちで繰り広げられている、そうここはシーサーペント達の繁殖地。

繰り広げられる光景を見ていた恵理香は溜息を付くと目から双眼鏡で外して呟く。

「地獄の釜の傍らに居るんですね私達は・・・」

「恵理香・・・」

恵理香と共に繁殖地を見ていた優香がその言葉に複雑な表情を浮かべる。

「ロベリヤの所へ戻りましょう・・・私達が餌にされない中に。」

頷く優香と共にその場から離れながら恵理香はここに至る経緯を思い出していた。

現時点より6時間前。

北方海北端の海域を恵理香は優香とロベリヤと共にタイプ11の魚雷艇で移動中だった。

目的は近くにある岩礁の調査の為だ、ちなみにまほろばでは無いのは別の海域で副長の指揮で監視任務に付いている為だった。

「あと1時間程で目的の岩礁ですね・・・ロベリヤ、そちらはどうですか?」

操艇者席に座りディスプレイで航路情報を確認した恵理香がセンサー担当席にいるロベリヤに問いかける。

「今のところ反応は無いよ恵理香。」

ディスプレイを見ながらロベリヤが答える、前回と同じくセンサーを担当している。

もっとも恵理香は出来ればロベリヤを連れて来るつもりはなかったのだが、説得を頑として受け付けなかったのだ、理由は説明の必要は無いだろう。

「機関も問題ありませんよ恵理香。」

それは機関担当席に居る優香だって同様なのだが、「私は慣れてますから。」の一言で同行を決めてしまったのだ。

本来なら専任の人間に恵理香は来てもらう積もりでいたのだが、何時の間にかこの2人が乗り込んで来てしまったのだ。

もちろん何度も説得を試みた恵理香だったが、まったくの無駄であり、最早諦めの境地になる恵理香だった。

ちなみに火器管制が乗って居ないのに運用出来るのは操舵と兼用出来る様にケイが改造したからだ。

どうやらケイは最終的にこの魚雷艇を1人で運用出来る様にするらしいと優香から聞いて恵理香は何処までチートにしたいのかと思った。

「レーダーに反応・・・シーサーペントだよ。」

突然ロベリヤがディスプレイから顔を上げて叫ぶ。

「真直ぐにこっちに向かって来る!」

「機関全開。」

恵理香はロベリヤの報告を聞くと、優香に指示を出す。

「機関全開。」

指示後恵理香は魚雷と主砲の発射準備を始める。

「ロベリヤ、目標との距離と速度は?」

加速された魚雷艇を操りながら恵理香はロベリヤに問い掛ける。

「距離は30、速力は12だよ恵理香。」

ロベリヤの返答と共に航路情報を映すディスプレイに情報が表示され、恵理香はシーサーペントが急速に接近して来る事を確認する。

「魚雷に目標データ入力完了、発射!。」

恵理香が操作し魚雷艇の両舷に装備された発射管から魚雷を放つ。

魚雷の発射を確認した恵理香は魚雷艇を旋回させて離脱しようとしたが。

「!?シーサーペントが真直ぐにこっちに来る。」

シーサーペントは魚雷を避けずそのまま魚雷艇に向かって来たのだ。

次の瞬間激しい衝撃と轟音が魚雷の命中を告げたが、シーサーペントは衝撃で身体がバラバラになりながらも魚雷艇に・・・

「間に合いません!皆衝撃備えて・・・」

自分の叫びと同時に衝撃が起こり魚雷艇が海上を横転しながら吹き飛ばされて行くのを感じながら恵理香は意識を失った。

背中が熱い、まるで熱した鉄板の上に居る様だ、こんなに暑いのは理不尽だと恵理香は思った。

「え!?」

そこで唐突意識が戻り恵理香は起き上がると周りを見渡す。

「恵理香、良かった意識が戻って・・・」

何処かの海岸に居る事を認識した直後恵理香は抱きしめられる。

「優香?」

優香に抱きしめられた事に気付いた恵理香は一瞬恥ずかしさに襲われれるが、直ぐにこうなった原因を思い出す。

「優香、ロベリヤは?」

抱き着ていた優香をそっと引き離し恵理香は問い掛ける。

「無事です、今周りの様子を確認しに行って・・・いくら経っても目を覚まさないから心配しました恵理香。」

目を潤ませながら優香は答える。

「そうですか・・・心配掛けましたね優香、私は大丈夫ですよ。」

立ち上がりながら恵理香は心配そうに見る優香に微笑みながら言う。

「恵理香大丈夫?」

次の瞬間今度はいつの間にか戻って来ていたロベリヤにも抱きつかれる恵理香。

「・・・・」

そして対抗してか再び抱き着て来る優香。

「お願ですから2人共落ち着いて・・・」

3人は今身体にピッタリと張り付いているボディスーツタイプの艦内服の為裸で抱き合っている様に感じて恵理香は非常に恥ずかしかった。

そんな状態で女性3人が暫し波の寄せる海岸で抱き合う事になったのだった。

「つまり私がなかなか目を覚まさなかった、と言う事ですね。」

ロベリヤと優香に落ち着いてもらい(かなり時間が掛かったが)恵理香は状況を聞くことが出来た。

この海岸には3人が一緒に辿り着いたらしいのだが、恵理香だけが何時までも経っても意識を取り戻さなかった。

取り敢えず優香が恵理香を見守っている事になり、ロベリヤは辿り着いたこの島の様子を調べる事になったらしい。

なおそう決めるに関しロベリヤと優香の間でかなり白熱した議論があった事を、恵理香はもちろん知らなかった。

「それでこの島の事は分かりましたか?」

北方海にある島については大概知っている筈の恵理香もここには見覚えが無かった。

「人は住んで居なかった・・・いや住める状況じゃないと言った方がいいね。」

ロベリヤが深い溜息を付きながら答える。

「それってどういう事ですか?」

「・・・そこれは見た方がよく分かると思うよ恵理香。」

意味深な言い方のロベリヤに恵理香と優香は顔を見合わせるのだった。

・・・そして冒頭の場面に繋がる事になる。

入り江にあった繁殖地から恵理香と優香はロベリヤが待っている林の中に戻って来る。

そこには3人と一緒に流れ着いたサバイバルボックスを使って一応休める場所が作られていた。

意外な事に優香とロベリヤは技師と研究者ながらこう言ったサバイバルのスキルと経験を持っていた。

これが恵理香なら艦船乗員として基本的なスキルだから当然だと言えるのだが。

「問題はこれからどうすべきかですね。」

ボックスに入っていたレーションで腹ごしらえを終え3人は今後の事を相談し始める。

「まあ本当なら誰かに救助に来てもらうところですが・・・」

恵理香の言葉に優香が困った表情で答える。

「あの繁殖地が有る限りそれは危険だと思う。」

「そうなるだろうね、下手をすれば僕達だけでなく救助に来た連中もね。」

優香の返答にロベリヤがそう続けて2人揃って深い溜息を付いて見せる。

この島に船舶が接近すれば繁殖地に居るシーサーペント達がそれを見逃す筈は無いからだ。

「・・・だとすれば何とか自力で此処を脱出するしかありませんね。」

危険な点は同じだが犠牲を最小限に出来る可能性があると恵理香。

「もっとも手段が有ればの話ですが。」

するとロベリヤは考え込んでいる恵理香と優香に躊躇いがちに声を掛ける。

「それなんだけどね・、手段は無い事も無いんだ・・・かなり危険な賭けになるけれどもね。」

そんなロベリヤの言葉に恵理香と優香が顔を見合わせる。

ロベリヤの案内で林を奥にある小さな入り江に向った恵理香と優香は、そこに船がある事に驚きの表情を浮かべる。

「先程島を捜索した時に見つけたんだけどね。」

それは小型のクルーザーの様だった、但し一般の船では無い、各部に改造を施された特殊な船。

「何処かのハンターの船だったみたいだね・・・放棄されて大分経っている様だけど。」

取り敢えず恵理香と優香はロベリヤに先導されクルーザーに乗り込む。

「船体の状況は?」

恵理香がロベリヤに尋ねる。

「そちらは専門外だからね、優香に調べて欲しくてね。」

「分かりました、任せて。」

優香は早速船体の点検を始める。

「それ以外に・・・こっちは恵理香に見てもらった方がいいかもしれない。」

ロベリヤがそう言うと船室の一つに恵理香を案内する。

薄暗い部屋の中に乱雑に置かれた木箱の数々。

一つの箱の蓋を外しロベリヤは身振りで恵理香に中身を見る様に促して来る。

「これは・・・武器ですね。」

木箱の中に入っていたのは何丁ものサブマシンガンだったのだ。

それ以外にも携帯式の小型噴進弾発射筒や弾薬類が入った木箱の数々。

どうやらこの船の所有者であったハンターチームの持っていた武器類の様だった。

「確かにこれは私が担当した方が良いですね。」

恵理香はそう言って部屋を見渡しながら溜息を付く。

3人の中で武器類の扱いが出来るスキルを持っているのは恵理香だけだったからだ。

一通り恵理香が武器の確認を終えた頃、優香が船体の点検を済ませて戻って来た。

「船体の損傷は酷くないけど、機関の方は修理が必要な状態よ恵理香。」

点検した結果を優香は教えてくれる。

「それで機関を修理するとしてどの位掛かりそうですか優香?」

結果を聞いた恵理香が優香に質問する。

「2時間程掛かりそう、但し完全な修理は無理だけど。」

どの程度動ける様になるかは修理してみなければ分からないと優香は答える。

「・・・仕方ありませんね、優香お願いします。」

頷くと早速機関室に修理向かう優香、それを見送った恵理香に今度はロベリヤが質問する。

「武器の方はどうだい?」

「問題は無ですね、全て使用可能ですの後でいくつか持ち出しておきましょう。」

役立ちそうな武器を選別出来た恵理香はそう言ってほほ笑む。

「それではブリッジに案内をお願いしますロベリヤ。」

「ああ、こっちだよ。」

ロベリヤと恵理香は2人でブリッジに向かった。

ブリッジに到着したロベリヤと恵理香は機器を点検する。

「通信機は駄目だね、うんともすんとも言わないね、恵理香そっちは?」

溜息を付いてロベリヤが言う。

「・・・レーダーは駄目ですね、航法システムは・・・こっちもですね。」

機器から顔を上げて恵理香も溜息を付く、予想はしていたが思ったより船のダメージは酷い様だった。

「エンジンがやられ、他の機器も駄目になったので放棄したんでしょうね。」

このクルーザーを放棄した理由を恵理香は推測して言うとロベリヤは頷く。

そして2人はクルーザーを放棄した乗員達がどうなったかについては語ろうとはしなかった。

「それではエンジンの修理が終わる前にサバイバルボックスを運び込んでおきましょう。」

ロベリヤと恵理香はクルーザーから降りると、林の中に置いて置いたボックスを運び込む。

そうこうしている中に優香がエンジンルームから戻って来る。

「恵理香、エンジンの修理が終ったけど・・・やっぱり完全には無理だったわ。」

どうやら優香のスキルをもってしても完全な修理は出来なかった様だった。

「仕方がありませんよ、動ける様になっただけでも優香に感謝しなければ。」

気落ちする優香にそう声を掛ける、ろくな設備の無い所で取り敢えず使える様になっただけでも幸いだと恵理香は思うからだ。

「それで恵理香直ぐに出発を?」

ロベリヤの問いに恵理香は暫く考え込んだ後、2人を見ながら言う。

「時間を掛けても良い結果になるか判りません・・・ですので出来るだけ早く脱出すべきだと思います。」

夜になれば多少はシーサーペントの活動は収まるかもしれないが、もし襲われた場合に闇夜では分が悪いと恵理香は考えた。

結局ロベリヤ達も反対する事も無く早期の脱出が決まったのだった。

とは言え出来るだけシーサーペントに気付かれない様、連中が餌を幼生体に与えている時間に脱出する事になった。

「では行きましょうか・・・」

クルーザーは入り江から静かに出て来ると進路を外洋に取る。

操縦するのはもちろん恵理香、そして優香はエンジンを見守り、ロベリヤは見張りに付く。

出来るだけ速力を上げず、と言っても元々それほど出なかったが、島を離れて行く。

「今の所問題無いようですが・・・」

クルーザーを操縦しながら恵理香は呟く、もっともこれで済むとは彼女もロベリヤ達も考えていなかったが。

そしてその予測は恵理香達にとって最悪の形で起こる。

「後方からシーサーペントが接近して来る!」

後方を監視していたロベリヤが叫ぶ。

「速力を・・・優香さん?」

恵理香がクルーザーの速力を上げながら優香に尋ねる。

「10ノットくらいが限界よ恵理香。」

それでは振り切れそうも無いと恵理香は判断する。

「優香一旦操縦を変わって下さい。」

クルーザーの操縦を優香に変わってもらうと恵理香は甲板に出て後方を見る。

そこで恵理香は小型の、それでもこんなクルーザーには脅威だが、シーサーペントが迫って来るの見る。

「恵理香・・・」

後方の監視をしていたロベリヤが恵理香を見る。

「・・・」

何時もならここでロベリヤを安心させる言葉を返したい恵理香だが、今回に限りそれは出来そうもなかった。

このままでは追いつかれるだろう、流石の恵理香も打つ手は考えつけなかった。

だが恵理香はこんな理不尽を到底受け入れられなかった、ここで諦めると言う選択を選ぶ積もりも無い。

だから恵理香は携帯式の無反動砲を持つとシーサーペントに向ける。

「恵理香!?」

ロベリヤが驚いた声を上げる、恵理香が自棄っぱちになったかと思ったからだ。

恵理香は決して自棄になっている訳では無かった、最後まで諦めたくないと言う意志を貫き通うそうとしていたのだ。

動揺する驚くロベリヤを横目に恵理香は無反動砲の照準を合わせると安全装置を外しトリガーを引き砲弾を発射する。

発射された砲弾が鼻先に命中し爆発するとシーサーペントのは急に方向を変えて逃げ出す。

「・・・・?」

そのくらいでシーサーペントが獲物を諦めるなどありえない事を知っている恵理香とロベリヤは顔を見合わせる。

「恵理香一体・・・ああ!?」

ロベリヤは次の瞬間クルーザーの横を通り過ぎるものを見て声を上げる。

もう1匹現れたのかと恵理香がそちらを見るが、幸いな事にそうでは無かった。

クルーザーの横を通り過ぎていったのはまほろばだったのだ。

そしてまほろばからロケット弾が発射され逃げ出そうとしていたシーサーペントは粉砕されたのだった。

「捜索していたらシーサーペントを発見して急行したんですが、まさか艦長達を発見するとは思いませんでした。」

シーサーペントが撃破された後まほろばに収容された恵理香に、副長がそう言って微笑む。

「助かりました副長、あとは繁殖地の方ですね。」

「はいもう間もなく到着します、指揮を交代しますか?」

副長は恵理香がこの後の指揮を執るか確認して来る。

「いえ、そのまま指揮を副長が執って下さい・・・正直言って今立って居るだけで精一杯なので。」

体力的にも精神的にも流石に恵理香も限界だったので、そのまま副長に指揮を取る様に言う。

「了解です・・・でも緊張させられますね。」

緊張した面持ちで副長はそのまま指揮を執る。

「接近中のシーサーペントを確認、2匹です。」

「前部艦載砲射撃用意、あと特殊ロケット弾の発射準備を。」

レーダー担当からの報告を受け副長が命じると前部艦載砲が旋回し砲身が仰角を取る。

『目標データ入力終了。』

「打ち方始め!」

艦載砲が射撃を開始し接近して来たシーサーペントを粉砕する。

「取舵一杯、特殊ロケット弾発射。」

撃破を確認した副長はまほろばを左舷へ舵を切らせ、特殊ロケット弾用ランチャーを繁殖地へ向けさせる。

『目標データ入力よし、発射!!』

副長の指示でランチャーから特殊ロケット弾が放たれ繁殖地に向かって飛んで行く。

「取舵一杯、両舷全速前進。」

発射後副長はまほろばを繁殖地から離脱させる。

『・・・3・2・1・今!』

次の瞬間繁殖が激しい閃光に包まれ、まほろばに振動が伝わって来る。

無人の島に有った繁殖地はこうして消滅したのだった。

航行中のまほろば後部甲板上に恵理香が出て来たのは全てが終わってから数時間後の事だった。

繁殖地攻撃後に恵理香は再び医療室のベットに戻り、今ようやくまともに動ける様になったのだ。

「こちらに居らしたんですね艦長。」

風に当たっていた恵理香に同じ様に甲板に出て来た副長が声を掛けて来る。

「ええまったく今回は酷い目に会いました・・・ロベリヤ達はどうですか?」

副長に振り向き答えた恵理香は、ロベリヤと優香の事を尋ねる。

「2人とも部屋で今も休んでいますね、本当にご苦労様でした。」

恵理香だけでなくロベリヤと優香もまたダメージが酷かったらしく寝込んでいるのだった。

「頼まれても2度と御免ですがねこんな事は・・・」

肩を竦めて言う恵理香、兎も角長い一日はこうして終わったのだと実感しながら。

17:00

無人島の繁殖地処理完了

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