迷子 3-①
「え、エキュスキューズミー!」
力みすぎて声が反響する。残念すぎる発音がわんわんと鼓膜に響いた。
少し間を置いてふたりはふり向く。大声に驚いたそぶりを見せ、小馬鹿にした態度で首を傾げた。意を決して「ウェアリズ、ハインツ?」とたずねる。
「I don't know which way Master Heinrich is. You are Master Mikhail's fiancee, but you don't even know that?」
「I think I might have seen him an hour ago.」
メイドたちは顔を見あわせながら白々しく肩をすくめ、親指を立てて見せた。
「グッド?」
そう聞き返せばメイドたちから失笑がもれる。
ひやりとするような、引っかかれるような。
言いようのない違和感に近い嫌悪が脳裏を這う。
言い返そうと声を出そうとしても、引きつるような痛みがのどを邪魔した。
「アヤ!」
その声にじっとりした息苦しさ消える。
「ミーシャ。診察はもういいの?」
「うん。部屋に戻る途中だよ」
ミハイルは目を細めた。彼の手がそっと腰に添えられる。どきっとしつつも、とても安心した。
「アヤはどうしたの?」
「あの嫌みエス――じゃなくて、ハインツさんを探してて」
「ハインツさんを?」
わずかだがミハイルの声が強ばるも、彩那は一切気づかなかった。
「図書室に行ったんだけど、本棚の字が読めなくてジャンルがわからなくて」
まさか記憶喪失に関する本を探しているとは言えない。ふたりの会話を前にメイドたちはひたすら愛想笑いを浮かべている。
「だったらボクがいっしょに行くよ」
「ありがとう! ミーシャ」
よかった。これで大船に乗った気でいられる。
「それとこの国では親指一本で“1”を表すんだよ」
そう言ってミハイルは親指を立てた。
「え?」
彩那はメイドたちをにらむ。わかっていながら、わざとそうしたにちがいない。彼女たちの笑顔に陰湿さが透けて見えた。
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