迷子 3
「He!」
いきなり背後から威厳のある声が聞こえて彩那はびくっとなった。
「Dies ist eine Kapelle, die nicht betreten werden darf. Bitte nicht betreten oder verlassen.」
ふり向くと年配の執事が険しい顔で立っていた。どうやら開けちゃだめだったらしい。
「そーりー」
微妙な英語発音に彼は困ったような表情だったが、「Bitte seien Sie beim nächsten Mal vorsichtig.」と、たぶんドイツ語で、静かに返してきた。
「Kann ich Ihnen in jedem Fall helfen?」
何を言っているかはよくわからないが、こちらがどこかに行こうとしていると察してくれたらしい。
「え、エキュスキューズミー。ライプラリーウェア?」
つたない英語を彩那は必死にしゃべった。
「Yes. I will take you to the library. This way, please.」
執事が進行方向へと手を向ける。どうにか目的地が通じたらしい。
・・・・・・十分くらい歩き、執事は立ち止まる。
「Here is the library.」
彼はゆっくりと扉を開けた。
――わぁっ
扉の向こうにあったのは図書室というより図書館だった。
お城自体がメルヘンだが、特にここは時間が止まったかのような別世界に思える。厳か、荘厳といえばいいのだろうか。
古い本の、かび臭いような、こもったような独特の香りがする。アーチ型の天井いっぱいに広がる絵画や彫刻像も飾られていて、美術館みたいだ。
――広すぎてここでも迷子になりそう
「Well, I'll leave you to it.」
「サンキューベリーマッチ」
執事は一礼すると退室した。
――おしゃれだなぁ
ずらりと立ち並ぶ飴色の本棚が歴史を感じさせた。ふたたびわくわくしながら歩いていたものの、肝心なことを失念していた。
書架の分類表記もドイツ語らしく、まったく読めない。
――記憶喪失ってドイツ語でなんていうの?
ミハイルに聞いておけばよかったかもと後悔する。【アムネシア】の単語が頭をよぎるも、あれが何語なのかもわからない。
彼以外に日本語が通じるのはハインリヒしかいなかった。彩那はとたんに気が重くなる。しかし読めない文字の前でもんもんとしていても、らちがあかない。
***
――ミーシャの部屋ってどっちだっけ?
図書室を出て五分後。彩那は廊下をさまよっていた。
どっちを向いても同じような通路が続いている。そもそも帰り道すらわからず、とりあえず来た道を戻ってきたつもりだったのだが。
すると偶然、ナディヤとニーナにすれちがった。会釈もせず、つんとした態度で目の前を通過していく。
あまり彼女たちと話したくはないが、他にはだれもいないし背に腹は代えられない。
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