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偽りのアムネシア~王子様とOL~  作者: 幸村 侑樹
【第2章】
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陰 影 2-①

ヒロインが本場のシュトレンを食べる回です(´◉◞౪◟◉)


 不意にもふもふの塊たちは部屋の入り口へと飛んでいく。


「ごろごろしてていいのに」


 ドアが開く音とともに、ミハイルの苦笑まじりの声が降ってくる。


「少し休憩にしよう。アヤはシュトレン食べたことある?」

「あ、クリスマスまで何回かにわけて食べるパンだよね」


 去年クリスマスマーケットで購入したのを思い出す。


 最初は薄くスライスして食べていたのだが、だんだん厚くなっていき、最終的には四枚切り食パンの厚さに。


 結果三日で終わってしまった。


 ミハイルが手にしていた包みをテーブルの上に置く。


 開くと中から粉砂糖をまとったシュトレンが出てきた。ナッツやドライフルーツがぎっしりつまった断面。ブランデーの香りがふわっと鼻をくすぐった。


「おいしそう!」


 と、ミハイルが切り分けようとしたところで重大なことに気づいた。


「食べかけって、いいの?」

「あ、嫌だった?」

「いや、嫌なんじゃなくて。王族の人同士で食べていたものなんじゃないの? わたし部外者だし! さすがにまずいというか」


 いくら表向き婚約者ではあってもただのバイト。他にだれもいないのだし、そこまで親密さのディテール(?)にこだわる必要はないのでは。


「だいじょうぶだよ。ハインツさんにも確認したし」

「え、で、でも」


 逆にあのボディガードにOK出されたとか、よけいにいいのかと心配になってくる。


「どうしても気になるなら、無理に食べなくてもだいじょうぶだよ」


 ミハイルはシュトレンを包み返す。一度は遠慮したものの、芳醇な香りに鼻がもっていかれる。やっぱりおいしそうである。食欲には勝てなかった。


「おいしい!」


 たっぷりの粉砂糖にバターの濃厚な風味。ごろごろつまったドライフルーツの歯ごたえと鼻に抜けるスパイス。どっしりした味だが、あとを引いてしまう。


「好きなだけ食べていいよ」

「いやいやいや! さすがにだめでしょ」


 おかわりを用意しようとするミハイルに彩那はあせった。


「そんなに幸せそうに食べてくれるんだもの」と満足げに微笑まれ、もうひと切れくらい、とお皿を突き出してしまった。


「あぁ、うま~ぁ……これどこのお店の?」

Bäckerei(ベッカライ) Karl(カール)のだよ。老舗だったと思う」

「へえ」


 時折でてくるドイツ語らしき単語。こうやって日本語を話していても、さらりとはさまれる本場の発音に、ほうけてしまう。


「ミーシャ。今朝は雲海を見せてくれてありがとう。アムネシアのミニブーケも。あと引火ローズのブレスレットも。シュトレンまで食べられてクリスマス気分も味わえて、すごくうれしい!」


 無邪気に笑う彩那に、ミハイルは一瞬目を丸くする。


「……どういたしまして」


 その、せつなに浮かんだとまどいをごまかすように彼も笑顔を返した。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


次回更新も読んでいただけるとうれしいです(⋈◍>◡<◍)。✧♡


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