より道
来るんじゃなかった。
よくよく考えれば、クリスマスのイルミネーションなんてデートスポット以外の何物でもない。カップルだらけの並木通りで彩那はひとり棒立ちになる。
きらきらしたものを見れば少しは気持ちが晴れるかと思ったのに。これもアルコールで思考回路がにぶったせいか。どこか浮き足立っている雰囲気なのは、クリスマスシーズンに金曜日という条件が重なったせいだが、一番の要因はうじゃうじゃいるカップルせいだ。
聞くつもりがなくても、仲むつまじい男女の会話が否応なしに耳になだれこんでくる。
それらを祝福するような、とろけるようなはちみつ色の光が寒々しく見えた。冬の澄んだ空気に浮かぶ星のような明かりも、幻想的な光のトンネルも、すべては幸せそうな彼らに向けられたものだ。
ふたりぶんずつ重なって響く靴音や腕を組む袖のすれる音。全身に覆いかぶさる雑音を認識するたびに胸がひりひりする。口の中にも苦さとしょっぱさが広がる。ひがみでしかない一方的な疎外感にますますみじめになった。
『おまえは仕事ばっかだよな。可愛げもないし』
『発案者は経験のある私にしておいたほうが何かと楽だから』
「ふざけんなー! ばかたれー!」
さっきの続きとばかりに、脳内再生された声にまたまた叫んでいた。寒空にすがすがしいほど反響する。酔っぱらいの怒鳴りに通行人もふり返る。
……叫びすぎた
頭がくらくらする。肩を上下させて息を整えていれば、水を差されたカップルたちの冷ややかな視線が浴びせられた。
「やだ、こわーい」
「あんなだから男がいないんだよ」
「酔っぱらい?」
「最悪」
ひそひそと聞こえてくる言葉が、心にぐさぐさと刺さる。バツが悪くなって、彩那は体を揺らしながら道の端へと移動した。
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