雲海 2
「到着だよ」
ミハイル声の先には見渡す限りの雲海が広がる。
「……雲の上に浮かんでるみたい」
幻想的な景色に彩那は息を呑んだ。朝日に照らされた雲が金色に輝き、冷たい夜空が温かなオレンジ色に染まっていく。薄く流れこむ光の帯が紫をまき散らし——透きとおった鮮やかな色彩が迫りくる。
「もしかしてマジックアワー?」
「そう」
正解、とミハイルは微笑う。
「昨日雨だったから、もしかしたら雲海が見られるかもって思ってね。薄明も、うまくいけばって。条件が重ならないとなかなか見られないから、アヤは運がいいよ」
「そうかな?」
ミハイルにほめられると嫌でも気持ちが舞いあがってしまう。
「あと、これはちょっとしたお礼」
そう言ってミハイルは携帯していたバスケットから何かを取り出した。差し出されたのはアムネシアのミニブーケだった。
「え? いや、お礼って。わたしのほうがミーシャにおんぶに抱っこだし!」
そもそも「王宮の温室のバラを切り花にしていいのだろうか?」という心配が頭をよぎる。
ぶんぶんと手をふれば「ちゃんと許可は取っているよ」とミハイルは笑った。
彼にとっては自宅の庭で花を摘む感覚なのだろう。——❝記憶喪失❞という事実にばかりに目が行ってしまって、それが本来の彼にとって正しいかどうかが懸念される。
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