ぐ だ ぐ だ
アイスワインで くだをまくヒロインの回。
「でさぁ~あんのバカ男! “おまえはひとりでも平気だろ“って、ふっるい捨て台詞吐いててさぁ~!」
数十分前までの躊躇する気持ちはどこへやら。すっかりトラ化した彩那は管を巻く。ワインは香りも良く甘口で、ぐびぐび呑んでしまった。
「つーか、基本つきあってる女がってか、恋愛する女がひとりでヘーキとか、どういう基準よ。見た目キツ目だと強いってか? 浮気してたやつがよくゆーわ! は? 仕事人間は仕事外でも鋼鉄だってか? で、仕事張り切りゃ、上司に手柄は横取りされて……出世先払いだとかいいこと並べちゃってさぁ」
アルコールが充満する体内でぐらぐらする精神。まだまだ怒りの感情が山盛りだったらしい。ここ数日間の目まぐるしいできごとも頭の中でぐるぐる回る。
そのせいですっかり忘れてたのに。思い出すのも全部このおいしいワインのせいだと、百パーセントの責任転嫁をして。
「もうとっくに知ってるだろうけど。わたしの行ってた会社ってさぁ~、輸入雑貨の会社で商品開発部にいたんだけど。ショートケーキをイメージした口紅を考えたの。パール系で、苺とホイップクリームがマーブルになったリップの見た目で、あま~い苺ショートの匂いをつけて」
持ち手にも、こだわった。
苺の花と葉っぱに、パイピングをイメージしたエンボス。
とにかく苺のショートケーキと苺っぽさに全力投入した。
新商品会議で反応は上々だったが、コストが掛かりすぎるとのことで幹部は難色を示した。
『スイーツモチーフなんて目新しくもないからそんなに売れないわよ』上司も鼻で笑う中、だめもとでテスト販売がスタートした。
上層部の予想に反してショートケーキの口紅は好評だった。
いよいよ本格的な販売に着手しようとしていた矢先、上司が「元々は自分の発案だった」と言い出したのだ。長年勤めているお局様のため、入社二年目の新人は太刀打できず。
「それでその愚痴こぼせば彼氏とけんか。でぇ、ミーシャと初めて会ったのが、その次の次の日」
大体のことを話し終え、彩那はグラスのワインを飲み干す。
「ばかみたいでしょ? ほんと……」
アルコールが回り始めた脳内では、忌々しい記憶がぐるぐる渦巻いた。
「最初は見向きもしなかったくせに。すぐに食ってかかったわよ。でも、『出世の先払いだと思ってさ』だとよ! 仕事中ネットでブランド物漁りして、スマホでゲームばっかしてるアホに言われたかないわよ! てかあんたのうしろだてがなんのメリットあるっての? どこが強いっての。全部強くなきゃいけないのかよ。鍛えれば愛想つかされ、ふられて、仕事頑張れば、横取りされて……。ほんっとに」
そこまで言うと、不意に彩那は声ををつまらせた。
——なんてみじめなんだろう
溜まっているものを吐き出せば吐き出すほど、そんなことしか出てこない自分自身が一番屈辱だった。怒りのあとに出てきたのは涙で、テーブルにつっぷしながらひたすら垂れ流した。
ふわ、と温もりが頭をなでる。
——ああ、またなぐさめてくれているんだ
ただ黙って、髪をなでてくれるやさしい手に、じりじりした痛みが和らいでいくようだった。
本当にこれじゃあ、どちらがサポートされる立場だかわからない。
これも何度目の反省か。
やさしいからって、ついついミハイルに甘えてしまう。困っているのは彼のほうだというのに。
——でも、ミーシャになでなでされるの気もちいいなぁ
髪を乾かすときも、大事そうに触れてくれて、今も慈しむように労わってくれる。
これも婚約者バイトの特権だと都合のいい理由をつけて。
そのままなでていてほしくて、彩那はじっと動かずにいた。
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