王族であるということ ~伝統と歴史~③
「アヤ?」
挙動不審さが気になったのかミハイルが心配そうに声をかける。はっとなり、彩那はあわてて口を開いた。
「じゃあ、やっぱりゼ―ヴェリング侯爵って、ラウエンシュタイン家専用の爵位ってことでいいの?」
「そうだよ」
適当な確認事項だったものの、答えあわせに正解してちょっと、ほっとする。
ただでさえ縁遠い王族や爵位という仕組みに頭が混乱するのに、独自の決まりや習わしで余計にこんがらがりそうである。
「あ。こういう爵位って領地の名前なんだよね?」
「うん」
聞きかじりの知識を引っぱり出してちょっとだけ胸を張るも、
「あれ? でもミーシャって名字がローゼンシュタインだよね」
公爵領が元になった国なら、他に名字があるのではないか。
「ローゼンシュタインはこの城の名前で、それを祖先が家名にしたのが始まりだよ。十八世紀頃ローゼンシュタイン公国として認可されたんだ」
「へー」
微々たる自信が一瞬にしてしおれる。国の始まり自体がおとぎ話のようである。
「ラウエンシュタイン家の先祖代々の土地って今はどうなってるの?」
「オイゲンが土地を担保に借金をしていたせいで手ばなさざるを得なくなったんだ」
「その借金って、ばらまきに使ったやつ?」
「うん。選挙違反がばれて結果的に身位も財産も失った」
「なんかすごい執念だね」
議員に戻りたいからって買収までやるなんて。でも、ずーっと自分の家がもっていたものを使えなくなるのは、嫌だろうなとも思った。
『不正をおかした一族が伝統ある職位を所持しているのはふさわしくない』
国民も議会も保守派が強く反発したために、ラウエンシュタインは爵位を剥奪されたそうだ。
一時は後任者がゼ―ヴェリング侯爵位を所持していたが、オイゲンの二度目の不正により保守派以外からも反発を招く結果となり——補欠として作られていたネーベルガルト侯爵位が正式な称号になった。
いくら名ばかりでも、不正のイメージがついてしまった称号なんてだれだって願い下げだろう。
わかりやすく説明してもらったが、いろいろカルチャーショックだった。初めて知ることばかりで頭もぱんぱんである。
「ネーベルガルトは“霧の庭”っていう意味なんだ。タイミングがいいと城が雲海に囲まれるから、その情景を引用してるんだよ」
説明のきりがついたところでミハイルがワインを開けた。
「あ、大使館にあった写真?」
「そうだよ」
ちらっとしか見なかったけれど、すごくきれいだった気がする。
「えー、見てみたいなぁ」
グラスに注がれるワインをながめ、彩那はつぶやいた。「なんか本当に童話の世界みたいだよね。ファイルにインカローズのことも書いてあってバラづくしだなぁって」
——王子様にお酌してもらうなんて贅沢すぎない?
「どうぞ」
今さらどぎまぎしつつ、すすめられるまま彩那はグラスを手にとる。
なんだっけ。たしか乾杯でグラスはカチンて鳴らしちゃだめとか。グラス片手にまたも足りない知識を回す。
「気にしないで飲んで」
「いただきます……」
ミハイルの言葉に安心してグラスに口をつけた。
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