王族であるということ ~伝統と歴史~②
——ち、近い
ひとつのファイルをふたりで読むのだから当たり前なんだけれども。襟元からちらつく首筋とか鎖骨に心臓が高鳴ってしまう。彼の美貌にもいい加減に慣れなければ……。
「原則としてはそうなるんだけど、オイゲン・ラウエンシュタインが不正を行ったことでゼ―ヴェリング侯爵位は抹消になったんだ」
「二回も何かやらかしたの?」
煩悩に意識を乗っ取られそうになりながら、どうにか言葉を返す。
「談合と選挙違反だったかな。昔からつきあいのある業者が業績不振になって、入札の際に他の業者に指示して協定を結ばせて……選挙違反は、政界に返り咲こうとして有権者や議員に金をばらまいて」
「へー」
ミハイルは記載内容に目を落としながら、自らの記憶をたしかめるように説明していく。談合に選挙違反。ニュースで見聞きすることはある単語だけれど、庶民の自分には感覚的によくわからない世界だ。しかし処遇が少々厳しすぎるような気もする。
「ラウエンシュタイン家はこの五家の中で、唯一残っている家だから。代々議員を輩出する家柄で地盤も強固なんだよ」
彩那の疑問を察してかミハイルが補足する。
「ふーん」
それでは他の者からしたら不公平だという意見も出てきそうである。
「今は私有財産程度だけど、ラウエンシュタイン家は代々ゼーヴェリング侯爵領を受け継いできたから」
閣僚の名誉称号は、建国当時の貴族五家のもの。その中で唯一残っている家ならば、他の家の人間に使わせたくはないだろう。
そういった矜持も考慮して、ラウエンシュタイン家専用の栄典となったらしい。
「ラウエンシュタイン家は影響力が強いから、公平を期すために一度でも不正をしたら罷免の条件が課されていたんだ」
ミハイルは時折思案気な顔をするも、知識にはすんぶんの欠けもないようだ。
「へー」
——ち、近い
なるべく彼のほうを見ないようにファイルを凝視するも、密着する体温にときどき耳元にかかる吐息、やわらかな毛先にどきどきしてしまう。
説明文をなぞる骨ばった指先からも目がはなせない。
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