innocent ou coupable
『落とされたカトラリーを拾われ、パンを丸かじりされていました』
帰りの車内でダミアンは、メイドたちから聞いた話に皮肉な笑みをもらす。
(マナーもなっていないフィアンセか。パンを丸かじりね)
(本来のミハイル殿下でしたら、ありえないお振舞では?)
(単にあの女を庇っただけだろう。何も知らない庶民のようだしな)
側近の推測をダミアンは一蹴する。
(では、やはり記憶喪失は虚偽であるとお考えですか?)
(おそらくは、あいつの過失で接触した無知な外国人に危害が及ぶのを懸念して、馬鹿馬鹿しい芝居を打ったというところだろう。明確な治療法のない記憶喪失なら、ある日突然治ってもおかしくはない。腕のいい医者もいるしな。主犯を逮捕するまでの時間稼ぎ——といったところだろう。今は愛犬たちとたわむれているそうだ」
ダミアンはスマホの着信メールに失笑する。何かを言いかけ、側近は口をつぐむ。
(どうした? 何か私の耳に入れたいのだろう?)
主にうながされ、ためらいがちに申し述べた。
(今回の、一連の襲撃について、ダミアン様への批判も日に日に増しております)
心象が悪くなれば、選挙戦にも影響する。
(この私をカムフラージュに使うとは、なかなか賢いな)
ダミアンは、くっと愉快そうに口元を歪める。少しでも手を誤れば、失脚も必定だろう。
(仮にも王族を脅迫とは、やはり五家であることは飾りではないか)
(——主犯に関してですが)
(あれは、私には一切関与していない)
***
同じ頃——。
(なぁ、本当に約束守ってくれよ? オレだってぎりぎりなんだからさ)
王城内でルートヴィヒがスマホで通話していた。
懇願する彼に、電話口の相手は赤い口元で微笑んだ。
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