Amnesia-アムネシア- 3
「アムネシアだね」
ミハイルが目の前のバラを見てつぶやく。
「アムネシア?」
「記憶喪失のことだよ」
告げられた言葉の意味に、彩那はどきっとなった。
「このバラは時間が経つと色が変わっていくから。その様子がまるで記憶を塗り替えているみたいだから、そう名づけられたんだって」
だからグラデーションになっているのか。
なんだか他人事のように話すミハイルに、少し切なくなった。
「アヤ?」
「ごめん……なんか嫌な気もちにさせたかな」
「どうして? このバラの名前ってだけだし。こんなにきれいな花と同じなら、ちょっとうれしくならない?」
うつむく彩那に、ミハイルは天真爛漫な声で語る。
「ずっと変わらないままであることも尊いけれど、変わっていくことが悲しいとは思わないよ。アヤと会えたのもいいことだったし、いっしょにすごせて楽しいよ。このバラが色を変えていくのは空と同じで、思い出を重ねていったぶんだけ色があるんだと思う」
頭をぽんぽんと叩かれ、彩那はほっとした。
「大使館にも飾ってあったよね?」
「ティーセットの絵付けもアムネシアだよ」
「やっぱり! 似てるなって思ってた」
じっ、とながめて、その咲き誇る姿を目に焼きつける。
儚げな色は、過ぎ去った時を懐古しているかのようでもあった。
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