Amnesia-アムネシア- 1
「Musashi,Kojiro,komm!」
三十分ほど経ち城内に戻ろうとするも、二匹はディスクの争奪戦に夢中だった。
ミハイルの呼びかけにも応じず、ぼたん雪の降る中、大興奮で跳ねまわっている。おもちゃを返すと遊ぶ時間が終わってしまうとわかっているからだろう。
「戻っておいで!」
彩那も呼んでみるが、こちらへ来る気配はない。そのままさらに遠くのほうへ走って行ってしまった。
「ちょっと見てくる」
小走りで彩那は犬たちを追う。鳴き声をたよりに進むも、ほとんど雪に吸い込まれ——だんだん小さくなり、遠い彼方のものになってしまい、……完全にはぐれてしまったようだ。そして迷子になったらしい。まだどこに何があるかあいまいだし見渡す限りの白銀世界。勝手知ったる自宅の庭である、武蔵と小次郎を相手にすることが、そもそも無謀だった。とりあえず敷地内にいることに変わりはないのだから、と歩いてみることにした。
——神秘的だなぁ
城の外観を見あげながら、つくづくおとぎ話の中にいるようだと思った。
自分の足音以外何も聞こえない。気温が上がったのか、べちゃっとした雪粒が落ちてくる。壁沿いに歩いているから、そのうちどこかにたどりつくだろう——そう考えながら視線を一巡させるとドーム型の温室を発見した。好奇心に駆られ近づくと、アイアンのフレームにガラスがはめこまれていて宝石箱みたいだった。
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