ある意味ニアミス
人気モデルMISHA——高級メゾンの香水の宣伝だった。
色白で女でも嫉妬しちゃうくらいのきれいなお肌に、ゆるやかに流れる金髪がきらきら輝いている。親日家でときどき日本にも来ているとか。
語感から女性と猫をイメージしてしまうが、
——本当に王子様って感じだよなぁ。
特に推しというわけではないけれど、写真越しに放たれるかっこよさに見とれてしまう。
世界の名立たるメゾンやブランドで広告塔を務めてきた貫禄はすさまじい。
彼を起用できれば宣伝効果は桁知らずだ。
「うわぁ……」
どこからか、ぼうぜんとしたようなつぶやきが聞こえた。
もしかして自分のことだろうか。
彩那は肩をすくめてジョッキに残るビールをちびちび飲んでやりすごそうとした。
『緊急速報です!』不意に緊迫した様子の声が鼓膜に飛びこんできた。
『本日午後六時頃、高速道路で玉突き事故がありました。多数の負傷者がいる模様です』
店内に設置されたテレビには、原稿を読みあげるアナウンサーが映っている。……どうやら客の関心は自分ではないらしい。
画面に集中するおじさんたちを見やり、彩那はこっそり安堵した。
時期も時期だしハンドル操作でも誤ったのだろう、なんて、ふわふわした頭で思った。
今年もほぼ残り一ヶ月。
なぜだか追い立てられるような感覚に襲われてしまうものである。年を越しても実際は日付が一日変わるだけで何も変わらないというのに。
テレビ画面からそっと視線をはずし、のどを鳴らして手元のビールを飲みほす。
「すみませーん! ビール中ジョッキおかわりで!」
たった今流れた緊急速報はあわただしい師走のように、さーっとの脳内から走りさっていった。
はい、フラグ回でーす。
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