今日から同じ部屋 2
成人女子ひとりぶんの体重と重力を受け止めたベッドは、トランポリンのように弾んだ。
「なにをなさっているんですか、あなたは」
めずらしくハインリヒがうろたえた声を出した。はなれて待機しているメイドたちも、ほっぺたを引きつらせている。
「なによ。気持ちいいベッドはダイブするためにあるんでしょ」
ミハイルから敬語なしのお願いをされたとき「ハインリヒさんにも敬語はなしでいいよ」と補足されたのでふつうに返してみた。
——そもそもこいつに敬語とか使いたくないし
正直大人としてこの行動はどうなんだと思いつつ、ミハイルの気もちをほぐすのには、これしか思いつかなかった。もっと正直に言えば、巨大なベッドにダイブすることにも、あこがれがあった。
「ミーシャも! 自分が王子かどうか考えなくていいから。とにかくベッドにダイブしてみなよ。気もちいいから」
ベッドをばんばんと叩き、ぽかんとした表情で突っ立っているミハイルを誘う。「あなたは何を言い出すんですか!」とハインリヒが声を荒げる。
「ミハイル様っ、聞きいれなくてよいですから」
そんなボディガードの声をすり抜けるようにミハイルがベッドに飛びこんできた。彩那のときよりも豪快に音を立てベッドが弾む。
「本当に気持ちいいね」
ミハイルは、ごろりと寝返りを打つと彩那に微笑みかけた。真横にあるその顔に、鼓動も、むだに跳ねてしまう。
——なんか恋人っぽくない?
とか思ってしまった。うっかりときめいてしまうのも仕方ないじゃないか。だって、こんなベッドで、いっしょに寝っころがっている状況なんて。
「松田さん」
ハインリヒの怒気を含んだ声に乙女思考が強制遮断される。相変わらずの鉄面皮だが、あきれはてて物が言えないのだろう。
「C'est très bien, M. Heinz. Veuillez le laisser tel quel.」
「……Je suis da’ccord」
不意にミハイルがハインリヒに何かを言った。ふたりの会話の内容はさっぱりわからない。しかしあの嫌みSPがそれ以上何も言わないところを見ると、ミハイルがうまくなだめてくれたのだろう。部屋のすみっこではメイドたちがひたすら愛想笑いを浮べている。彼らの会話内容が意味不明なのは彩那だけではなかったようだ。
——すぐに別の国の言葉が出るなんてすごいなぁ
無意識なのかもしれないが、語学力の高さにあらためて感心していると「ありがとう」とミハイルが片目をつぶってきた。
——うっ。その顔反則すぎ
彩那は頬に熱が集中するのを感じた。これでは嫌でも乙女思考にひたってしまうではないか。
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