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偽りのアムネシア~王子様とOL~  作者: 幸村 侑樹
【第2章】
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書斎会議 1 ~従兄弟~⑥

 高速道路で車外へと脱出したミハイルは、防護柵を越え、人ごみにまぎれて大使館へと向かっていた。その途中、並木通りで「どろぼう!」と叫ぶ声に気づき——案の定、正義のヒーローはしっかり撮影されていた。

 真っ黒づくめスタイルのおかげで”MISHA”とは、ばれずに済んだが、彩那を抱えて疾走したせいで、並木通りから交差点に居合わせた人物のスマホを回収——撮影された画像データをすべて削除——その後返却したのだからハインリヒの苦言は無論だ。

(ずいぶんおもしろいこと、やらかしたんだな。王子様)

 ゴットフリートは煙草を吹かす。

 彩那を介抱中も襲われているのでやむを得ない部分もあったが。

 ミハイルが蹴り飛ばした人物はどろぼう男ともども連行された。しかし発砲してきた人物は捕まっていない。

(並木通りでは僕を狙っていたと思っていたけれど、大使館前ではあきらかに彼女を狙っていた)

 行きずりでも、ミハイルと接触した彩那は人質として利用される懸念があった。だからこそ大使館まで連れて行った。相手の狙いがミハイルならば、彩那をおぶったまま撃てばいい。だが、大使館前では彼女がインターホンを押そうとした瞬間に狙撃された。

 人質にするなら、致命傷にならない部分を狙うだろう。弾道は彼女の頭近くを横切った。(無自覚に手がかりもってんな)そう言ってゴットフリートはスマホで電話をかけた。

(オレだ。至急、松田彩那が映っている防犯カメラの解析をしとけ)一方的に用件だけ投げると通話を切った。

 防犯カメラの映像はミハイルの行動範囲を中心に解析中だが、彩那の行動範囲となるとまた別の角度から調べることになる。

(正直なところ、彼女の身辺保護は日本警察に一任したかったです)

 至極不本意とハインリヒがぼやく。当然ながら捜査権は向こうにある。

 強引に彩那を連れてきたのは、内政干渉を避けるためでもある。

 すべての事後処理をこちらで行う代わりに、日本側には捜査の打ち切りと実行犯たちの身柄引き渡し、報道規制を承諾させた。金で雇われた連中には日本人も数名含まれていた。下手をすれば国際問題にも発展しかねない案件。あちらも波風を立てたくないのだろう。

(スヴェンのやつも、命拾いしたっつぅし。悪運強いよな)

(素直に無事をよろこべ)

 憎まれ口を叩くゴットフリートにハインリヒはあきれる。

 

 ミハイルとハインリヒの脳裏に、緊迫した当時の状況がよぎる。

(おい、ハインツ。となりの車は)

 何かを察知したようなスヴェンの声に車内に危機感が走る。隣車線には黒いセダンがぴたりと横に停車しており——その車の前は一台分ほど空いている。

『おい! もっとつめろよ!』

 うしろの運転手がクラクションを鳴らして怒鳴るも、前進する気配はない。張りつめた空気がただよった直後、最後尾に車が追突した。


(あいつ、体だけは頑丈だからな。帰ってくるときは日本土産でも持ってこいっての)言いつつも、ゴットフリートの目には安堵と怒り——元・部下とディルクへの感情が入り混じる。

(ハインツ。あまり僕の婚約者をいじめないでくれよ)

(お言葉ですが、私は正論を申しあげたまでです)

 ミハイルが悪戯っぽくたしなめるとハインリヒは真顔で反論する。

(そもそも先に足を出してきたのはあちらです)

(それはおまえが意地悪を言うからだろ)

(忠告したまでです)

 重ね重ねのからかいにもハインリヒは固い姿勢を崩さない。

(おまえが、そんなにむきになるということは、我が婚約者と存外馬が合うのかもしれないね)

(……あまりうれしくはないお言葉ですね)

(え、何? ハインツのタイプだった?)

 小さく笑うミハイルと食いつくゴットフリートに、ハインリヒは眉間にシワを寄せる。気を取り直すようにハインリヒはサングラスのブリッジを指で上げた。

(先刻の無用な口だしには、正直肝を冷やしました)

(そのおかげでおまえも口をはさめただろ)

 社交界での礼儀作法という点ではほめられたものではない。ハインリヒが眉をひそめているのは、ふるまいが「場」にそぐわないことよりも相手がダミアンだったことだ。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

次回更新も読んでいただけるとうれしいです(⋈◍>◡<◍)。✧♡


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