一段落
「長旅でお疲れでしょうから、今夜はこちらの貴賓室でお休みください」
案内されたのは貴族が住んでいそうな部屋だった。寝具などは新しいが、家具や調度品は年代物のアンティークのようだ。内装も昔のままらしく古めかしさを感じる。本当に中世にタイムスリップでもしたみたいだった。
「では、ミハイル様は専属医の診察がありますので」
「あ、はい」
さすが王族。お抱え医師がいるのは当然のことだが、あらためて認識するとすごいなと思う。
「アヤ、ナさん……」
退室しようとするハインリヒの横で、ミハイルが不安げな表情をにじませている。はなれることが心細いのだろう。不謹慎だが、きゅんとしてしまった。
「またすぐに会えますから。同じ建物の中にいるんですし、ゆっくり休んでくださいね」
彩那はつとめて明るく返した。知らない場所でそんなことはできないだろうが、せめて彼がちゃんと眠れるようにと願う。ミハイルはまだ腑に落ちないようだったが「おやすみなさい」とぎこちなくも笑った。
「念のため申しあげておきますが、くれぐれも王宮内の備品を破壊なさらないでくださいね」
「はぁっ? 壊すわけないでしょ! 子供じゃないんだから」
「あなたならやりかねないので」
——いちいちいちいち、なんなのこいつは
カチンときてハインリヒに一発蹴りを入れたが、サッとかわされてしまった。
「私はよけられますが、備品はよけられませんので」
ハインリヒの冷ややかな視線が痛い。墓穴を掘ってしまい、彩那は「失礼いたします」とドアが閉まるのを黙って見ているしかなかった。なんであんなのがミハイル殿下のボディガードなんだろうか。さっきの従兄弟だったらわかるが。手もち無沙汰になり、とりあえずソファに座った。
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