王族と庶民
ミハイルの従兄弟登場です。
※ルビが一部表示されないので()内に日本語訳を入れています。
——またスーツ
彩那は顔を引きつらせた。
おそらく真ん中に立つグレースーツの人物以外は、全員ボディガードだろう。
黒いスーツにサングラスのスタイルは、だれがだれだか見わけがつかない。
泥棒男に始まり、嫌みなハインリヒと、その装いには悪い印象しかない。ミハイルが彩那をおろすと、グレースーツの人物は目をうるませ彼に抱きついてきた。
「……Who are you?」
「…… Don't tell me you don't recognize me?」
彩那とハインリヒのことは、まったく目に入っていないらしい。情熱的なあいさつにあっけにとられていると、ハインリヒがそっと耳打ちしてきた。
「ミハイル様のご従兄弟、ダミアン様です。現在おふたりは英語で会話されています」
ということは、このひとにも王位継承権があるのだろう。
顔を真っ赤にしながら涙声で叫ぶダミアンに対し、ミハイルは眉毛がどんどん八の字になっていく。
——なんか、大げさすぎない?
ふだんこんなにストレートに感情を表す光景に出くわさないせいなのか。
「Who is this woman?」
彩那があぜんとしていれば、たった今気がついたかのように、ダミアンがこちらを見やる。
——なんか嫌な感じ
値踏みする眼差しに心底居心地が悪い。無意識に顔がさらに引きつってしまう。
「My fiancée.」
そう言ってミハイルは彩那の肩を抱く。
——フィ、フィアンセって、言ったー⁉
ミハイルの迷いのない言葉に頭が沸騰する。
いくら”仮”でも、はっきり言われるとすさまじい破壊力だ。全身の熱が顔に集まって火が出るかと思った。鼓動もどきどきと激しくなるばっかりで、彩那はいっぱいいっぱいになっていた。
「Fiancee?」
ダミアンはわざとらしく片眉を上げ、小首を傾げる。
「I don't remember anything, but I feel more comfortable having her around.(何も覚えていませんが、彼女にそばにいてもらったほうが気もちが安らぐので)」
会話内容はわからないが、なんとなくミハイルの声が緊張しているように思えた。
肩に置かれた手も強ばっている。ここまでずっと笑っていろいろ助けてくれていたけれど、やはり不安なのだろう。
「あ、ナイストゥミーチュー!」
寒空に、めいいっぱいのカタカナ発音が響きわたった。「Oh, it's an honour to meet you.」と、苦笑しながらダミアンが手を差し出す。
——これどうやってもマナー違反じゃん
彼と握手しながら、彩那は激しい後悔に襲われた。いくらミハイルが困っている様子だったからって、こんなことやっても無意味だろう。かえって彼に恥をかかせてしまった。とにかくやりすごそうと、愛想笑いを浮かべる。
「Mr Damien. I beg your pardon, but Master Mikhail is tired and would like to take you to his private chambers.」
気まずい空気を破ったのはハインリヒだった。
「Yes, I do. Heinrich, look after Misha for me. Welcome to you too, young lady. Take your time.」
するとダミアンは納得した様子で、ふたたび大げさな身ぶり手ぶりで何かを言うと体を退ける。
彼に一礼し、ハインリヒと先達のボディガードは彩那たちを王宮内へと誘導した。
——助かった!
彩那は初めてハインリヒに感謝する。安堵しながら彼らのあとをついていった。
「It is appalling that the prince's fiancee is a commoner.」
ハンカチーフで手をぬぐいながら、ダミアンはつぶやいた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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