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偽りのアムネシア~王子様とOL~  作者: 幸村 侑樹
【第2章】
23/115

王子様と婚約(仮)

とんでない要求がヒロインにつきつけられます。



(わたくし)は、日本(にほん)こく駐箚ちゅうさつローゼンシュタイン公国特命全権大使リュディガー・テオバルト・メッゲンドルファーと申します」

 またもや一度聞いただけでは覚えきれない言葉の羅列とともに上品な男性が、そっと名刺を差しだしてきた。思考停止しつつも、彩那は反射的に名刺を受けとる。仕事柄、取引先と挨拶を交わすことも多いし、この小さな長方形の紙なんて見慣れている——はずなのだが、今、目の前に提示されているそれは、別世界の匂いがただよっているみたいだった。記載されている文字を一字ずつ目で追っていくとその仰々しい敬称が脳内に重くのしかかった。

「こ、ここって……その、ろ、ローゼンシュタイン公国の大使館なんですか?」

 昨夜も表札で確認したし、まちがえようもないが。どもる彩那に大使は「はい」と微笑む。きっと緊張をやわらげようとしてくれたのだろうが逆に恐怖心があおられた。王子様はもちろん、ふつうに生活していたら無縁の世界のひとだ。

——うそでしょ? このひとが王子様なんて

 思わずミハイルのほうを見ると彼はとまどったように首を傾げた。外見が王子様っぽいからってまさか本物だったなんて。

「え? でも、昨日パトリック様って」

「セキュリティ上のコードネームです。また、一般には”MISHA”という呼称のほうが周知されているでしょう」

 そう言ってハインリヒが提示したのは、昨日彩那が購入したものと同じファッション雑誌だった。香水の広告ページにはやわらかく微笑むMISHAの写真が載っている。

——やっぱりMISHAだったんだ

 王子様……。彼への形容を反芻する。まさか本物だったなんて。

「あの、じゃあ、ハインリヒさんは」

「ええ。殿下のボディガードです」

 彩那が言い終わらないうちにハインリヒが答えをかぶせてきた。有名モデルならボディガードがいても当たり前だろうし……だがその彼が王子様なんて関係者以外、だれも思いもよらない。

「じゃあ、ミー……、ミハイル殿下は撮影かプライベートで来日していたんですか?」

「日本での撮影がありましたので」

 王子様が芸能活動なんて危険すぎるのでは——彩那が口をはさむすきもないまま話は進む。

「ご帰国の際、高速道路で玉突き事故に巻きこまれ、殿下は車内で頭部を強打されました。同乗者のボディガードも重傷を負っています」

さっきハインリヒと医師が話していたことだ。そういえば、居酒屋で緊急速報を見たような気もする。

「すでにご存知でしょうが、殿下はご記憶を失くされております。本来ならば一刻も早く本国に戻り、ご静養されていただきたいのですが——Meine(殿下、) Hoheit(本国), gehen() wir() zurück() in() unsere(しょ) Heimat().」

Ich(ボク) bin() kein(王子) Fürst(なんか). Ich(じゃない。) weiß(何も) von(わかり) nichts(ません。). Ich(行きた) will() nicht() gehen().」

 突然切り替えられた言語に、ミハイルは体をびくっと揺らしながらも、何やらつぶやく。

——今なんて言ってたの?

 耳なじみのない言語に彩那は混乱する。彼女にしがみついたままのミハイルに、ハインリヒはあきれたように息を吐いた。

「医師の診察と精密検査も受けましたが、日常生活に必要な知識や技術に異常は見られませんでした」

——いやいやいや。すでに日常生活の能力越えてるでしょ!

 彩那は内心全力でつっこむ。今のは母国語だったのかもしれないが、直前まで日本語を話していたのに。しかも刃物を持った相手まであっさりのしていた。いろいろ驚愕していれば医師が補足する。

「現在、逆光性健忘症に明確な治療法はありません。リラックスしてすごされることが一番有効な手段です」

「このように殿下は我々を警戒し、あなたにしかお心を開かれておりません。そこで、あなたには殿下の婚約者として本国にご同行いただきたい」

「はっ?」

「あくまで”仮”です。冠婚葬祭の代理出席など、この国には親しい人物の代わりをつとめる職種が存在するでしょう。殿下のご記憶が戻られれば契約期間は終了し、報酬をお支払いいたします」

 告げられた要求に、彩那は開いた口がふさがらなかった。たしかにそういう代行バイトがあるのは知っているが、いきなりやれと言われてできるものではない。そもそも、

「どうして婚約者なんですか?」

「王宮には通常、王族関係者以外入城できません。また婚約者であれば、常時行動をともにしていても不自然ではありません」

 つまりそれ相応の身分が必要ということか。

「だからって、ほとんど初対面の相手と婚約なんてできるかっ!」

一方的すぎる言い分に彩那は噛みつく。国によって法律や文化にちがいがあるのは理解できる。特権階級なら、なおさら決まりごとがつきまとうだろう。でも、個人の意思を無視したハインリヒの言動に腹が立った。

「だいたいローゼンシュタインってどこよ⁉」

「スイス、ドイツ国境に隣接し、屋久島ほどの大きさの国土を有しています」

 欧州か。たしかにハインリヒはドイツという感じだ。なかなか首をたてにふらない彩那に彼はため息をつく。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

次回更新も読んでいただけるとうれしいです(⋈◍>◡<◍)。✧♡


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