耳なじみのない言葉はすべて呪文にしか聞こえない。
残念ながらドッキリではないんだよ・・・。
そして呪文?だよ・・・。
「アヤナさんっ!」
呼ばれたと思ったときには抱きしめられていた。「無事だったんですね」心底安堵したような声がささやかれる。存在をたしかめるかのように、大きな手のひらが彩那の背中を往復した。
「な、なんとか」
よかった。無事だったんだ。こうやって本人に触れることができてほっとする。うっかり抱きしめかえしそうになったが、周囲に人がいることを思いだし、ぐっとこらえた。
——よ、よかったけどっ……
ぎゅうぎゅう抱きしめられ、密着する体温に頭がぐるぐるする。心臓もばくばくだった。
「やはり、まちがいないのですか?」
「MRIでも異常は見られませんでした。頭部外傷と精神的負担による逆行性健忘症と思われます」
そんな会話が耳に入る。彩那が声のほうへ体を向けると、ハインリヒと白衣姿の男性が話をしていた——聴診器を胸ポケットに入れていることから医者と思われる。
すると、ハインリヒがあらたまった様子でこちらへとやってきた。
「松田さん。落ちついて聞いてください」
場の雰囲気と彼の威圧感にかまえてしまう。
「この方は、ローゼンシュタイン公国第一王子ミハイル・ピエール=アレクサンドル・ローゼンシュタイン様です」
——……呪文?
ハインリヒの口から発せられた、一度では覚え辛い長い言葉の羅列。彩那はぽかんとなった。
——言うにことかいて……王子様? 何これ。どっきり?
ミハイルの腕の中から身を乗りだし、彩那はきょろきょろした。
「……もしやバラエティー番組の撮影と思われていますか?」
「……そうですよね?」
——たのむ! どっきりだと言ってくれ!
冷ややかな視線を向けるハインリヒを彩那は必死に見つめかえした。そもそも仕かけられる覚えもないのだが。
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