お姫様抱っこ~驚愕1
「えっ?」
気持ちとは反対に体が軽くなる。物理的な重量感は変わらないのだが、宙に浮いているような感じだ。いつも見ている景色よりも視線の位置が高い……草原のような爽やかな香り。ああ、これって鈴蘭の匂いだ——なんて思っている彩那の視界には、金色の毛先がちらちらと踊る。
——⁉
彩那は目を見開いた。目と鼻の先になぜか男性の横顔がある。いつのまにか並木通りのイルミネーションが遠ざかり、なだらかな坂道に移動していた。
——お姫様抱っこ?
脇と膝裏に回された、たくましい腕。男性に抱きかかえられているのだとようやく自覚した。
「Bleiben Siestehen!」
怒号がした直後、また風船が割れるような音がした。同時にあちこちから悲鳴があがる。非日常的すぎる展開にこれは現実なのだろうかと疑いたくなった。混乱する頭でなんとか状況を把握しようと、たった今まで起きたことを思い返す。大衆酒場で飲んだくれて、並木通りのイルミネーションを見に行ったらバッグを盗られて、外国人の男の人が助けてくれて、その助けてくれた人に抱きかかえられて。
——走っている?
どうにか結論を導きだしたものの、そんな彩那を無視して景色はどんどん流れていく。おまけに周囲のどよめきが耳に痛い。男性の体温に包まれながら、走る振動で体が激しく揺さぶられる。カシャ、カシャとシャッター音まで鳴り出して、彩那は亀のようにぐっと首を引っこめた。そのまま一気に大勢の人が行きかうスクランブル交差点を突っきっていく。うつむいていても周囲の好奇の視線を感じた。
——このひと力強いんだなぁ
居心地の悪さを解消しようと、そんなのんきなことを考え始める。やっぱりどこかで見た気がする。目の前にある綺麗な横顔を彩那はじっと見つめた。
「っ!」
上方からまぶしい光が差しこみ、大音量の音楽が響いた。
男性の肩越しに大型ビジョンの映像が流れる。交差点に面したビルに設置されたもので、圧倒的なビジュアルが通行人の視線を集める。やがて映像は高級ブランドのプロモーションに変わった。香水とともにひとりの男性が映しだされる。やわらかな金髪をなびかせ、ヘーゼル色のあたたかい瞳で道行く人々に微笑みかけている。
彩那の脳裏にビールをこぼしたファッション雑誌のことがよぎった。ばっ、と視線を戻せば、目の前にあるのは、まさしく大型ビジョンで微笑むのと同じ顔だった。
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