23. 34歳、38歳
★34才 4月
初めてハジムから手紙をもらった。
少し前に領主であるアダールさんが突然失踪した。ドーナー家は話し合いの結果、妻であるマリアさんが領地に残り、次期領主に指名されたハジムとアダールさんの娘が急遽王都に向かうことになった。
「なんで俺は行っちゃいけないんだよ!?」
「ただでさえ混乱してるのに、補佐まで領地から居なくなっちゃダメだろ? 色々落ち着いたらすぐ戻るから。」
「俺の監視を解く気? アダールさんにずっと監視しろって言われたんだろ?」
「だからその兄さんがいないんだって!」
ハジムが珍しく声を荒げた。アダールさんがいなくなって一番混乱しているのは実はハジムなのかもしれないなと思った。
「・・・いつ帰ってくんの?」
「一ヵ月以内には。」
「長くない?」
「色々面倒くさい動きがあるんだよ。国王陛下にも会いに行かないといけないし、軍部にも色々あるし、警備隊や使用人も動揺してるだろうし・・・この機会に無駄なちょっかいかけてくる奴もいるだろうし。」
ハジムはため息をついた。
「どう考えたって数年かかる。取り合えず向こうで一ヵ月ほど様子を見るよ。その後のことは帰ってきてから話そう。」
疲れた様子のハジムに俺はそれ以上何も言えず、黙って見送ることとなった。
ハジムを見送って数日後、俺は知らない警備隊員にハジムからの手紙を渡された。それを読んだ俺はすぐ馬に飛び乗り、ハジムのいる王都まで走った。慣れない遠乗りで途中馬に怪我をさせてしまい途方に暮れたが、領地から追いかけてきていた警備隊に拾ってもらってなんとか王都にたどり着いた。
ドーナー家の屋敷についた時には、既にハジムは誰かと戦っている最中だった。そして俺が見ている目の前で、ハジムは血だらけになって倒れた。
やっぱりあれは遺書だった。
ハジムに縋りつく俺を引きはがし、医者は懸命に治療してくれた。
目を覚ましたら絶対ぶん殴ってやる。
そう思うのに見たことがないハジムの顔の白さが怖かった。いつもは暖かい手が冷たいことが怖かった。
長い長い夜の後、やっとハジムは目を開けて俺を見た。
「きみはよく泣くねぇ。」
ぶん殴ることはできなかった。
ハジムからもらった手紙は俺がずっと握りしめていたせいで皺くちゃになっていた。そこにはハジムらしからぬ乱れた字でこう書いてあった。
『ちょっと困ったことが起きた
後のことはマリアの指示に従って欲しい
愛してる
ハジム・ドーナー 』
★34才 7月
今やハジムは魔王を倒した国の英雄になった。なんでそんなことになったのかよくわからないが、まあハジムが生きているので良しとする。
ついでに倒されたはずの魔王がまだ生きていて、なぜか一緒に領地の屋敷に住むというのも、もう良しとする。正直説明されてもよくわからなかったし、ハジムがいいというならもういい。知らん。
「ダリッチまだ怒ってるの?」
王都から領地に戻る馬車の中でハジムは言った。右腕に後遺症は残ったが、それ以外はほぼ問題ないぐらいに回復している。
「・・・あの魔王、やっぱりムカつかない?」
「うーん、僕はあの子に対しては腹が立たないんだよねぇ・・・興味が持てないというか。」
「あんたマジで身内以外どうでもいいんだな・・・俺は?」
ハジムはわかっている癖に首を傾げてわからないという顔をした。毎回こうだ。もう問い詰めるのも面倒くさい。
そっぽを向いた俺の手をハジムが左手で握った。ハジムはもう右腕も右手もほとんど動かない、それを見る度あの魔王を殴りたくなる。
「今年の秋祭りで発表しようか。」
ハジムが突然言い出した。
「何を? 結婚? あんなの形式だけだろ、別にやんなくてもいいんじゃない。」
アダールさんに勧められたとはいえ、結婚なんて結局遺産相続で揉めないための制度だ。とくに子どもがいないならやる意味はないと思う。俺は別に金に困ってないし。
「やるよ。ダリッチをドーナー家の歴史に残したい。」
きっぱりと言われて思わずハジムの顔を凝視した。ハジムは真剣な顔をしていた。見つめ合っていることに気付いて、なんとなく照れくさくなってまた目を反らす。
「そっか・・・」
「うん。結婚してくれる?」
「・・・うん」
こっぱずかしくなったので窓の外を見ながらハジムの手を握り返した。
十年、いや初めてまともに喋ってから二十年。やっとハジムが俺を好きだと言った。・・・いや、言ってないか。でもまあ似たようなもんだろ。
ハジムの手を引っ張ってこちらを向かせた。
「愛してるよ。」
ちゃんと顔を見て言ったのにあいつは笑ってこう言っただけだった。
「知ってる。」
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