99 王子様の憂鬱
それから、三人の関係は変わった。
レイノルドが倒れてから、レイノルドとアリアナの間でどんなやりとりがあったのか、エリックは知らない。
けれど、しばらく後の仲直りのためのお茶会で、レイノルドとアリアナが言葉を交わす事はなかった。
アリアナが挨拶した時、レイノルドが一度顔を背けて、それきりだ。
冷えた空気のお茶会。
温かいお茶や、美味しいケーキだってあるのに、アリアナのフォークは、ずっときれいなままだった。
お茶会の間中、アリアナはずっと泣きそうな顔をしていた。
お茶会が終わった後も、レイノルドが帰った後も、アリアナは顔をこわばらせたまま、動けなくなっていた。
手の中に、レイノルドに渡すはずの、小さなハンカチを握りしめたまま。
エリックは、二人きりになった後、アリアナの隣に座った。
爽やかな晴れた日だった。
テーブルの白が眩しかった。
「お茶、どうぞ」
「…………」
エリックは、その場で入れた温かいお茶を、アリアナの前に置いた。
けれど、アリアナの心がほぐれる事はなかった。
返事もなく、泣き出す事もなかった。
「あったかいよ」
「…………」
それでも目の前の可憐な少女が、返事をすることはなかった。
ただ、黙ってティーカップを手に取る。
泣いてもくれなかった。
慰めることもさせてもらえなかった。
俺はずっとアリアナの隣に居たけど、こちらを見てはもらえなかった。
この日、打ち砕かれたのは、アリアナだけではなかった。
木剣を振り回す子供時代は、この日に置いてきた。
レイノルドの代わりでもいいと思ったのはいつだっただろう。
君の王子様になりたいと思ったのは?
自分が君の王子様じゃない事を、残念に思ったのはいつだったか。
それからは、いつだって俺はアリアナのそばにいる事にした。
寂しい時にも、嬉しい時にも。
けれど、どんな感情も、アリアナが俺に分け与えてくれる事はなかった。
ただ、アリアナは、隣にいてくれない誰かの事を、小さく肩で意識するばかりで。
気づいた時には手遅れだった。
もっと早くに、木剣を手放していればよかった。
もっとそばに居て話をしておけばよかった。
君からもらった花冠を、恥ずかしいなんていう理由で投げ捨てなければよかった。
やっとなんだ。
やっと君の秘密を知って、君だけの俺でいられる。
それは、恋や愛じゃなくてもかまわない。
ただ、隣に居る事を許される、唯一なら。
特別な友人ならそれでかまわない。
もう何年もかけて思い知ったから。
君だけの王子様は、どれだけ離れても変わる事はないんだ。
次回までは恋愛展開でお送りします!




