97 秘密の共有者(4)
「前世を見た事がある……」
本当に、こんな場所に。
「これ、どういうことなの」
心臓が、バクバクと波打った。
けど、“見た”という言葉は、確かにアリアナの前世の感覚と似ていた。
“思い出した”ではなく、“知った”ではなく。
確かに、アリアナも、言葉で表すとしたら、“見た”と表現するだろう。
本当に、前世が存在するのかもしれないと思わせる。
「本当に……前世が……」
じっと、その一つの言葉を見る。
まるで、それがなんでもない言葉のように、ただそこに書いてあった。
誰もが当たり前に見かけるありふれた言葉のように。
アリアナの瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。
図書館の床に座り込んだまま、アリアナはただ静かに泣いた。
「左門は、本当に居たかもしれない」
その言葉は、この本を見る以前より、力強い言葉になった。
エリックはそばで、アリアナの涙をそっと指で拭った。
そして困ったように笑う。
「今日はよく泣くね。残念ながら、今はハンカチがなくてね」
エリックのハンカチは、つい先ほど、アリアナが借りたままだった。
アリアナが、エリックに優しい笑みを向ける。
「大丈夫よ。これは、苦しい涙ではないから」
窓からは、もう夕陽が差している。
透き通るような、光の色だ。
部屋の扉がコンコンと鳴り、ジェイリーが入ってきた。
「お嬢様」
そろそろ、帰る時間だという合図だ。
「お、嬢様……?」
ジェイリーが、泣いているアリアナを見て、大慌てで飛んできた。
「どしたどしたどした?」
言いながら、顔や頭をさすってくれる。
「だ、大丈夫。本に感動しただけで」
ジェイリーは、その言葉が本当かどうか見るために、じっとアリアナを見つめた。
アリアナの視線で、どうやら、いじめられた訳ではないことを理解すると、そのままジェイリーは、アリアナの手を握った。
多分、帰ろうって事ね。
アリアナは、立ち上がると、エリックへ向き直る。
「今日は、帰るわね」
「ああ、また」
気を取り直して元気よく、アリアナは図書館を出た。
一人になったエリックは、図書館の奥にある王家の者しか入る事ができない部屋のソファに腰を落ち着けた。
ため息をひとつつく。
アリアナの隣に座る事で、昔を思い出した。
よく、あんな風に芝生の上に座って遊んでいたっけ。
レイノルドも一緒に。
こんな関係になるきっかけの、あの日も。
いつだって、アリアナの隣に居るのは俺だ。
あの日だって。
授業中だって。
今日だって。
それなのに。
俺は、慰める手は持っていても、抱きしめられる手は持っていない。
「どうして……、俺じゃないんだろうな」
図書館の奥にある王家専用の読書室は、お花がいっぱいな明るい部屋です。ふかふかソファ。




