96 秘密の共有者(3)
図書館は、とても大きい建物だ。
王宮の敷地内ではあるけれど、それ自体が大きな神殿か何かのよう。
柱には細工が入り、グレーの絨毯がひいてある。
所々にある椅子一つとっても、どこかの職人の“作品”だとしか思えないものだ。
受付に居た二人が立ち上がり頭をさげる。
先ほどまで泣いていたアリアナも、背筋が伸びた。
図書館の中でも、大きなホールでは数十人の役人が大慌てで記録書を読み漁っていた。
図書館という事もあって全員静かにはしているが、近づくとブツブツと呟く声が聞こえた。
「裏付け……」「暗躍……」
どの人も皆、怪しげな呪文を唱えている。
そんな隙間を縫って、階段を登り、辿り着いたのは子供向けの本が収まっている部屋だ。
中の本棚には、所狭しと教科書や物語などが並ぶ。
「この部屋の本である可能性が高いのだけど」
エリックが、申し訳なさそうに言う。
実際、本は数千冊はあるんじゃないかと思うくらいにある。
「うん、探してみよう」
とはいえ、無闇に手を出すわけにはいかなかった。
エリックは物語じゃないと確信を持っていた。
だから、物語の本は除外してもいい。
それに、記憶にあるくらいだから、幼児の頃ではないはずだ。
何か、勉強で使った本かもしれない。
アリアナは、本棚を眺めていく。
きっと辞書のようなものでもない。
エリックにしか話していない事なので、他の誰かに頼むわけにもいかなかった。
可能性がありそうなところから順番に見ていく。
語学の本、歴史の本、魔術の本。
明るい色の本棚の前。
古めかしい背表紙のついた本を、1冊ずつ丁寧に覗いていく。
本棚の前でパラパラと本をめくっていると、
「アリアナ」
とエリックの声が聞こえた。
振り向くと、床に直に座ったエリックが、その隣を示している。
”ここに座って“という合図だ。
微笑むと、アリアナはエリックの隣に座った。
こんな風に床に座るのは、なんだか昔を思い出させた。
あれほど縮こまっていた心が、少しだけ緩むのがわかった。
二人だけの部屋。
窓の外の音も聞こえず、ただ聴こえるのはページをめくる音のみ。
時間はゆっくりと流れた。
途方もないと思われていたその作業は、思ったよりも早く終わった。
本を探し始めてから2時間後。
「あった」
とエリックが小さく呟く。
ぱっとアリアナが顔を上げた。
それは、人物図鑑だった。
有名な魔術師や発明家、騎士などの、名前、肖像画、そして簡単な説明が載っている。
そこに載っているとあるドレスデザイナーの説明書き。
『トワイズ服飾店の創業者。村での針子業から一念発起。』
それは、肖像画の下に書いてある、おまけのような文章。
そんな文章の最後に、さらにおまけのように書いてある。
『前世を見た事がある。』
詳しくはわかりませんが、デザイナーさんは、前世を思い出してから服飾店創業に乗り出したんじゃないかと思われます。




