95 秘密の共有者(2)
エリックは、ひとつ呼吸をすると、
「あれから、考えてみたんだ」
と、静かに言った。
言葉を探り探り、言っているみたいだった。
「俺は一度、そんな言葉を読んだ事がある」
「え?」
エリックの深い色の瞳が、真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「確かに、“前世を見た”と書いてある本を、読んだ事があるんだ」
「まさか……」
アリアナがまじまじとエリックの瞳を覗いた。
「長い文章を読んだ覚えはないから、多分どこかの一文にあったんだ。けど、間違いなく物語なんかじゃない。確かな文章だ」
アリアナの心臓が、ドクドクと鼓動を打つ。
もし、同じような人がいるとするなら。
それは、前世というものがあることが、事実として今以上に認識できるものとなるんじゃないだろうか。
前世が確固たるものになる。
それは、……左門がこの世に存在した証だ。
自分の命の証。
それは、確認したい気がした。
期待と不安の入り混じる目で、アリアナがエリックの顔を見る。
「王宮の図書館に行けば、本はあるはずだ。もしかしたら、それに関する書物もあるかもしれない」
「王宮図書館に……」
王宮図書館は、王宮内にある図書館のことだ。王家の人間が認める者でないと入ることが許されない秘匿された場所。
とはいえ、実際には、図書館管理を任されている司書が数人常駐しており、吹き抜けの中心に据えられた沢山のデスクには、常に王宮で働く役人が調べものをしているような場所だ。
その利用目的から、歴史書、調査書、学術書などが多いけれど、小さな王子王女が使う側面もあることから、学習資料や娯楽小説なども取り揃えられている。
明るく静かで、それでいて人のいる場所。
それが王宮図書館だった。
アリアナも、これまで入ったことがないわけではない。
語学の授業でわかりにくい文法があったことをエリックの姉のプリシラに言ったところ、図書館に何冊かわかりやすいものがあると連れていってもらったことがある。
「もし、気になるのなら、探しに行こうか?」
そう言ってくれたエリックに、
「ええ」
そう言った瞬間、アリアナの瞳からぱたぱたと涙がこぼれ落ちた。
「あ……」
「アリアナ……」
エリックが、無言でハンカチを差し出す。
真っ白な、ハンカチだ。
「ありがとう……」
ハンカチを、顔に押し当てる。
その瞬間まで、自分でも、それほど不安に思っているとは、思っていなかった。
けど、怖かったんだ。
相手は王家の人間だから、少なくとも異世界の知識で何かしなくてはいけなくなるんじゃないかと思っていたんだ。
もしくは最悪、脅威的なものとして処刑、とか。
どれだけ抑えても涙はぱたぱたとこぼれた。
その間、エリックは、じっと待っていてくれたようだった。
ひとしきり泣いた後、エリックは、優しい眼差しで、
「じゃあ、図書館に行こうか」
と言った。
さすがに処刑はしないよ。




