94 秘密の共有者(1)
それから、しばらくした晴れた日の午後。
アリアナはエリックにまたお茶会の招待を受けた。
この間、色々と打ち明けてしまってからの今日なのできっと何か聞かれるのだろう。
……流石に友達を何かの実験なんかに使ったりする事はないって信じてる……。
まさか魔術師に売られたり、なんて。まさか、ね。
そんな不安を抱えながら、夏らしい水色のワンピースを着た。
流石に縦ロールはもうやめておいた。
馬車で王宮に着くと、通されたのはいつもの庭園ではなかった。
エリックの応接室。
まさかここでお茶を飲むわけでもないだろうし。
アリアナは、茶色の布張りのソファに一人、腰を下ろす。
護衛として一緒についてきたジェイリーは、ソファの後ろに立った。
コチ、コチ、と時計が時間を知らせる。
正直、アリアナは少し緊張していた。
いつも、エリックの友達として会いに来ていたので、案内されるのは大抵は庭園かサロンのようなところで、このキチンとした応接室に案内される事はまずなかった。
あまりにキョロキョロしていると、
「お嬢様!」
とジェイリーから声がかかる。
「はい!」
勢いで返事をすると、ジェイリーが横に座った。
「落ち着いてください。ほら、お茶」
「あ、ありがとう」
ジェイリーが差し出してくれたティーカップを手に取り、くいっと飲み干す。
「ジェイリーは、」
話しかけると、ジェイリーは、居住まいを正すように、手を膝に乗せアリアナに向き直る。
「この間の話、聞いていた?」
「…………」
ジェイリーの顔は、真面目な顔つきになる。
「聞こえなかったですよ」
アリアナが、ジェイリーの顔を見ると、ジェイリーはまた言い直した。
「聞こえなかったです。この命に賭けて」
「そう」
「はい。声は小さかったですから。隣に立っていたメイドも聞こえなかったはずです。ただ……、」
「ただ?」
「とても、真剣な話だという事はわかりました」
アリアナは、じっとジェイリーの顔を見る。
「そう。そうね」
部屋の中は、時計の音だけが聞こえた。
まだ、人の気配はない。
「確かに、私にとっては、とても真剣な話だったわ」
ジェイリーが、真面目な顔つきのまま、優しくアリアナの頭を撫でる。
それだけで、なんだかとても安心した。
ジェイリーがまた立ち上がり、ほっと息をついたところで、コンコン、とノックの音がする。
返事も聞かぬまま入ってきたのは、エリックだった。
「やあ、アリアナ」
「こんにちは、エリック」
立ち上がり、いつも通り微笑みを浮かべると、エリックもいつも通りにアリアナの手の甲にキスをした。
人払いされ、二人きりになった応接室で、エリックとアリアナの二人は向かい合う。
さっきと変わりない部屋のはずなのに。
いつも一緒のエリックと一緒にいるはずなのに。
なぜだかさっきよりも、しんと静まりかえっている気がした。
ジェイリーは優しい笑顔のお兄さんです。




