70 夏旅行!(1)
夏休みが始まってからも、夕立が降る程度で、暑い日が続いた。
そんな、やはり晴れた朝の事。
アリアナは、馬車に乗り込む。
馬車は、アカデミーから借りてきた馬車だ。
荷物は大きなトランク数個。
夏休み中、アカデミー生は、馬車を自由に借りることができる。
自分の領地に帰るために馬車を借りるのもいいし、旅行に行く為に借りるのもいい。
一緒に、公爵家に集まったアイリとシシリーも、馬車へと乗り込む。
今日から、サウスフィールド公爵家の領地へ、視察も兼ねた休暇に行く予定だ。
「一応、視察も兼ねているから、騎士達が訓練合宿をしている場所に泊まるのだけど、いいかしら」
「ええ、もちろん」
「わ、私もご一緒してよかったんでしょうか……」
アイリは少しオドオドしていた。
養子に入ったとはいえ、元平民。それに現在でも子爵家令嬢だ。
少し肩身が狭く思っているのだろう。
「もちろん」
アリアナとシシリーは笑顔でそう応えた。
馬車がガタガタと走り出す。
御者はジェイリー。
それに、公爵家からはオニオン卿が、ノーマン伯爵家からは30歳前後の護衛が一人付いてきている。
「公爵領はここから4時間ほどかかるの。途中でご飯を食べていきましょう」
「いいわね」
「おすすめはここのカツサンドよ」
旅行誌を見せながらアリアナが言う。
「アリアナは、見かけによらずお肉好きよね」
「しょうがないでしょ。剣を振るうとお腹が空くの」
結果、みんなでカツサンドを食べることになった。
店自体はそれほど大きくない、街道沿いの店だ。
王都からはなれているからか、往来がそれほど多くはなく、それだけ店にもお客はいない。
けれど、赤い屋根の可愛らしい木造の店は、なかなかに小綺麗で人目を引いた。
店自体は小さいけれど、店の周りは草原になっており、そこにはいくつものテーブルと椅子が設置してある。
外の席に座ると、広がる視界に雲が流れる姿が見えた。
包み紙を覗くと、大きなカツサンドが見える。
「カツサンドって大きいのね」
シシリーがカツサンドをまじまじと眺める。
「頑張って食べましょう!」
アイリの方は、気合十分のようだ。
アリアナは躊躇なく、カツサンドを頬張った。
「おいし〜〜〜」
目が潤む。
流石に家でもアカデミーでも、こうして肉にかぶりつくわけにはいかない。
公爵領の料理は、騎士達の食料を分けてもらっているだけあって、肉料理も多いのが嬉しいところだ。
横を見ると、年齢もバラバラな騎士3人が、隣のテーブルでやはりカツサンドを食べている。
会話はあるようだが、護衛の仕事中という事もあって、基本的には静かにしている。
微笑ましくも、つい笑ってしまいそうになる光景だ。
「今は、騎士養成学校の夏合宿があるから、アカデミーの知っている人とも会うかもしれないわ」
「ああ、男の子達は、養成学校に入っている人も多いものね」
騎士養成学校は、サウスフィールド家が持っている剣を教える学校の事。
もちろん騎士を志す者も居れば、剣を嗜む程度の貴族の子供達もいる。
平民、貴族関係なく所属している。
アカデミー生は、アカデミーが終わって、夕方から騎士養成学校へ来る。
所謂習い事感覚だ。
夏休みという事もあって、今回はその習い事コースに所属する生徒達の夏合宿が催されている。
視察という名目で、覗きに行ってもいいわね。
夏休み突入〜!
という事で、アリアナ達はまず旅行で夏休みを満喫することにしました。




