69 いつから好きなわけ?(2)
ライトが自室に帰った時、アルノーはソファに座って本を読んでいるところだった。
ライトが正面のソファにぼふっと座る。
「…………」
ライトが物思いにふけったまま、スカーフを外すと、髪は黒からプラチナブロンドに、瞳は黒からペリドットの色に戻る。
毎度、アリアナの部屋から帰ると、何かを反芻するんだろうが、アルノーにはそんなレイノルドが物珍しく思えてしまう。
なかなかないのだ、レイノルドがぼんやりすることなんて。
いつだって、レイノルドは冷めた顔をしていた。
「いつから、アリアナちゃんの事が好きなわけ?」
それは単純に興味本位だった。
まあ、師匠の感情や弱点などは知っておいて損はない。
「…………」
レイノルドは、真面目な顔で座り直すと、おもむろに話し始めた。
そのあまりにも真面目な表情に、アルノーは多少面食らう。
「アリアナとは、幼馴染みでさ。エリックと3人で仲良かったんだ」
レイノルドは、そのまま過去を見つめる目になった。
「よく、お互いの家を訪ねて遊んでた。外で遊ぶことが多かったかな。草の上ではしゃいで、木剣振り回して」
「小さい頃から、そんな冷めた顔ばっかりしてたわけじゃないんだな」
アルノーが少し笑う。
「仲、良かったんだけど。ある日さ、アリアナが木から飛び降りて」
レイノルドは、少し言いづらそうにした。
「その下に、僕が居たんだ……。受け止められなくて」
想像できる。
今でも非力なレイノルドのことだ。
空から女の子が降ってきたら、受け止められずに下敷きになるだろう。
「それで?」
「それで……、アリアナの飛び降りた足が頭にちょうど当たって、脳震盪起こして倒れた」
なんとも可哀想な幼少期だ。
いや、むしろアリアナの足の下に踏まれるのもありなのでは?
「それからしばらく家で安静にしないといけなくなって。アリアナは謝罪に来てはくれたけど、それからしばらく会えなくなった」
レイノルドの手に力が入る。
「その日から、なんか味気なくてさ。誰と一緒にいても、楽しくなくて。それで気づいた。ずっと、アリアナが僕の光だったんだ」
アルノーは、柄にもなくどこか泣きそうになっているレイノルドの顔を見た。
「好きだって気づいて。それから、世界の全てが変わった」
「けど、ずっと疎遠だったよな?」
「うん」
少し暗くしてある光の中、レイノルドは少し寂しそうだった。
「外に出られるようになってから、一度、王宮でお茶会が開かれた事があった。幼馴染み3人で、久しぶりに会う機会だった。僕らの仲直りも兼ねてたはずだった。けど、アリアナと、一言も話せなかったんだ。……話せなくなってた」
「なんで?」
レイノルドが、下を向く。
「意識……しすぎて」
「…………」
アルノーが若干呆れた顔をした。
「で、疎遠になった」
沈黙したアルノーは少し可哀想だと思いながらも、
「…………まあ、初恋は実らないって言うし」
なんて笑ってみせる。
そんなアルノーの言葉に、レイノルドはより一層真面目な顔をした。
「初恋とか……そんな簡単なものじゃない。アリアナ以外要らない」
「ま、アリアナちゃんはハーレムの一員である俺が幸せにしてやるから」
アルノーがレイノルドにドヤ顔を作った。
イラついたレイノルドが顔を上げた時、アルノーがノートを片手に何やら書いているのに気づいた。
「…………?」
その視線を受け、アルノーがノートを掲げた。
『おお、アリアナ!君は僕の光だ!』
「ちょ……!何やってるんだよ!」
「レイノルドのポエム作り、手伝ってやってるんだよ」
「お前……」
『おお、アリアナ!君が居るから、世界は薔薇色!』
師弟関係のこの二人。
アルノーはレイノルドを尊敬してはいるはずです。




