68 いつから好きなわけ?(1)
その夜、アリアナの部屋にはライトがやって来ていた。
約束をしたわけじゃないけれど、今日はライトが来るんじゃないかと思っていた。
あれだけ毎日勉強を見てもらった結果が、今日出るのだと言ってあったからだ。
素性のわからないこともあって、アリアナはライトと何かを約束したことはなかった。
けれど、そうであっても、ライトはアリアナにとって、また会えると信じられるまでの存在になっていた。
ライトはその日、なんだか、顔を合わせた瞬間、少し嬉しそうにしたアリアナの顔を見た。
こんな安心したような顔でアリアナに迎えられるのは何年振りだろう。
あの頃に戻ったようで、ライトも少しだけ笑顔になる。
いつも通り、ライトの目の前には、紅茶が出された。
そして、この日は、紅茶以外にも、小さな苺のタルトが用意してあった。
「これは?」
「最後のお礼よ」
今日来るなんて言っていなかったのに。
わざわざ準備してあった事に、少し感動する。
こんな風にアリアナと過ごす時間は、いつだって夢のようだった。
目の前のアリアナが向ける笑顔は、ライトへのものだということは、わかっている。
わかっているからこそ、こんな風に自然に振る舞える。
まるでそれが、夢の中の出来事のように、素直でいられた。
幼馴染じゃなければ、レイノルドのままでも、これだけ自然に仲良くなれたんだろうか。
今だって、レイノルドのままではあまり上手くは話すことはできない。
もし、出会い直せたなら。
「それで、試験の結果は?」
「上々だったわ」
「それはよかった」
にっこりと微笑む。
けど、アリアナの表情には、どこか暗い影がある。
「実は、」
話し始めたのは、アリアナの方だった。
「負けたくない人がいて」
アリアナが負けたくない人といえば、マーリー・リンドベルだろう。
マーリーには勝ったのに、なんでそんな顔を……。
けれど、アリアナの"負けたくない人"というのは、ライトの予想と違っていた。
「勝てないのはわかってるんだけどね。置いていかれたくないんだと思う」
「…………」
ライトは、今の言葉をよく考える。
「試験で、勝てなかった……?」
少し緊張した声になってしまう。
けれどアリアナは、そんな声のちょっとした変化には気づかなかったようだ。
アリアナは、少し悲しそうな笑顔でライトを見上げて、
「ええ」
と少し切なく笑った。
今回の試験で、アリアナが勝てなかった人物は一人しかいない。
じゃあ、それって、僕のことか……。
負けたくない相手。
置いていかれたくない相手。
自分がアリアナに、こんな顔をさせていることなんて知らなかった。
自分の事で、アリアナの感情が揺らぐことに、どうしても嬉しく思ってしまう。
それが笑顔じゃないのは、少し残念だけれど。
「大丈夫だよ。君は置いていかれたりしない。こんなに君は強いんだから」
アリアナは、その言葉で少し元気になったのか、頬を膨らませて少し拗ねてみせた。
「そうかしら」
「そうだよ」
次回もレイノルドくんエピソードです!




