64 男女合同ダンスレッスン(2)
そんな調子で、前半はステップを確認し、後半はそれぞれが曲に合わせて踊った。
曲は、魔法陣が描かれた蓄音機型の箱から流れている。
本番だったらできないステップの練習や、決まったパートナーではない人とのダンスの練習など、それぞれは気ままに練習した。
実際のパーティーと違って、転んでも立ち止まっても問題がないというのが練習ならではだ。
2日目も、アリアナの前には、丁寧に頭を下げる生徒の姿があった。
「俺と、踊ってくれませんか」
パッと顔を上げたジェイリーの笑顔は、華やかだった。
アリアナはその笑顔に笑顔で返す。
「もちろん!」
いつもダンス練習は、護衛騎士のジェイリーを相手役にしている。
ジェイリーが相手なら、誰よりも気楽で誰よりも気が合う。
ステップの練習も慣れたもの。
二人でダンスを踊るのも、すっかり慣れたものだ。
2日目のホールの中心も、アリアナだった。
二人の息の合ったダンスは、ステップが跳ねすぎてお手本にこそならなかったものの、あまりにも楽しそうに踊るものだから、みんなの注目の的になった。
3日目にも、アリアナの前には一人の生徒が居た。
跪き、恭しくアリアナの手を取る。
手に口付けをした瞬間、何処か遠くから感嘆のため息が聞こえた。
「俺に、あなたと踊る権利をくださいますか」
そう言ったエリックが下から視線を投げかけたものだから、アリアナが「ふふっ」と笑った。
「もちろん、あなたと踊れるのなら光栄ですわ」
音楽が鳴りだし、ダンスが始まると、それは本当に王宮のダンスホールのようだった。
流れるように踊る二人は、流石幼少からマナーや作法、ダンスを叩き込まれただけあって、優雅としか言いようがなかった。
「エリック。あなたまるで、王子様みたいね」
「おや、知らなかった?俺、本当は王子なんだ」
「あら、そうだったのね。どおりでかっこいいと思ったわ」
アリアナがあまりに芝居がかって言ったものだから、エリックが面白そうに笑う。
エリックが顔を近づけて来ると、
「だといいけど。王子様になりたいって。そう思ってたから」
と、耳元で囁いた。
そして、4日目の朝。
深緑色のドレスを着たアリアナがホールの扉の前に立った時、
「んんっ」
とおかしな咳払いが聞こえた。
チラリと見ると、どうやらマーリーのようだ。
見なかった事にしたのだが、その努力も虚しく、マーリーの方から話しかけてきた。
「明日には、試験結果が出るな」
「そうね」
無視するわけにもいかず、返事を返す。
実際、試験結果が出るのは男女合同ダンスレッスン最終日も終わった頃だ。
順位は壁に貼り出される。
「楽しみだ」
「私に勝てるといいわね」
そっけなく返事をする。
けれど、言っている事は本心だ。
公爵家の人間として、できる限り上位にいなくてはならない。
もちろん、今でもその意識はあるけれど。
エリックとレイノルドがアカデミーに入ってきた事で、その義務感も三分の一。
上位に居れば、まあいいかと思う。
「それ、嫌味なのか?」
とはいえ、言葉通りに受け取ってもらえるわけもないか。
「いいえ。本心よ」
二人で、ホールに入る。
「そんなモノが本心でたまるか。……僕より上位に居る自覚を持てよ」
「……それもそうね。まあ、試験自体はもうすっかり終わったものだもの」
そんな事を話している間に、気づけば周りはペアが出来上がってしまっていた。
「…………」
「…………」
アリアナがチラリと見ると、マーリーは決まりが悪い顔で、アリアナをチラリと見たところだった。
そんなこんなでそれぞれと楽しく踊るアリアナなのでした。




