63 男女合同ダンスレッスン(1)
試験が終われば、すぐに夏休みなのだけれど、その前に高等科の生徒には、まだやるべき事があった。
男女合同ダンスレッスンだ。
この週だけは、5日かけて、毎日がダンスレッスンになる。
剣術大会以来の、学年を越えたちょっとしたイベントだ。
アカデミーの大ホール。
3学年ある高等科の生徒全てが揃った。
とはいえ、それぞれ50人前後の学年。
揃っても、200人もいない。
周りを見渡せば、兄のロドリアスや護衛騎士のジェイリーも見える。
いつもの男女別ダンスレッスンではみんな制服姿だけれど、今日は、正式なドレス姿だ。
きちんとしたドレスを着て、正装に慣れなくてはダンスは踊れないからだ。
けれど、どうしても、そんなキチンとした姿に、みんなの気持ちが弾んでしまう。
もちろん、誰もがパーティーという場に出た事のある貴族の子供達ばかり。
それでも、友人達だけで集まるこういう場は、やはり特別なものだった。
パートナーは今日のダンスの練習相手という以上の意味はない。
誘い方も決められていない。
もちろん、女の子の方から誘ってもいい。
それも、毎日違う誰かと組むように言われているものだから、みんな予め決められるものでもない。
けれど、自由に学年を越えて組んでもいいと言われている現状、みんなはどうしてもそれ以上の意味を考えてしまうのだった。
アリアナは、今日はシンプルな赤いドレスを着ていた。
需要の一環ではあるのだから、あまり煌びやかにならないようにしなくてはという配慮だ。
それぞれがそれぞれ、高揚した気分で周りの様子を窺う中、最初に誘いを受けたのは他でもないアリアナだった。
ホールの中央。
相手が大仰に頭を下げ、アリアナの手を取った。
みんなが注目する中で、アリアナは、少し戸惑う。
レイノルドやエリックをはじめとしたアリアナを誘いたかった何人もの生徒達も、相手がその人では仕方がないと、諦めたような顔でその二人を眺めた。
「最初のダンス練習相手に、僕はどうですか?」
ロドリアスは顔を上げ、にっこりと笑う。
「よろしくお願いします」
その笑顔に安心して、アリアナもにっこりと笑った。
兄妹で踊るのは至って普通の事だ。
特に、アリアナのように婚約者がいない者ならば。
とはいえ、アリアナは人前で踊った事がない。
家でのダンス練習も相手はジェイリーなので、ロドリアスと踊る事はそうなかった。
それをきっかけに、パラパラとダンスの相手が決まっていく。
若干、照れながらも、ダンス練習は始まった。
みんなでステップを確認する。
ステップを確認すれば、すぐに実践だ。
ダンスが始まってしまえば、相手が気を許した兄である事に違いはない。
「ほら、アリアナ!ターン!」
クルン!
「お兄様……っ」
「ほら、もう一回!」
クルン!
「お兄様ったら……!」
二人の楽しそうなダンスがホールの中心となった。
ダンス練習の初日は、そんな風に兄妹の笑顔で満たされた。
「…………」
レイノルドは、最後に、アリアナの後ろ姿をチラリと見た。
「アリアナを誘うのは大変そうね」
今日の練習のパートナーだったシシリー・ノーマンが、小さく笑った。
「僕は、アリアナとダンスの練習がしたいわけじゃないから」
「……そうなのね」
「ノーマン。君こそ、誘いたい奴いるんじゃないの?視線が合ってたの、見えた」
「私は……」
シシリーは、言いかけて、言い淀む。
「……アリアナに、勝てるわけないもの」
それを聞いたレイノルドは、何を言うでもなく、小さくため息を吐いた。
ダンスの練習相手ではなく本当のペアになりたいけど、アリアナが誰かと踊るのは複雑な気持ちで見守っちゃうレイノルドくんなのでした。




