62 試験の日(3)
色々な気持ちと共に、試験は過ぎ去って行った。
試験の最後の日は、どの学年もマナーやダンスの試験のみとなっている。
高等科1年生は、まだペアになってのダンスは行われない。
ダンスの授業は、まだお辞儀や男女別のステップの授業だ。
今日の試験も、男女別に分かれての試験だ。
お辞儀から、一人ステップを踏む試験。
ダンスらしくなく少し寂しいが、授業自体、マナー講座を挟んでゆっくりと進んでいる授業なので仕方がない。
担当をしているアイビー夫人はとても丁寧な授業をすることで有名だ。
その分、夏休みに入る前の男女合同のダンス練習期間が何かひとつのイベントのように思えるわけだ。
その後の夏休み、ダンスパーティーがあっても困らないように、という配慮があっての練習期間だけれど。
恋愛重視な高等科の生徒達にとって、ちょっとした男女の出会いの場でもある。
その後の夏休みの過ごし方に直結する重要なイベントだ。
アカデミーの中でも、少し離れた場所にある高等科側の小ホールに、高等科1年の女子が集まった。
窓が大きく、大ホールよりも少し華やかに作られたそのホールは、お茶会をするにもちょうど良く、お茶会のマナーを学ぶ時もここが使われる。
普段はざわざわとした生徒達だったけれど、今日ばかりは静かに並び、佇む。
アイビー夫人は、明るい午前中の光の中で、貴族令嬢達が佇む姿を眺めた。
少し緊張感のあるこの景色を、アイビー夫人は毎年楽しみにしていた。
そこからは、少し騒つく。
アイビー夫人の前に一人ずつ出て、試験を受けていく。
それ以外の生徒は、ひとり、もしくは誰かと組んで、ステップの練習をした。
「ふぅ……」
アリアナが、試験を終え、アイビー夫人の前から戻って来ると、アイリがすでに泣きそうになっていた。
「大丈夫よ、アイリ」
「でも……、足をそろえた後で、右足と左足、どっちから出すかわからなくなるんです」
「一緒にやってみましょう」
「1、2、3……」
とやっていくと、誰もいなかったはずのアリアナの右側にも、女生徒達が並んだ。
気づけば、後ろにも。
「右足は、流れるように動かして。飛び跳ねないように」
「はい」
いつの間にか女生徒達は、試験を終え窓辺でアリアナ達を見守る数人以外は、アリアナの足元を見ながらステップを踏んでいた。
「はい、ターン」
「はい」
何度かステップを踏んだところで、アイリが試験に挑む事になった。
「いってらっしゃい」
「が、頑張ります……!」
アリアナがアイリを見送ると、女生徒達が、
「ありがとうございました」
と、口々に言う。
高等科から入ってきた生徒達は、こんな時でもないとアリアナと会話なんてできないだろうと、ただのお礼であっても必死でアリアナに声をかけた。
「お手柄ね。とてもいい空気になった」
アリアナが一人になったところで話しかけてきたのはシシリーだ。
「そうかしら」
アイリがアイビー夫人の前で、優雅とは言い難くもなんとか合格点なステップを踏んで見せているのを見て、安心する。
陽の光が、クリーム色の石でできた床に、窓の形を映す。
鳥が、小さな枝から飛び立つ。
アリアナは、シシリーの目の前に立った。
跪き、シシリーの手を取ると、シシリーは少し戸惑ったけれど、すぐに悪い気はしないという顔になった。
「シシリー嬢、どうか私と踊ってくださいませんか」
アリアナがシシリーの顔を上目遣いで覗いた時には、シシリーはもう肯定の視線をアリアナに向けていた。
「ええ、もちろん」
二人が立ち上がり、ワルツの格好になった。
緩やかなダンスが始まる。
ただ見つめている者や、つい笑顔になる者、羨ましさを隠しきれずにいる者など、様々だったけれど、一様にみんな、アリアナ達を見ていた。
その光景全てが、高等科初めての試験の終わりを告げているようだった。
アリアナとシシリーは、普段ベッタリしてはいませんが、とても仲良しです。




