60 試験の日(1)
試験は1週間かけて行われる。
週の初日、試験は、数学の筆記試験から始まった。
教室は静まり返り、紙のめくれる音、ペンが走る音だけが、耳に入る。
時間がくれば、全ての用紙が集められ、全員が息を吐く。
アリアナは、ふと左門の事を思い出した。
左門はあまり学校が好きではなかった。
試験というものも。
生徒達が順位付けされ、それによって態度の変わる教師達が、なんとなく好きになれなかった。
けれど、左門だって試験を受けたことがないわけではないし、その中には本気で取り組んだ試験だってあった。
何処の世界でも、試験の雰囲気というのは変わらないものね。
朝から緊張で空気すらも止まっているかのようだった教室は、ひとつの試験を終え、雰囲気が知らされた事で、いささか和らいだようだった。
「アリアナ様、ありがとうございます」
呼ばれて見ると、アイリがちょっと泣きそうな顔をしている。
「大袈裟よ。……私は何もしていないし」
「勉強会開いてくれたじゃないですか!」
アイリが、ドラーグの方をがばっと振り向くと、ドラーグがあからさまにビクッとした。まさか、突然振り向くとは思わなかったのだろう。
「ドラーグ様も」
「…………」
ドラーグは何も言わず、眉をひそめると、
「ドラーグでいいよ」
と投げ捨てるように言った。
遠くで、アリアナを見つけたマーリーが鼻をフンと鳴らすのが見えた。
「次はまた筆記試験ね。次は社会学」
それを聞いたアイリが目をぎゅっと瞑る。
社会学は貴族制の仕組みや貴族とは何たるかなどが問われる学問だ。
平民として暮らしてきたアイリには、確かに馴染みのない学問だろう。
ちなみに、平民であるドラーグもそうなのかと言えば、そうでもない。
平民と貴族、王族を正しく区別し商売をしなければいけない商人として、基本的なことは叩き込まれているようだった。
「1日が終わったら、美味しいものでも食べに行きましょう」
「アリアナ様〜」
アイリが喜びの涙を浮かべる。
「明日の試験勉強も兼ねるのよ?」
「アリアナ様〜」
今度は、少しだけがっかりの混じった喜びの涙だ。
そんなこんなで、初日の試験は終わった。
試験期間は午前中しかないので、試験が終わってもまだ昼だ。
アカデミーでは、友人と気兼ねなく食事ができるというその特性から、学校に残って昼食をとる生徒が多い。
もちろん、大半は試験勉強を兼ねている。
「アリアナ」
気軽に声をかけてきたのはアルノーだった。
後方から、レイノルドもアルノーの後を追ってツンとした顔でこちらに来ていた。
「アルノー、こんにちは」
「今日も勉強?」
「ええ」
アリアナは、今日は草原の木陰にシートをひいていた。
もちろん、アイリとドラーグ、それにシシリーとエリックも一緒だった。
アルノーとレイノルドは、昼食のバスケットを持っている。
「どうぞ」
座る場所を開けると、二人が仲間に入ることになった。
気づけば7人という大所帯だ。
最近は、アルノーと話せるようになってきたし、レイもそんなに意地悪じゃないから大丈夫かな。
その日から、試験期間の昼食は7人でとることになった。
公爵家の人間に、王子まで加わり、昼食をとりながら頭を突き合わせている状況は、少しだけ滑稽だ。
けれど、それが、アカデミーの魅力でもあるのだ。
一緒に昼食を食べられることになりましたが、レイノルドくんはそれほどアリアナと喋れてはないんじゃないかな〜。




